乃南アサ作品のページ No.2



11.いつか陽のあたる場所で

12.犯意

13.すれ違う背中を−いつか陽のあたる場所でNo.2−

14.禁漁区

15.いちばん長い夜に−いつか陽のあたる場所でNo.3−

16.新釈にっぽん昔話

17.水曜日の凱歌

18.美麗島紀行

19.六月の雪


【作家歴】、6月19日の花嫁、凍える牙、花散る頃の殺人、鎖、涙、未練、嗤う闇、駆け込み交番、風の墓碑銘、ミャンマー

 → 乃南アサ作品のページ No.1


家裁調査官・庵原かのん、雫の街、緊立ち 

 → 乃南アサ作品のページ No.3

   


    

11.

●「いつか陽のあたる場所で」● ★★


いつか陽のあたる場所で画像

2007年08月
新潮社刊

(1500円+税)

2010年02月
新潮文庫化



2007/09/04



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「犯罪を犯した、その後の人生を書いてみたかった」、それが本シリーズを書くきっかけだったそうです。

小森谷芭子29歳、亡くなった谷中の祖母の古い家に一人暮らし。ホストに貢ぐための昏睡強盗の罪で7年服役。
江口綾香41歳。外面は良いが綾香に暴力を振るい続けた夫への恐怖を出産後抑え切れず殺害、服役5年。
そんな2人が出所後住み始めたのは、路地裏もある東京の下町、谷中。

罪を犯して20代の殆どを無駄にしてしまったと悔やむ芭子は、将来に付いても悲観的、祖母の残した古い家でひっそりと暮らそうとしている。それと対照的に綾香は前向き、パン職人を目指して朝5時から働く毎日。
そんな風に性格の全く異なる2人ですけれど、心を開いて付き合えるのはお互いしかいない。
受刑者という過去を早く忘れたいと念じつつ、周囲に気遣いしながらも健気に生きようとする2人の、寄り添うような姿がとても愛おしく感じられます。
うっかりムショ言葉を漏らして青ざめたり、2人だけの時にはムショでのアレコレを笑い合ったりする辺りも共感できます。
そんな2人を、温かく包み込むような谷中という下町の雰囲気が絶妙に合っていて、これまた味わい深い。
このシリーズ、大好きになりそうです。皆さんにもお薦め!

なお、本書には近所のお節介なお婆さんも、短気で怒りっぽいお爺さんも登場します。さらに駆けこみ交番高木聖大も等々力から谷中に転任してきて登場。
2人が“怒りボタン”と仇名した大石老人、好きだなァ。その叱り付ける気持ち、判りますねぇ。こんな風に叱るお爺さんが近所にいたら、今の日本、もっときちんとしていたでしょうに。

おなじ釜の飯/ここで会ったが/唇さむし/すてる神あれば

     

12.

●「犯 意−その罪の読み取り方−」●(解説:園田寿) ★★


犯意画像

2008年08月
新潮社刊

(1500円+税)

2011年02月
新潮文庫化



2008/09/24



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裁判員制度の開始を前提に、いろいろな事件例を繰り広げつつ、それらが如何なる刑罰の対象となるか、その認定根拠は何なのか等々について専門家が解説を加えるという形式の一冊。
ちなみに、専門的な解説を加えている園田寿氏は、甲南大学法科大学院教授であると同時に現役弁護士とのこと。

よくあるTV番組の〔事件再現ドラマ+法律家による解説〕に似ていますが、TVよりはるかに面白く、事件そのものに引き込まれてしまうのは、事件の書き手が乃南アサさんであるが故。
そのまま12の犯罪短篇小説集と言って、何ら誤りではありません。
取り上げられる犯罪は、ストーカー、監禁強姦、麻薬密輸、幼児虐待、安楽死、DV(家庭内暴力)等々と現在を反映して様々。
それに加え、各篇で罪を犯すに至る当人たちも、逮捕される可能性をまるで考えずに短絡的に犯罪に走るケースから、不作為の罪というケース、追い詰められて意に反して加害者となってしまったケースまでと、これもまた様々。
その中でも「隣人の妻」は、小説作品とまるで遜色ないくらい、スリリングなサスペンス。
また、「逃げたい」は加害者に追い詰められるDV被害者の心理状況が余すことなく描かれていて、ハラハラドキドキ。

サスペンス、ミステリ小説数多くあれど、犯罪を犯す側、犯罪者に追い詰められる側を描いた小説はそう多くあるものではありません。
その点でもこの短篇集は異色の面白さあり、と言って良いでしょう。それに加えて犯罪解説の面白さ付き。
さらに、裁判員になった臨場感と責任感をまさに味わい、その覚悟を準備するに役立つ一冊。

※私は法律学科専攻だったので、刑法も一通り勉強して併合罪とかの理屈も理解できますが、今はストーカーとかDVとか新しい刑罰も生まれていますし犯罪も複雑化しているので、錆び付いた学生時代の知識では追いつかないなぁ、と感じた次第です。

・夢の結末・・・・・・・(死刑もあり得る、こんな放火)
・隣人の妻・・・・・・・(「今すぐ死ね」と迫れば殺人者か?)
・八の字眉・・・・・・・(正当防衛が許される範囲)
・アーユーハッピー?・・・(共犯者には三種類ある)
・ひと夜の転落・・・(<強盗罪+強姦罪>と<強盗強姦罪>の違い)
・なりすまし・・・・・(操られていた犯人の罪)
・泣いてばかりの未来・・・(我が子を虐待した罪、傍観した罪)
・あいつの正体・・・(ストーカーを裁くポイント)
・パパは死んでない・・・・・(これは病気治療か、殺人か?)
・ご臨終です・・・・・(安楽死の刑法学)
・逃げたい・・・・・・・(他人の「犠牲」が許される条件)
・その日にかぎって・・・・・(弱い証拠、決め手の証拠)

  

13.

●「すれ違う背中を」● ★★


すれ違う背中を画像

2010年04月
新潮社刊

(1400円+税)

2012年12月
新潮文庫化



2010/05/09



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ムショ帰りコンビを主人公にした連作短篇集、いつか陽のあたる場所でに続く第2弾。
私が楽しみにしていた続編で、あぁやっと刊行されたかという思いです。

主人公は前作同様、亡くなった祖母の古い家にひとりで住みながらアルバイトで糧を得る小森谷芭子29歳と、パン職人を目指す江口綾香41歳。
ムショのことを決して忘れることはできないが(現に2人はムショ仲間の付き合い)、何とか自分の居場所、道を見つけたいと願っている2人の日々と、その日々の中で旧き再会、新たな出会いを描いた4篇。
時折漏らしてしまうムショ・トークが、何とも言えぬ可笑しみを誘う、それが本シリーズ、主人公2人の魅力です。

何かが起きる訳ではなく、ごく普通のささやかな日々。でも、ムショ帰りの2人だからこそ、その貴重さを感じることができるのでしょう。
読み手もそんな2人と一緒に、ごく平凡な暮らしの有り難さを味わうことができる。それが本シリーズの妙味です。

「梅雨の晴れ間に」:綾香、かつての同級生と偶然に再会。さてお互いの来し方は?
「毛糸玉を買って」:芭子、新たな仕事の可能性を見出した喜びと、インコという同居人が現れた喜び。
「かぜのひと」:綾香が芭子の相手に格好、と言って紹介してきた男性の正体は?
「コスモスのゆくえ」:思わずハラッとしましたが、治まるべきところを治まってホッ。
なお、制服警官の高木聖大、あいかわらずユーモラスな役回り。

梅雨の晴れ間に/毛糸玉を買って/かぜのひと/コスモスのゆくえ

  

14.

●「禁漁区」● ★★


禁漁区画像

2010年08月
新潮社刊

(1400円+税)

2013年06月
新潮文庫化



2010/09/25



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究極の警察小説、と言ったら本書のようなストーリィになるのでしょうか。
罪を犯す者も警察官、その罪を追及するのも警察官。

本書は、ふとしたことから不祥事を犯してしまった警察官と、その罪を捜査・追及する警察官(警視庁警務部人事一課監察官室)の仔細を描く4篇。
どんなに真面目な人でも、ふと魔が差してしまうということはあるでしょう。小さな過ちがやがて自分の人生を狂わせてしまうような不祥事に繋がる。
各ストーリィを読んでいると、ふとしたことからやってはならない道に足を踏み入れてしまうことの怖さを、つくづく感じます。
ましてそれが警察官となれば、警察権力をもっているだけに、事態はもっと大ごとになってしまう。
最初から悪いことをしようとしていた訳ではない、心の隙だったり、むしろ好意だったり、自分の弱さだったり。

誰しも教訓と思うべきストーリィという印象で読み終えようとしたところで仰天したのが、最終話。
震え上がるような現実的恐さを味わうストーリィなんて、そうあるものではありません。この1篇がとにかく圧巻。

各篇とも監察官室の同じ顔ぶれが登場しますが、その中で他より目立つのが、20代と若い独身女性の捜査員=沼尻いくみ
現在の職場に配属されてから同期たちとも疎遠になってしまい、なりたくて監察になった訳じゃない、というキャラクター。
それはそのまま、監察という仕事自体に通じるものでしょう。「禁漁区」という題名はそれを象徴するものと感じます。
警察小説の多い乃南アサさんの、安定した上手さを感じる一冊。

禁漁区/免疫力/秋霖/見つめないで

      

15.

「いちばん長い夜に」 ★★


いちばん長い夜に画像

2013年01月
新潮社刊

(1700円+税)

2015年03月
新潮文庫化



2013/02/21



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前科者(マエモチ)女性コンビ=芭子綾香を主人公にした連作短篇集いつか陽のあたる場所でシリーズ第3弾にして完結編。

前2作と同じ連作短篇形式ではあるものの、2人で寄り添いひっそりと生きてきたこれまでから、ようやく新しい一歩を踏み出すに至る過程が本巻では描かれます。
その中で触れずに済まされないのは、
3.11東日本大震災のことが描かれていること。ある事情から仙台へ赴いた芭子、ちょうどそこで東日本大震災に遭遇することになります。実はそれ、乃南アサさん自身が本当に体験したことだそうで、本書の取材の為に仙台へ出掛けたところで震災に遭ったそうです。
主人公2人の物語に不可欠な出来事ではないと思いますが、その実体験が忘れ難いものであるのは当然のこと。本ストーリィの中に乃南さんが大災害の記録として残そうとしたのは、何の不思議もないことと得心できます。
なお、そのことがきっかけとなって、芭子に新たな道が広がります。そして同じく綾香にも、また違った面から彼女の転機となる出来事が起こります。

本書にて本シリーズは完結とのこと。2人にもう出会えなくなるのは寂しい限りですが、前科者という重荷を一緒に背負い続けているからこその物語でもあり、2人がそうした軛から早く解き放たれて欲しいと祈れば、物語が終焉を迎えるのも仕方ないことと思います。
その意味でこの完結編、寂しくはありますが、2人の漸くつかんだ新たな門出を祝福したい気持ちでいっぱいです。
これまでの2作から一歩前進した、胸熱くなる2人の成長=解放ストーリィ。是非お読み逃しなく。

犬も歩けば/銀杏日和/その日にかぎって/いちばん長い夜/その扉を開けて/こころの振り子

        

16.

「新釈にっぽん昔話」 ★★


新釈にっぽん昔話画像

2013年11月
文芸春秋刊
(1650円+税)

2016年06月
文春文庫化


2013/12/08


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懐かしい“日本昔話”。それに現代的要素を織り込むと一体どうなるのやら? それを叶えたのが本書、乃南アサさんの新解釈による昔話集。
子供の頃に親しんだ昔話を思い出しながら軽い気分で楽しめる、現代的なファンタジー短篇集に仕上がっています。

昔話と言えば、読んでいた子供の頃には気付かなかったことですが、意外とシビアな勧善懲悪ストーリィが展開されるものです。
その意味で面白かったのが
「さるとかに」ですが、そのエピローグには意表を突かれて思わず笑ってしまいました。
一方、
「花咲かじじい」「笠地蔵」2篇で印象的だったのは、有り得ないくらいの善人ぶり。無欲、無視、人間は本来こうありたいなぁと羨んでしまいますが、中々そうできるものではありません。ひとつの夢と言うべきなのでしょうか。
それに対して
「一寸法師」の策略ぶりはのけぞる程。でも最後のコメントが愉快。
最後の
「犬と猫とうろこ玉」。私はまるで知らない話でしたけれど、愛する老主人のために動物たちが奮闘するというストーリィは、如何にも現代アニメ風ストーリィ。

こういう形で昔話を再び味わってみるのも、楽しいものです。

さるとかに/花咲かじじい/一寸法師/三枚のお礼/笠地蔵/犬と猫とうろこ玉

       

17.
「水曜日の凱歌 A Triumphal Song on Wednesdays ★★


水曜日の凱歌

2015年07月
新潮社刊

(1800円+税)

2018年08月
新潮文庫化



2015/08/17



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敗戦を迎えて男たちは戦うのを止めたが、女性たちにとってはそこからが戦いだった。その女性たちの戦いをドキュメンタリー的に描いた長編小説。

7人家族だった二宮家も今や母親
つたゑ鈴子の2人だけ。どう生きていけばいいのか途方に暮れて当然な状況ですが、母親は女学校時代に身に着けた英会話力を活かして戦後の混乱期を力強く泳ぎ渡っていく。
母親が手に入れた仕事とは、
RAAでの通訳。即ちそれは「日本婦女子の防波堤」にと若い素人の娘たちを急いで集め、進駐軍兵士向けに国が設置した“特殊慰安施設協会”だった・・・。

本作品において日本人男性の登場は少ない、登場してもその存在感は極めて薄いものです。何故なら本書の主人公は、敗戦直後の時代を生きるために戦かった日本女性たちなのですから。
それまで何もかも男性に生きる術を委ねてきた女性たち。その結果何を受け取ったかというと、家族や家、平穏な暮らしを根こそぎ奪われてしまった。男たちが馬鹿げた戦争を始めたから。
本書に登場する女性たちはもはや、日本の男たちを信じていないのです。ですから自分たちの意思で生きていくための道を選ぼうとしたと言って良い。日本人の男たちに見向きもせず、進駐軍の男たちに媚を売る、それは日本の男たちに対する彼女たちの復讐という象徴的な姿と言って良いのでしょう。
それでも結局、彼女たちは日本という国の犠牲にされたと、その過酷な運命に衝撃を受けざるを得ません。
そうした日本女性たちの姿を、大人とも子供とも言えない年代にある14歳の少女=鈴子の視点から描いた敗戦直後の物語。
鈴子にとっては男と言えば父親、したがって母親たちのように裏切られたという思いは抱いていません。ですからどこかで仕方ないという思いもあり、一方で批判的な目も捨てきれないでいるという複雑な思い。
つたゑとと鈴子の母娘の姿はひとつの例に過ぎないのでしょう。戦後の歴史的事実を小説という形を以て淡々と描き出したという印象を受けます。

本書を読んで思い出すのは、井上ひさし「東京セブンローズ。本書と同じく敗戦直後の女性たちの戦いを描いた作品ですが、本書と比較してフィクション性が高く、女性たちの積極的な戦いの様を描いているために、私にとっては忘れ難い作品です。同作品も是非お薦め。


プロローグ:その日も水曜日/1.新しい防波堤/2.占領軍が来た日/3.大森海岸/4.クリスマス・プレゼント/5.お母さま/6.再会と、そして/エピローグ:また水曜日

      

18.
「美麗島紀行」 ★★☆


美麗島紀行

2015年11月
集英社刊

(1700円+税)



2015/12/18



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表題の「美麗島」とは台湾のこと。
題名はともかく、作家による観光的な紀行エッセイとてっきり思っていたのですが、本書は然に非ず。台湾という島の歴史的経緯ならびに日本統治が及ぼした影響について、深く見聞し、台湾について深く知ろうとする姿勢を貫いた、感銘深い一冊となっていました。

台湾が初めて歴史的にその存在を知られたのは1544年、ポルトガル船による発見によってだったとのこと。その時に船員が「麗しき島」と唱えたのだという。表題の「美麗島」とは、そのことから。
当時の台湾はマレー・ポリネシア系の幾つもの部族が先住する、多民族・多言語の島だったそうです。
日本の敗戦によって台湾は中国に戻っただけと単純に思っていたのですが、清国の“省”のひとつだったとはいえ、日清戦争により日本に割譲されて植民地。その結果として、統治した日本がインフラ整備や教育等に力を注ぎ、その後の台湾発展の基礎が築かれる。
だからこそ、台湾の人々の親日感情がある訳ですが、乃南さんが訪ねた高齢者の方たちが幾人も口にした、
「○○歳まで私は日本人でした」という言葉には、深い感銘を覚えます。
そう思ってもらえることに感謝の気持ちもありますが、敗戦時にそうした“日本人”たちを数多く見捨ててきたのだという申し訳ない気持ちも湧き上がります。

本書で乃南さんは、そうした幾人もの方々に会い、また日本統治時代、即ちその方たちが日本人だった頃の面影を残す建物等も訪ね歩きます。
そうした歴史事実が、学校の授業では教えられないままとなっていることに、改めて不信感を抱く思いです。両国民の相互理解のためには、そこにあった事実をまず知っておくことが不可欠だと思うからです。

乃南さんが台湾に関心を抱いたのは、2011年東日本大震災の折に外国から寄せられた義捐金の内、台湾が米国に次ぐ2位と多額だったことがきっかけだったとのこと。
台湾の多様な側面、歴史を本書によって少しでも知ることは、更なる台湾への親近感、興味を抱かせてくれるに違いありません。
是非、お薦め!


・時空を超えて息づく島
・夏場も時代も乗り越えた小碗の麺
・引かれて、ならぬ「牛舌餅」にひかれて
・台中で聞く「にっぽんのうた」
・道草して知る客家の味
・過去と未来を背負う街・新竹
・「お手植えの黒松」が見てきた歳月
・宋文薫先生夫妻
・淡水の夕暮れ
・矛盾と摩擦の先にあるもの
・日本統治時代の幕開けと終焉−宜蘭
・嘉南の大地を潤した日本人−八田興一
・「文創」が生み出すもの
・三地門郷で聞く日本の歌
・「帰れん港」と呼ばれた町・花蓮
・出逢いと別れを繰り返す「雨港」−基隆
・夕暮れの似合う街・台南ふたたび
・手のひらに太陽を
・「日本人だった」−台湾の老翁たちにとっての日本統治時代

                     

19.
「六月の雪 ★★


六月の雪

2018年05月
文芸春秋

(1850円+税)

2021年05月
文春文庫



2018/07/13



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主人公の杉山未來は32歳。
声優を目指し、福岡へ転居した家族と離れ、東京で祖母の家で二人暮らしをしてきたが、その祖母が転倒して入院。
その祖母から
「願いが叶うとしたら・・・あの家(台南)に帰りたいわ」と告げられた未來、初めて祖母が台湾生まれだったと知り驚きます。
高齢の祖母の願いを叶えようと、かつて祖母が暮らしていた土地を訪ね写真を撮って祖母に見せてあげたいと、未來はひとりで台湾へ向かいます。

台湾がかつて日本の植民地だったと知らされ驚く未来の、近代歴史の欠如ぶりには呆れますが、台湾と日本の深い関わりを今や何も知らずにいる現代日本人に向けて、改めて歴史と両国の関係をつぶさに語っていこうとするために必要な設定なのでしょう。

何も知らない未来がいきなり行って、祖母の故郷に辿りつける筈がありません。
まず台北で迎えてくれたのは、大学教授である未來の父の、日本留学時の教え子だったという
李怡華。彼女に案内されて台湾高速鉄道で台南へ。
そこで未来のガイド役となったのは、李怡華が手配してくれた
洪春霞、20代後半。少々日本語に怪しいところがある春霞ですが、明るい元気者で未來はすぐ打ち解けます。

ストーリィは、未來の7日間にわたる一人旅によって、台湾やそこに住む人々の様々な姿を知る、という内容。
台湾と日本の関わり、日本が敗戦により撤退した後に乗り込んできた
中国国民党に残虐なふるまい、という歴史が登場人物によって語られていきます。
同時に、台湾の街や台湾の料理を訪ね歩く観光ストーリィ要素も多分にあり。
そしてさらに、日本人である未來と上記2人、また春霞が未来に紹介した建築学科の学生である
楊建智、その高校時代の先生だったという林賢成をはじめとして、台湾の人々との交流も描かれます。
最後、長い道のりの果てに未来が、かつて祖母が暮らしていた辺り、今も当時の古い日本家屋が残る街まで辿り着いたところ、さらに祖母が語っていた
“六月の雪”の実物を目にする場面には、ちょっとした感動を覚えます。

台湾のことを知りたいと感じた方には、お薦めです。
なお、小説ではない格好の案内書として、
酒井充子「台湾人生を是非お薦めします。
※台北人と台南人との気質の違い、その所以話も印象的でした。


プロローグ/第1章/第2章/第3章/第4章/第5章/終章/エピローグ

            

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