恩田 陸作品のページ No.



21.蛇行する川のほとり

22.まひるの月を追いかけて

23.Q&A

24.夜のピクニック

25.夏の名残りの薔薇

26.「恐怖の報酬」日記

27.小説以外

28.蒲公英草紙−常野物語−

29.エンド・ゲーム−常野物語−

30.チョコレートコスモス


【作家歴】、六番目の小夜子、球形の季節、不安な童話、三月は深き紅の淵を、光の帝国、象と耳鳴り、木曜組曲、月の裏側、ネバーランド、麦の海に沈む果実

→ 恩田陸作品のページ bP


上と外、puzzleパズル、ライオンハート、MAZE、ドミノ、黒と茶の幻想、図書室の海、劫尽童女、ロミオとロミオは永遠に、ねじの回転

→ 恩田陸作品のページ bQ


中庭の出来事、朝日のようにさわやかに、猫と針、不連続の世界、きのうの世界、ブラザー・サン シスター・ムーン、六月の夜と昼のあわいに、私と踊って、蜜蜂と遠雷、祝祭と予感

→ 恩田陸作品のページ bS


ドミノin上海、スキマワラシ、なんとかしなくちゃ。青雲編、spring

→ 恩田陸作品のページ No.5

   


   

21.

●「蛇行する川のほとり1〜3」● 

  
蛇行する川のほとり画像

2002年12月
2003年04月
2003年08月

中央公論新社刊
(各476円+税)

2004年11月
中央公論新社
単行本(1冊)化

2010年06月
集英社文庫化

2003/09/07

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3部作として3回に分けて刊行された、少年少女たちのミステリ・ストーリィ。
しかし、何故“3部作”なのか、理解し難い。
各巻でストーリィが異なる訳でなく、特別に長いという訳でもない。精々語り手となる少女が変わる程度のこと。
むしろ、3回に分けて刊行された分、興味が分散され薄らいでしまった、という思いが強い。

第1巻の語り手は、高校生の毬子。
憧れの上級生、香澄と芳野の2人に誘われ、毬子は演劇祭用の舞台背景を書くため、香澄の“船着場のある家”に合宿することになります。2人の友人である暁臣、月彦も合宿に加わってきます。
ごく普通の高校生生活のように思えるものの、上級生2人には毬子に隠した意図があるらしい。そして、男子2人もまた、各々何らかの意図をもっているらしい。第1巻は、物語のプロローグに過ぎません。
第2巻の語り手は、芳野。
香澄の母親と暁臣の姉・宵子の死という過去の事件、5人がそれらの事件に何らかの関わりをもっていることが明らかにされます。
第3巻では、毬子の友人・真魚子が語り手となって、過去の事件の謎が漸く明らかにされるというストーリィ構成。

読み終えてみると、前に読んだ内容・印象を忘れてしまっていることもあって、結局何だったのか、というのが正直な感想。

 

22.

●「まひるの月を追いかけて」● 


まひるの月を追いかけて画像

2003年09月
文芸春秋刊
(1600円+税)

2007年05月
文春文庫化


2003/11/13

恩田作品はもう卒業しようか、と思っていたにも拘らず本書に手を出したのは、奈良を旅するストーリィ、洒落た題名、表紙画に惹かれた故です。

研吾が姿を消した、どうも奈良にいるらしい。探しに行くのに同行してと、その異母兄の恋人である優佳利に頼まれ、は一緒に奈良を巡る旅をすることになります。明日香、山辺の道、奈良市内、というのがその旅程。
どんなストーリィかはっきりしないにも拘らず、雰囲気で読ませてしまうところが、恩田作品の特徴であり、またその魅力なのですが、本作品もその例外ではない。
なんとなく明日香・奈良という土地に居心地良さを感じつつ、依然として訳の判らないまま、ただ頁数のみ残り少なくなってしまう、というのが本作品。
結末に至った時、正直言って何の為に読んできたのだろうと、虚ろな気分を抱かざるを得ません。

※なお、女性2人は山辺の道を天理から桜井へと歩き、逆の方が良かったかと後で述懐しますが、それはまさにその通り。私は桜井から天理へとかつて歩いたのですが、その方が良いとお勧めします。

  

23.

●「Q&A」● 


Q&A画像

2004年06月
幻冬舎刊

(1700円+税)

2007年04月
幻冬舎文庫化



2006/02/22

2002年 2月11日午後 2時過ぎ、東京郊外の大型商業施設Mで大パニックが発生、大勢の死傷者が出る。しかし、その原因が何であったのか特定できず、聴き取り調査が始まるといったストーリィ。

「質問と答え(Q&A)だけで物語が進行する、リアルでシリアスなドラマ」というのが、帯のキャッチフレーズ。
その宣伝文句から、Q&Aを重ねるうちに真相が明らかになっていくという緊迫した展開を期待したのですが、あにはからんや、ストーリィはむしろ現代的なホラー風へと進んでいってしまいます。
それだけが理由ではないのですが、率直に言ってつまらなかった。
パニックがどんなふとしたことから起こり、それだけでどんなに凄惨な結果を引き起こしてしまうのかという恐怖。いや、実はふとしたことではなく隠された仕業(例えばオウム事件)があったのかもしれない、という恐怖。
そんな点に視点をあてた恩田さんらしい作品とも言えるのですが、だからといって面白いかどうかは別のこと。
期待しながら、結局あまり面白くなかった、でも次の恩田作品につい期待してしまうというのは、恩田さんならではの不思議な魅力だろうと改めて感じた次第。

  

24.

●「夜のピクニック」● ★★★    吉川英治文学新人賞・本屋大賞


夜のピクニック画像

2004年07月
新潮社刊

(1600円+税)

2006年09月
新潮文庫化



2004/09/03



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いいなぁ。久しぶりにいい!
何より雰囲気が良い。ストーリィの中の一時一時(一頁一頁)を大切に読んでいたい、気付けばそう思って読んでいる自分がいる。
本書は、朝8時から歩き始めて翌日の朝まで歩き通すという学校行事“歩行祭”を舞台にした高校生ストーリィ。六番目の小夜子」「球形の季節」に続く高校三部作の最後の作品とのことです。
評判になったデビュー作「六番目の小夜子」は勿論のこと、恩田さんの魅力はやはり普通の高校生活+αを鮮烈に描くところにある、と感じます。

“歩行祭”は、まず朝8時から夜中の午前2時までをクラス単位で歩く。それから少し仮眠を取った後、制限時間内に20キロを自由に走り、歩いてゴールを目指すという校内イベント。恩田さんの母校にも同じような行事があったそうです。
当然自由歩行では、仲の良い同士等で歩く。高校生活最後ともなれば、親友と一緒に歩いて記念にしたいというのは当然のこと。そんな西脇融戸田忍甲田貴子遊佐美保子という、2組の親友コンビが主要人物になっています。
はっきり言って、高校生たちが夜も徹して歩くだけというストーリィ。ただ歩くだけの行事が何故こんなにも心に残るのかと登場人物の一人が言っていますが、それは読む方にしても全く同じこと。ただ歩くだけのストーリィが、何故こんなにも楽しいのか。
勿論歩くだけのストーリィといっても、貴子が何か自分に賭けをしていること、渡米した親友からの葉書の「おまじないをしておいた」というメッセージに、多少謎解き要素があります。また、高校生最後となればそれなりの恋愛・青春模様も描かれています。でも、本書はあくまでひたすら歩くことを描いた小説なのです。
本書を読みながら、いつのまにか主人公たち、歩行祭に同化している自分がいます。それがとても楽しい。
高校生活にこんな行事があったら、修学旅行よりはるかに強烈な思い出となって残ることでしょう。
本書は、青春小説の傑作と言って間違いない作品です。

※「図書館の海」に予告編として書かれた「ピクニックの準備」あり。

※映画化 → 「夜のピクニック

 

25.

●「夏の名残りの薔薇」● 


夏の名残りの薔薇画像

2004年09月
文芸春秋刊

(1857円+税)

2008年03月
文春文庫化



2004/11/17

山奥のクラシックなホテルで毎年のごとく催される老婦人三姉妹の主催によるパーティ。そのパーティに集まった関係者の間で次々に起きる事件を描く長篇ミステリ。
閉ざされた場所、閉じられた時間の中で起きる出来事。6つの章において、語り手は順繰りに交替していきます。この辺りは恩田作品の特徴と言える部分でしょう。
ではそれがミステリとして興味をそそるものか、面白いものかというと、それは別物。持って回った書きぶりにうんざりしたというのが、私の率直な感想です。

第1章から第5章まで、同じ場所、同じ人々の中で起きる事件が描かれますが、各章の展開に少しずつ食い違いがあります。それは何故なのか。そこに本作品の仕掛けがあります。
「あとがき」において、恩田さん自身からその仕掛けが説明されています。聞かされればフムフムとその着想に面白味は感じます。
しかしながら、その仕掛けを知らないまま読んでいると、不可解さのみが常に残ります。それはストーリィ構想上の仕掛けであって、それはストーリィの面白さに通じるものではないことを改めて感じた次第。
この実験的な小説については、恩田さんが好きという「去年マリエンバートで」という映画が深く関わっている由。作品中でも、登場人物の一人により繰り返し語られています。
ともあれ、結果的には読んでがっかりした作品。

 

26.

●「酩酊混乱紀行 「恐怖の報酬」日記 イギリス・アイルランド」● ★★


「恐怖の報酬」日記画像

2005年04月
講談社刊

(1400円+税)

2008年05月
講談社文庫化



2005/08/02

念願のイギリス&アイルランド行き。
でも、そう単純に喜んではいられない、むしろ恐れおののいている。何故ならば、恩田さん、大の飛行機恐怖症なのだそうです。
冒頭、やけに饒舌なエッセイだなぁと思っていると、それは恐怖を少しでも忘れていようと文章を書いている所為だとか。
言われるまでもなく、そんな雰囲気がビンビン伝わってくる出だしになっています。
恐怖にかられていれば、本音も生の恩田さんも率直に出てくる筈。これはさぞ面白かろうと、冒頭で期待が膨らみました。

怖い飛行機の中に長時間閉じ込められる恐怖に震えつつ、旅行に持っていく本を選ぶ辺り、旅行中もいろいろな小説に話題が飛ぶ辺り、その関わりが楽しい。(※私としてはA・ヘイリー「大空港」などお薦めしたかったです)
恩田ファンとして嬉しいのは、恩田さんの創作の方法が垣間伺えるところでしょう。タラの丘で恩田さんがイメージを膨らませている場面がそれ。
生の恩田さんの姿を知ることができる点でファンには楽しい紀行本ですが、それにしてもパブをはしごしたり等々と、よくビールを飲むもんだなァ。

※なお「恐怖の報酬」とはサスペンス映画(1952年)の題名。恐怖のお陰でこんな日記を書いている、という程度の意味とか。

   

27.

●「小説以外」● ★☆


小説以外画像

2005年04月
新潮社刊

(1500円+税)

2008年06月
新潮文庫化



2006/08/30



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恩田さんがあちこちに書き散らした(失礼)文庫解説・エッセイ等々、小説作品以外の文章を集めた本。
ファンとしては恩田さんの素顔を知ることのできる、嬉しい一冊です。

エッセイという程まとまっていない、僅か1頁程の文章も多いですから雑然とした印象を受けますが、その分かえって作家・恩田陸の実像に触れることができる、というところが本書の魅力です。
作家デビューして間もない頃に書かれた文章も収録されていますから、時間的幅もずいぶんと広い。もうこんなに長く活躍してきたんだなァという思いは、恩田作品をずいぶん沢山読んできたなぁという思いに繋がります。
この頃でこそ刊行作品を全て読むことはなくなりましたが、以前は出るたび全て読んでいました。あぁ面白かったと思うものあり、よく判んないよぉと嘆いたこともあり。また、最初面白そうだったのに何でこんな曖昧な結末になったのかと残念に思うケースも多かった。
ロマンチック・コメディが大好き、学生時代から活字中毒だったというのは私と同じ。お酒(ビール)好き(嫌いではないけれど)というのは私と異なるところ。
おぉ!と嬉しかったのは、恩田さんも読んだ本の内容かなり忘れてしまう、ということ。
作家になる前と変わらず本好きで「作家になったという実感が未だに全くない」というところには、親近感ひとしお。

恩田作品の誕生経緯などの話も度々出てきますから楽しめますし、恩田ファンとしては是非読んでおきたい一冊です。
ちょうど来月には夜のピクニックの映画が封切られるところ。恩田さんが卒業した高校では修学旅行の代わりにこの行事があったという話、かなり早い時期のエッセイに登場しているのですね。これはDVD化待ちでなく、シネコンに観にいこうかと思っています。

  

28.

●「蒲公英(たんぽぽ)草紙 常野物語」● ★☆


蒲公英草紙画像

2005年06月
集英社刊

(1400円+税)

2008年05月
集英社文庫化



2005/06/15



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光の帝国−常野物語−に続く常野物語の長篇作。ついに出たか!というのが第一の思いです。
恩田さんデビューまもなくの頃から読んでいたファンにとって「光の帝国」は一番のお薦め作でした。超能力をもちながら「常に野にいる」という信条を守って慎ましやかに連綿と続いてきた一族。そうした常野一族の創造も魅力的でしたが、それに勝る魅力は、長篇ネタを惜しまず短篇に使ってしまった結果としての短篇集だった、ということに尽きます。
その後「光の帝国」の各篇が長篇として書き継がれることもなく、すっかり諦めていました。それが突然長篇新作として刊行されたのですから、興奮するなという方が無理というもの。
しかし、「光の帝国」では各篇に凝縮された面白さがありましたが、こうして長篇になってしまうと逆に散漫な印象を受けます。どこへ向かってストーリィが展開していくのか、はっきりしないまま4分の3位まで進んでしまいます。その点は率直に言って物足りない。

本書の主人公は、東北の一地方に住む少女・峰子。彼女の回想としてストーリィは展開します。
その地には槙村家という名家があり、病弱な末娘・聡子の相手として峰子は屋敷に招かれます。その槇村家に或る日、子供2人を連れた春田一家が訪れてきて、そのまま客人として槙村家の別館に逗留します。
多彩な客人が逗留している槙村家の中にあっても、春田一家はとりわけ不思議めいた存在。
戦前という時代背景の中で、槙村家の人々、そこに滞在する客人たち、そして春田一家との交流が描かれます。

物足りないという印象でしたが、最後に至れば常野一族の真価が発揮され、やはり感動させられます。
ただし、本書は単体の物語ではなく、遠大な“常野物語”を形作る一部の章に過ぎないと、読み手は受け留めるべきなのでしょう。

窓辺の記憶/お屋敷の人々/赤い凧/蔵の中から/「天聴会」の夜/夏の約束/運命

 

29.

●「エンド・ゲーム 常野物語」● ★☆


エンド・ゲーム画像

2006年01月
集英社刊

(1500円+税)

2009年05月
集英社文庫化



2006/01/22



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光の帝国−常野物語−でとくに気になっていた「オセロ・ゲーム」の続きを描いた長篇小説。
「裏返す」「裏返される」という闘いを続けてきた母親の拝島暎子に代わり、本作品では娘の時子が主人公となります。

暎子が会社の慰安旅行にいった先で意識不明の状態で倒れているところを発見され、時子に急報が届きます。意識不明といっても外傷も脳内部への損傷もなく、深い眠りに入っているような状況とのこと。
暎子は裏返されてしまったのか? 緊急の場合に連絡するように言われていた電話番号のメモがなくなっていた。記憶に残るその電話番号をダイヤルし、時子は火浦という青年に会うことになります。その火浦は、「洗って、叩いて、乾かす。そして白くする」という「洗濯屋」と言われる能力者の中でも極めて強力な能力者という。
失踪したままとなった父親、そして暎子が闘ってきた相手は何なのか。時子もまたその相手と向き合うことになるのか。どうもはっきりしません。はっきりしないままストーリィは佳境に入り、彼ら親子の秘密が明らかにされ、足を掬われたような気分で物語は解決をみせ、もうひとつ得心がいかないままに終わります。

それなら本作品はつまらないのかと言えば、決してそうではありません。なにしろ、気になっていた短篇ストーリィの本格的解決編といえる長篇ストーリィなのですから。
不可思議な成り行き、サスペンス、夢中になる要素は十分あるのです。でも、結局何だったのか、よく判らない(苦笑)。
なお、常野物語の前2作にはほのぼのとした明るさがありましたが、本書は闘いを描いたストーリィの所為か、そんな常野ものらしい雰囲気はありません。   

 

30.

●「チョコレートコスモス」● ★★☆


チョコレート・コスモス画像

2006年03月
毎日新聞社刊

(1600円+税)

2011年06月
角川文庫化



2006/04/09



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これはすこぶる面白かった一冊! 読み応えも充分で最初から最後の最後まで存分に堪能しました。
図書館の新着本棚に残っていたことから借り出し、たまたま読んだのですが、読み損なわずに済んで良かった、と思う作品のひとつ。
恩田作品は、期待して読むと期待外れ、期待せずに読むとすこぶる面白かったりするので、全く困ったものです。

まずは、作品が書けないと悩む脚本家、若手の人気女優、劇団を立ち上げた学生たちと、演劇に関わる様々な人物が登場します。そして彼らたちが知って驚愕することになるのは、小柄でまるで目立たない少女・佐々木飛鳥(少女といっても大学1年生)。
舞台の上で役を演じるというのは、どういうものなのか。そして、見事に演じきった先にはどんな世界があるのか。
20歳で実力派女優と言われる東響子と、芝居経験のまるでなかった飛鳥という2人の女性が、情熱を漲らせ高みを目指す演劇ロマン。

そう紹介してしまうと何やらマニアックなストーリィのように聞こえそうですが、とにかく面白いのです。最初からすぐ惹き込まれ、ストーリィ進行に連れ他の登場人物と同様に、どんどん圧倒され続ける、という面白さ、読み応え。
恩田作品では肝心な最後の最後のところで失速してしまうということがよくあるのですけれど、本作品については最後までパワー全開、頁をめくる手を止められません。

芝居や演技に興味ある人なら、面白いこと間違いありません。

   

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