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12.ミサキア記のタダシガ記 13.ターミナルタウン 14.手のひらの幻獣 15.ニセモノの妻 16.メビウス・ファクトリー 17.チェーン・ピープル 18.30センチの冒険 19.作りかけの明日 20.博多さっぱそうらん記 |
【作家歴】、となり町戦争、バスジャック、失われた町、鼓笛隊の襲来、廃墟建築士、刻まれない明日、コロヨシ!!、海に沈んだ町、決起!−コロヨシ!!2−、逆回りのお散歩 |
名もなき本棚 |
11. | |
「玉磨き」 ★☆ |
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2016年06月
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ルポライターの「私」が6つの奇妙な仕事の現場を訪ね、話を聞いて回るという趣向の連作短編集。 「玉磨き」では、ただただ玉を磨き続けるという伝統工芸、その唯一の継承者を訪ねる話。 6篇のどれも、一体何の為に?と言われれば、全く答えようのない仕事ばかり。それでも仕事となれば、人というのはひたすらそれに打ち込む、ということがあるもの。 はじめに/玉磨き/只見通観株式会社/古川世代/ガミ追い/分業/新坂町商店街組合/終わりに |
12. | |
「ミサキア記のタダシガ記」 ★☆ |
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「ダ・ヴィンチ」「本の旅人」で4年にわたり連作された人気エッセイの単行本化ということですが、エッセイというよりコラムというところ。 三崎さんには失礼ながら、ヒキコモリ作家が世間で起きたり言われたりしている様々な事柄について、ほんとにそうなの、私はこう思うんだけど、と一言コメントしているという風。 「ミサキア記のタダシガ記」は、「ダ・ヴィンチ」2009年05月号〜12年04月号+「本の旅人」12年04月号〜13年03月号の連載エッセイ。 ミサキア記のタダシガ記/ミサキア記のツブヤ記/ミサキア記のケンブツ記 |
13. | |
「ターミナルタウン Terminal Town」 ★★☆ |
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2016年10月
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鉄道と共に繁栄したターミナルタウン=静原町、そしてターミナル駅の静ヶ原駅。 見えないタワーの存在、トンネルではなく種から育て上げられるという隧道に、その担い手である隧道士。寂れた商店街に、東西に分裂した住民。 いかにも三崎さんらしい作品ですが、これまでの三崎作品を凌駕する大きな骨格をもった物語になっています。 架空小説でありながらリアル、町の再生ストーリイである筈なのにサスペンス風。 |
14. | |
「手のひらの幻獣」 ★★ |
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2018年03月
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イメージした動物をあたかも現実に存在するかのように出現させる(表出)ことのできる異能力者たちを描いた連作中編小説、2篇。 何とも不思議なストーリィ。ファンタジーでもなくSFといった感じでもなく、現在我々が存在している世界とパラレルにある別世界を描き出してみせている、といった印象です。 主人公は日野原柚月という、30代女性の表出能力者。突出した力をもつ能力者という訳ではないのですが、表出能力を巡る様々な秘密計画に次々と彼女は直面します。 |
15. | |
「ニセモノの妻」 ★★ |
2019年01月
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三崎亜記さんらしい不条理な世界を舞台に、4組の夫婦を描いた短篇集。 三崎さんにあっては不条理な世界など今更珍しくも何ともないのですが、本書についてはこれまでの作品と違って、何やらとても楽しいのです。 清々しい印象を受ける表紙絵によるものではなく、あくまでもストーリィによって。各篇それぞれに何処かユーモラスな味わいがあるのです。 ・「対の筈の住処」:新築マンションを購入して移り住んだ新婚夫婦。そのマンションに何故か奇妙なことを感じて・・・。 ・「ニセモノの妻」:数年前から突然本人のニセモノが現れるという事象が起きる。そしてある日、妻が「もしかして、私、ニセモノなんじゃない?」と言い出して・・・。 ・「坂」:“坂”ブームが到来し、ついに妻を含む坂愛好者たちが我が家の前の坂をバリケード占拠。住民たちと揉め事になるのですが、その結果は・・・。 ・「断層」:時間の断層ができた結果妻が時間の歪みに入り込んでしまう。一日に数十分だけ戻ってくる妻とは次第に時間の乖離が広がっていき・・・・。 何と言っても面白かったのは、表題作「ニセモノの妻」。 2人でホンモノを探すために出掛けて行くところはまるでカップルによる冒険物語のようです。ニセモノといっても、その自覚がある以外はホンモノと瓜二つ。そのうえニセモノであるという自覚を持つ故に謙虚なのです。夫にとっては妻でありながら新鮮という次第。 そもそもホンモノとニセモノと区別することに何の意味があるのか(ホンモノ妻は怒るでしょうけれど)・・・・。 不条理なのにユーモラスな味わいある短篇集。お薦めです。 終の筈の住処/ニセモノの妻/坂/断層 |
16. | |
「メビウス・ファクトリー Mebius Factory」 ★☆ |
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ブラック企業に勤めていたアルト、シングルマザーだった美野里と結婚、子のキララと3人で8歳の時に去った町に戻り、巨大工場をもつME創研で働き始めます。 至れり尽くせりのこの町、町の外へ行く必要はまるでない暮らしにアルトは満足するのですが、逆に美野里はその閉鎖性・拘束性に疑念を抱き、不快感を隠さない。やがて・・・。 主人公は町に戻ってきたアルト、製品の鑑定士見習いとなった遠野、前の会社時代からの熟練工である日比野、彼らの指導役である女性=浪野と章毎に入れ替わりますが、総じて不条理を感じさせられる処は共通しています。 不条理なストーリィと言えば、フランツ・カフカ「城」。 本作品もまた「城」を連想させる作品ですが、未来社会のSF的リアルさ、連作形式である処が発展系。 目に見えたものしか判らない、偽装されてもそれが真実か虚偽かの判断などできよう筈もない、結局は報道されたものを真実として信じる他ない、本ストーリィのそうしたポイントは、未来だけでなく現代社会においても起こりうることかもしれません。 現代社会へのそんな警告メッセージも潜めている連作風長編。 “不条理”は三崎亜記さんの常なるテーマですが、今回はそれ程面白いとは思えなかったなァ・・・。 1.新入社員/2.鑑定士見習い/3.熟練工/4.新入社員、その後/5.新人鑑定士/6.パンデミック/7.お尽くし |
17. | |
「チェーン・ピープル」 ★☆ |
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2019年10月 2017/07/04 |
奇妙に現実的で、奇妙に非現実的、という如何にも三崎亜記さんらしい6篇を収録した短篇集。 ・「正義の味方」:モデルはウルトラマンなのでしょう。敵か味方かの区別を棚上げして、損害論だけで批評されたら、そりゃウルトラマンだってたまりません。 ・「似叙伝」:“自叙伝”ではなく“似叙伝”とは? 何となく複雑な気持ちにさせられますが、安らぎは必要ですよね。 ・「チェーン・ピープル」:表題作。チェーン店を人間に当てはめたもの。まさか、応募制とは思いもしませんでした。 ・「ナナツコク」:頭の中にある地図によって存在するナナツコクとは、実在するのか? ・「ぬまッチ」:“ゆるキャラ”の風刺と思いましたが、「裸の王様」にも繋がるのでしょうか。 ・「応援」:「ぬまッチ」で緩んでいたところをガツンと一発やられた気分。これは凄い、恐ろしい。ネット社会の現在、こんな事態が生じても何ら不思議ない・・・のではないでしょうか。 正義の味方−塗り替えらえた「像」−/似叙伝−人の願いの境界線−/チェーン・ピープル−画一化された「個性」−/ナナツコク−記憶の地図の行方−/ぬまっチ−裸の道化師−/応援−「頑張れ!」の呪縛− |
18. | |
「30センチの冒険 Adventure in 30cm」 ★★ |
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2021年09月
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よくもまぁ次々と奇想を思いつくなぁ、と三崎さんには頭が下がる思いです。 本ストーリィの舞台となる異世界は、絶えることのない人の争いに怒った統治者(神様?)が“遠近”を奪い去り、地図も失われた世界。 そのため、目に見えるものがそこにあるとは限らず、人は家の外に一歩でも踏み出せばたちまち自分の居場所が分らなくなり、道に迷ってしまう。 その異世界に迷い込んでしまったのは、図書館司書のユーリ。 眠ってバスを乗り過ごしてしまい、終点で降りればそこはもう異世界だった、という次第。 たちまち砂に埋もれそうになったユーリを助けたのは、40代半ばの女性=エナさん。 再び<大地の苦難>に見舞われる前に大地を固定しようと、30センチの物差しを携えたユーリとエナさん、施政官、不思議な訓練を続けるムキは、測量士の一隊と共に<貯刻地>を目指して旅立ちます。 しかし、思わぬ困難、裏切りが・・・。 謎の塔<ノリド>、住民を連れ去ってしまう<鼓笛隊>、鳥のように空を飛び回る本の大群、<本を統べる者>、象の墓場と、奇想は留まるところがありません。 そして、ユーリと関わったことから、エナさんにも思わぬ影響が生じて・・・。 一言で語るなら“ファンタジー冒険”というところですが、ファンタジーの域を超えて、やっぱり“異世界”と言うに相応しい。 最後は再び旅立ちへ。 エピローグで、ようやくこの物語の前後が繋がった、という印象。 ここに来てやっと、温もりある安らぎを感じた気分です。 読み手の好み次第ではありますが、たっぷり楽しめました。 1.砂の導き/2.大地の秩序/3.鼓笛隊の襲来/4.測量士との旅/5.象の墓場/6.貯刻地/街への帰還/エピローグ |
19. | |
「作りかけの明日 On the way to making the future」 ★☆ |
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「30センチの冒険」といい、本作といい、三崎亜記さんが創り出す仮想世界、ますます広大なものになっている、という気がします。 その広大さ、緻密さに読者が付いていけるかどうか。 それが物語を楽しめるかどうかに関わっていると思うのですが、「30センチの冒険」では楽しめたものの、本作では本作の構造についていくのが精一杯で、楽しむどころではなし。 ひとつの原因としては、主人公が誰と設定されておらず、複数、多数の人物がその時、その場に応じて主役となっているから、と思います。 人の思念を蓄積して活用する、その秘密実験が失敗に終わった10年後からストーリィは始まります。 実験の失敗により人の思念を狂わせてしまう異質化思念が異常活性化、一時的にそれを抑える為、<予兆>であるキザシと研究の責任者であった寺田博士が地下プラントに入り込んでから10年、というのが本ストーリィの舞台設定。 思念供給公社と、その監督機関である管理局は、プラントをコントロールするために利用しようと、競ってキザシの長女であるハルカの行方を追います。 <置き換える力>を持つ老女の瀬川、<思念耐性>を備えるプラント保安局員の黒田は、10年前にキザシと寺田博士から何かを託されている。 一方、供給公社の追及からハルカを救い出したカナタは、<思念過敏体質>の青年。 早苗は、母親が作ったという礼拝所を再び人の集まる場所にしたいと、恋人である浩介と共に奮闘中。 西山くん、滝川先輩と呼び合う、市役所図書館勤務の夫婦は、第5分館の閉鎖書庫のことが気になる・・・・。 最後、ようやく地下プラントの始末に決着がつくのですが、得心できるかというと、さに非ず、というのが正直な感想。 なお、ハルカの妹サユミは学校の部活で「掃除部」に属し、閉鎖書庫に収蔵している本は、<本を統べる者>の元から送り出されたもの、というのですから、もう何が何だか。(笑) プロローグ/1.海から遠い場所/2偽りの雨/3.忘れられた鐘の音/4.飛べない呪縛/5.歯車の軋み/6.2月25日 SideA/7.2月25日 SideB/エピローグ(A year since then) |
20. | |
「博多さっぱそうらん記」 ★☆ |
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三崎亜記作品というと奇想世界という印象があるのですが、本ストーリィはまさにその典型。 ただし、これまでの作品よりユーモア度が高い印象です。 1889年、市町村制度施行に伴う市名決定の際に「福岡市」とするか「博多市」とするかが争われ、1票で「福岡市」に決定、その代わりとして駅名を「博多駅」としたのだとか。 町としては町民主体の博多の方が賑わっていたのにという長年に亘る“博多市の怨念”が今噴き出します。 その怨念を正のエネルギーに変換してきた“羽片世界”を守り続けてきた者たちが<ハンの者>と<カタハネ>の2派に別れて対立し、福岡市を揺るがし始めます。 現世界を守る鍵とされたのが、地元博多っ子の福町かなめと、かなめの中高同級生で8年ぶりに博多にやってきた綱木博の2人。 ところがこの2人、かつては仲が良かったというのに、高校時代のトラウマが原因で博、かなめに敵愾心を向けるばかりか、すっかり博多嫌いとなっていた。 こんな2人が果たして現福岡市の街を守れるのか? まぁ、いろいろな地元名物が登場します。 せいもん払い(大売出)、玉せせり(九州三大祭のひとつ)、博多どんたく、福岡大仏に戦前の博多大仏、そして旧博多駅を巡っての大騒動と。 地元民であればお馴染みのものばかりなのでしょうが、福岡は市内を一度通り過ぎただけの私にとっては知らぬことばかり。それでも福岡・博多の云々については知っていましたので、それなりに楽しみました。 題名の「さっぱそうらん」とは、大騒動、滅茶苦茶、といった意味だそうです。まさにそのとおりの展開。 ※なお、本作、1890年の市名騒動と2016年の博多駅前陥没事故に着想を得て書かれたSF小説で、2021年3月から9月までRKBラジオで連続ラジオ朗読劇として放送されたそうです。 1.せいもん払い/2.玉せせり/3.どんたくの「とおりもん」/4.博多駅沈没!/エピローグ |
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