諸田玲子作品のページ No.2



11.其の一日

12.蛍の行方−お鳥見女房−

13.犬吉 (文庫改題:ひと夜の恋)

14.恋ほおずき

15.仇花

16.紅の袖(文庫改題:黒船秘恋

17.鷹姫さま−お鳥見女房−

18.山流し、さればこそ

19.末世炎上

20.昔日より


【作家歴】、まやかし草紙、誰そ彼れ心中、幽恋舟、氷葬、月を吐く、お鳥見女房、笠雲、あくじゃれ瓢六、源内狂恋、髭麻呂

諸田玲子作品のページ No.1


こんちき(あくじゃれ瓢六)、天女湯おれん、木もれ陽の街で、狐狸の恋(お鳥見女房No.4)、奸婦にあらず、かってまま、狸穴あいあい坂、遊女のあと、美女いくさ、巣立ち(お鳥見女房No.5)

諸田玲子作品のページ No.3


めおと、べっぴん(あくじゃれ瓢六)、楠の実が熟すまで、きりきり舞い、炎天の雪、天女湯おれん−これがはじまり−、お順、春色恋ぐるい、恋かたみ(狸穴あいあい坂)、幽霊の涙(お鳥見女房No.6)

 → 諸田玲子作品のページ No.4


四十八人目の忠臣、心がわり(狸穴あいあい坂)、来春まで(お鳥見女房No.7)、再会(あくじゃれ瓢六)、ともえ、相も変わらずきりきり舞い、王朝小遊記、破落戸、帰蝶、風聞き草墓標

 → 諸田玲子作品のページ No.5


今ひとたびの和泉式部、元禄お犬姫、尼子姫十勇士、旅は道づれきりきり舞い、別れの季節(お鳥見女房No.8)、嫁ぐ日(狸穴あいあい坂)、きりきり舞いのさようなら

 → 諸田玲子作品のページ No.6

 


   

11.

●「其の一日」● ★★     吉川英治文学新人賞


其の一日画像

2002年11月
講談社

(1700円+税)

2005年12月
講談社文庫

2023年05月
中公文庫
(増補新版)

2003/04/29

人生を凝縮したような一日を描く4篇。

私欲を肥やしたと断罪されるのか免れるのかを目前に控えた武士の一日、夫が突然遊女を斬って自分もまた自害するという事件とそれに伴い明らかになった衝撃的な事実に対峙する妻の一日、祖父と父親が自害した事情がふとした偶然から明らかになった青年武士の一日、そして井伊直弼殺害の企みから何とか直弼を救おうとかつての女が必死になった一日。

短篇とはいえ、どの篇も長篇にひけをとることのない、戦慄させるような緊迫感と充実感を味わわせてくれます。
容赦ない事実と、それを超えて生き抜こうとする主人公たちの姿はお見事という他ありません。

これまでの諸田作品と一線を画し、さらに質を高めた短編集と感じます。
読んで楽しいというストーリィでは決してありませんが。時代小説の読み応えを十分に味わえる一冊。お薦めです。

立つ鳥/蛙/小の虫/釜中の魚

 

12.

●「蛍の行方−お鳥見女房−」● ★☆


蛍の行方画像

2003年01月
新潮社刊

(1500円+税)

2006年11月
新潮文庫化



2003/02/09

時代小説版“肝っ玉母さん”という雰囲気ある、幕府お鳥見役の女房・珠世を中心とする連作短篇集お鳥見女房の続編。

前作と比較すると、主要な人物は既に登場済みですし、新鮮な楽しさを期待するのは、ちと苦しい。
当主・伴之助が隠密仕事で旅立ち、消息を絶って2年あまり、というのが本作品における背景。父親の後を追いかけて旅立った次男・久之助、さらに源太夫からの音信も途絶え、暗い雰囲気が全篇を覆っています。
夫・息子に対する心配を払いのけ、尚のこと明るく振る舞おうという珠世の姿勢が、そんな状況と対照されて、印象的。
そうした中で、源太夫の5人の子供たちの、元気一杯な様子が楽しい。
北原亞以子“慶次郎縁側日記”ような市井ものでなく、母親・主婦を中心とした時代版ホームドラマといった処に、本作品の特徴、魅力があります。珠世だけでなく、5人の母親となる多津、嫁いだ長女・幸江、恋心を抱く次女・君江と、本作品の主役は女性たちと言えるでしょう。
前作と本書で、留守宅を預かる珠世のストーリィは一応完結をみますが、シリーズものとして続刊を期待したいところです。

ちまき泥棒/蛍の行方/捨案山子/緑の白菊/大凧、揚がれ/雛の微笑/裸嫁/風が来た道

    

13.

●「犬 吉」● ★☆
 (中公文庫改題:ひと夜の恋)

犬吉画像

2003年03月
文芸春秋

(1524円+税)

2006年03月
文春文庫

202206月
中公文庫

2003/03/29

綱吉治世下、お犬さま保護のため、江戸郊外(中野辺り)に「御囲(おかこい)」と呼ばれる広大な施設が作られていた。
本作品はその御囲を舞台に、昼は犬の世話、夜は男たちに春をひさいで暮らしている犬吉の、第一人称で描くストーリィ。

赤穂浪士の吉良邸討入りの知らせに、御囲に暮す人足たちは沸き返ります。そしてその時から、御囲での狂おしい一夜が繰り広げられ、犬吉はその犠牲となって男たちに弄ばれます。

人間以上に手厚く保護されるお犬さまへの人足たちの怨念、犬のために改易となった旗本家の怨み、お犬さまの餌となる白米の横流し、果ては御囲に30年も潜伏していた武士の素性判明と、隠されていた事実が迸るように、この一夜の間に暴かれます。
そして、それらを超えて圧倒されるのは、その日初めて見えた御鷹御犬索を務める武士・依田峯三郎に対する犬吉の狂おしいような熱情。
こうした狂おしい恋情を描いてこそ、諸田さんの真骨頂と、改めて実感します。

たった一夜のことだからこそ、凝縮されたような圧倒感があります。力作といって疑いない一冊。

  

14.

●「恋ほおずき」● ★☆


恋ほおずき画像

2003年07月
中央公論新社

(1600円+税)

2006年07月
中公文庫化


2003/08/18

中條流の女医者・江与を主人公とする長篇時代小説。
“女医者”と言っても女性専門医ということではなく、中條流の本質は堕胎術にあります。当時にあっても、堕胎は本来御法度。しかし現実には止むに止まれぬ事情もあるということから、中條流が黙認されてきたという事情。しかし、悪質な女医者も多いことから、再び女医者を一切禁止しようという動きがある、というのが本ストーリィの背景です。
そんな中、若く美しい江与が、本道医である父親の裏側で女医者を開業しているのは、江与自身にそれなりの過去があったからこそ。その事情は徐々に明らかにされていきます。
そんな江与が主人公だからこそ、各章に登場する女たちの悲しい宿命も語られるに相応しい。
江与の父親・六左衛門を始めとし、使用人夫婦、妹、岡っ引、さらに悪たれ坊主と、江与の周囲に集う人々の間には、心の通い合った温かい関係があります。しかしその一方で、北町奉行所の同心に寄せる恋心のほか、江与にはどこか寂しげな陰がある。その温かさと寂しさの混じり合う風情が愛おしい。
諸田作品の中では小品と言えますが、私としては好きです。 

初蛙/施餓鬼舟/草紅葉/寒雀

      

15.

●「仇 花」● 


仇花画像

2003年10月
光文社刊

(1700円+税)



2004/01/04

本書は、徳川家康最後の側室となった、お六の欲望にまかせた生涯を描いた作品です。
家康69歳、それに対してお六14歳。この年齢歳あっての男女関係は、家康の好色さというより、お六が謀って家康の側室になろうとした故、という設定です。
お六は北条家残党の中、日雇い人夫をして糊口をしのぐ父親のもと、江戸の長屋で育ちます。それ故に、自分の力で一家の栄華を勝ち取ろうとする強い欲望に燃えた娘として描かれます。
「無欲−お六の大嫌いな言葉である」というのですから、戦国の世における男共の出世争いに似た、女子における立身欲を露わにした闘いを見るようです。
お六の成り上がりストーリィには興味津々ですが、既に時代を逸した観あり。そこにお六の野望の儚さがあります。
良くも悪くも、ひとつの情念の有様と結果を描く物語であり、諸田さんらしい作品として惹かれます。

このお六、家康の死後、尼を還俗して古河公方へ再嫁したというのですから、史実から見ても興味深い。
また、他の側妾、茶阿局、お勝、阿茶、等々の個性・位置付けにも女たち各々の人生があるようで、面白く読めます。
なお、本ストーリィの鍵となっているのが、吉原の創始者・庄司甚右衛門。サイドストーリィにもなかなかの味があります。

    

16.

●「紅の袖」● ★★
 (文庫改題:黒船秘恋


紅の袖画像

2004年04月
新潮社刊

(1500円+税)

2009年04月
新潮文庫化



2004/05/25



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黒船来航に揺れる江戸が舞台。
御台場築造工事を命じられた川越藩、沙代は主の樋口杢右衛門と共に江戸下屋敷に移って来ます。品川御殿山と八ツ山の土砂が切り崩されて埋め立てに使われるため、その屋敷には始終砂が入り込んでくる。
その屋敷に、国許から出てきた杢右衛門の親友・新倉彦三郎と新たに雇い入れた下女のみおが、ひとつ屋根の下で暮らすことになります。そしてその時から、沙代の思いもしなかったドラマが始まる、という時代小説。

まず、砂という道具立てが、何とはなしに不気味な雰囲気を醸し出していて、巧い。諸田さんが意識していたかどうかは知りませんが、安部公房「砂の女」のイメージを浮かび上がってきます。
そして、当初から気になるところのあった下女のみおが、次第にその本性を現してくる。ふと衝動的に彦三郎と抱き合ってしまった現場を見られたらしいことから、沙代はみおに生殺与奪の権を握られ、あろうことか下女に脅されることとなります。
みおの狙いは何なのか。目的が判らないだけに、不気味さは一層募ります。
結末は一気呵成に進みます。みおの正体が判明するものの、そこにはもっと深い闇が沙代を待ち受けていた、という展開。
今まで沙代が信じていた生活は、砂上の楼閣の如きものだったのか。誰そ彼れ心中に通じるサイコ・サスペンスの要素を本作品は備えています。そのうえで、さらに一転二転。
サイコ・サスペンスの様相を持たせながら、時代小説らしい小説ネタを随所に織り込み、それでいて全体の印象は軽やかという、見事なお手並み。
(諸田さんに)腕を上げたなぁ、と感じる快作です。
なお、沙代が彦三郎と、鉄砲を間にはさんで抱き合う場面は、圧巻。

   

17.

●「鷹姫さま−お鳥見女房−」● ★☆


鷹姫さま画像

2004年09月
新潮社刊

(1500円+税)

2007年10月
新潮文庫化



2004/10/08

時代小説版ホームドラマ“お鳥見女房”シリーズ第3弾。
主人の伴之助は2年余りの探索活動から無事帰還したものの、それ以来心の奥に闇を抱えている、というのが本書の案内文。

矢島家の居候、石塚源太夫一家は近所へ引越ししたものの、2日と空けず皆が矢島家に出入りしており、相変わらず珠世の周辺は賑やかで微笑ましい。
本巻では、矢島家の子供たち、久太郎、久之助、君江、3人それぞれの恋模様が描かれています。夫・伴之助を気遣う珠世とは対照的ですが、家族それぞれいろいろな出来事があってこそ家族ストーリィと言えるのでしょう。隠居の久右衛門についても、これまで秘めていた過去が明らかになるのですから。
そうした中で本書に彩りを与えているのは、表題ともなっている“鷹姫さま”の登場。どこの姫君が?何故?と訝ったのですが、それ程の姫君という訳でなく、老中水野越前守に仕える鷹匠、和知正太夫の三女・恵以のこと。子供の頃から鷹に馴染み、気性が強くてわがままなところから鷹姫さまと異名をとる娘。
その恵以との縁談が久太郎に持ち込まれます。格上の相手でありさて久太郎はどうするのか...。
この鷹姫が、幾つかの篇で時々顔を覗かせるのが楽しい。
第1巻第2巻と同様、気軽に楽しく読める時代小説です。

雪夜の客/鷹姫さま/合歓の花/草雲雀/嵐の置き土産/鷹盗人/しゃぼん玉/一輪草

 

18.

●「山流し、さればこそ」● 


山流し、さればこそ画像

2004年12月
角川書店刊

(1700円+税)

2008年01月
角川文庫


2005/06/07

小普請世話役として出世街道にのっていた筈の矢木沢数馬は、突如として甲府小普請組への転出を命じられます。原因は数馬を疎んだ同僚による讒言のため。
甲府勤めは俗に「山流し」と言われる左遷人事。妻・多紀と7歳になる長男・文太郎、忠実な下男を連れて数馬は甲府に赴きますが、納得できず憤懣を抱えたまま。
そしてその甲府の地は、見かけの繁栄に反して、勤番侍たちが新参いじめをしたりと、荒んだ気持ちを抱えた武士たちが横溢する土地だった。
しかし、数馬は学問を広めることに熱意を抱く富田武陵、世話役的存在である末高友之助という近隣者との友誼を得て、徐々に心持を改めていきます。赴任当初の陰鬱な気分から抜け出すとともに、江戸で自分自身の立身出世ばかりを考えていたことへの自省が生まれます。さらに、この地で伸びやかに暮らし始めた妻子の姿をみて生きるうえで何が大事かを考え直していく。

本作品は、そんな主人公・矢木沢数馬の再生を根底で描くと同時に、町人に危害を加える化け物騒ぎとの対決、怪しげな女・都万との波乱ある展開を描いていくストーリィ。
現代サラリーマンにも通じる内容ではありますけど、諸田作品としてはインパクトに欠ける一冊。

 

19.

●「末世炎上」● ★☆


末世炎上画像

2005年01月
講談社刊

(1900円+税)

2008年06月
講談社文庫



2005/07/21

 866年に起きた応天門の変(応天門炎上に端を発した政治的陰謀事件)を題材にした平安朝サスペンス。
ただし、本ストーリィの時代設定は 866年ではなく、その 200年後という凝ったもの。その辺りは諸田さんの手腕の冴えと言うべきでしょう。

貧民階級の娘・髪奈女は貴族の若者らに拉致され、弄ばれた末に打ち捨てられる。ボロ衣同然となった髪奈女を往来で拾い上げたのは、大内裏御門の警備を勤める役人・橘音近主従。
意識を取り戻した髪奈女は記憶を失っており、彼女が覚えているのは夢の中で呼ばれた吉子という名。そして持っていたのは凝った螺鈿細工の筒のみ。
音近は吉子の身元を調べる内に歴史的な事件(応天門の変)と、その再現を企てる陰謀に遭遇することとなります。吉子とは 200年前に実在した高名な女性、○○○○。そしてさらに、在原業平も当時の関係者として浮かび上がってきます。
奇しくも髪奈女の身に○○○○が蘇り、彼女をめぐって在原業平の末裔である在原風見も音近と協力して陰謀事件に立ち向かう。
そして風見以外にも、紀貫之の末裔である紀秋実、応天門放火事件の犯人とされた伴善男の末裔である伴信人、謎の女性・烏羽玉、怨堕羅夜叉明王を崇める御導師と、皆 200年前の事件に関係した人物の蘇りあるいは末裔と賑やか。

髪奈女が繰り返しみる夢をはさみながら、 200年前の事件と現在の事件を二重映しにして展開される平安朝サスペンス。
「吉子」とは誰か。各登場人物の出自の面白さ、所々挿入される和歌の味わいと、興味惹かれる要素は幾つもあるのですが、この時代への興味がそもそもないと「あぁそうか」で終わってしまうところが多分にある作品。
率直に言って、私自身がそう。応天門の変も知りませんでしたし、平安朝の政治的事件に興味もあまりなかったので、流されるままにストーリィを追っていたというのが実際のところ。
平安朝時代への関心の高低により、本書の面白さは随分と違うこととでしょう。

    

20.

●「昔日より」● ★★


昔日より画像

2005年04月
講談社刊

(1800円+税)

2008年12月
講談社文庫化



2005/09/25



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江戸開闢からその終焉までの武士の姿を、8つのストーリィで描いた連作短篇集。
諸田さんが吉川英治文学賞を受賞した其の一日の姉妹篇とでもいうべき一冊だそうです。

本書が見事なのは、短いストーリィの中で江戸開府時の人々の高揚感、徳川初期に残る闘争意識、長く続く幕府時代の中で次第に体制に組み込まれていく武士の切なさ等々が、鮮やかに描き出されていることです。
本書中一番の傑作は「似非侍」
武士の一分のために中間に身を落とした男と、彼に窮地を助けられた似非武士の交流を描き、最後に思わぬ結末を配したこの一篇は実にお見事。

それ以外で鮮やかに印象に残るのは、父親は関ヶ原の猛者ではなかったと疑惑を抱いた息子と、最後に堂々とした姿を見せる父親の姿を描いた「新天地」
そして、単に武士階級を描くだけでなく、たった一度過ちを犯した武家の妻女の心の内を描く「女犯」は新鮮な味わいがありますし、年老いて突如隣家の若い娘に心を奪われてしまった老剣客を描く「子竜」はとてもユーモラス、人間の面白さを語って止まない一篇です。
また、道ならぬ恋を成就させようと尽力する家康の元愛妾と配下の老忍を描く「黄鷹」、水野十郎左衛門の真似をして傾き者を気取る連中とその仲間から袂を分かった武士の姿を描く「微笑」、打役という因果な役回りに振り回される牢屋同心親子を描く「打役」には武士の悲哀が感じられて捨て難い。

要は、8篇すべて趣きが異なり、それでいてどの篇も味わい深いストーリィばかりなのです。
様々な味わい深いストーリィを1冊で読みたいと思う時代小説ファンには、是非お薦めの一冊。

新天地/黄鷹/似非侍/微笑/女犯/子竜/打役/船出

  

読書りすと(諸田玲子作品)

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諸田玲子作品のページ No.6

 


  

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