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3.陛下 4.卑弥呼 5.謎の母 6.逃げ水半次無用帖 7.桃 8.燃える頬 9.蕭々館日録 10.あべこべ 11.百關謳カ月を踏む |
●「一九三四年冬−乱歩」● ★★★ 第7回山本周五郎賞 |
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1993年12月 1997年02月 2013年01月
1997/03/02
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江戸川乱歩、40歳の昭和9年冬、4日間の物語。 まず、『梔子姫』という乱歩の書く短篇(実際は久世光彦の書いた作品)、がこの小説の中に入り込んだ形で完結している。この短篇が妖しい魅力をもった作品。乱歩自身の作品を読んだことがないので、この作品が乱歩的なのかどうかは判りませんが、いかにも、という雰囲気をもっています。この短篇を、乱歩自身、結末がわからないまま書き進んでいくのです。その乱歩の心理状態を読みながら、書かれる作品を読む、ということの中で、『梔子姫』のもつ妖しいエロティシズムが増幅されているように感じられます。 |
●「早く昔になればいい」● ★ |
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1994年11月 1998年12月
1997/03/31 |
主人公が、過去から引きずっている情念の深さを感じてしまいます。それは何時からのことなのか。しーちゃんとの思い出の月のきれいな夜からに他ならないでしょう。主人公から、その後の人生を感じ取ることはできない。すべては、その日で頂点を極めたかのような観があります。 |
●「陛下」● ★ |
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1996年01月 1999年03月 2003年3月
1997/06/25 |
久世作品は、なかなか理解し難い、というのが実感。今回も狂女が出てくる。「早く昔になればいい」と同様。
それにしても、作者の中では幻影への憧れが強いのだろうか。主人公梓は、幻影に陶酔するかのようである。陶酔を必要とせずに幻影をみることができる人として、狂女を可憐に描き出している気がする。 |
●「卑弥呼」● ★★★ |
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2000年07月
1997/08/10
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とにかく充分に楽しみました。また久世さんの良さを満喫した思い。不思議な魅力があります。主人公はユウコとカオルという、羨ましいくらいの若いカップルなのですが、その二人には密かな難問がある。 とにかく、読み始めに感じたように、明るく卑猥でいて、それでいて気品が合ってプラスおおっぴらで。 ユウコとカオルの恋人物語とユウコの雑誌の編集企画に関わるストーリイが互いにもつれ合うようにして展開し、納得感あるジ・エンドになるところが嬉しい。それにしても、カオルのおばあちゃんの活躍ぶりには、目を見張る面白さがあります。特筆すべき登場人物のひとり。(※おばあちゃんのおかしさの圧巻は、単行本P303を見てください。) |
●「謎の母」● ★★ |
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2001年07月 1998/08/26 |
不思議な清冽感のある作品です。 主人公さくらは、戦後2年目の今15才の女学生。 「私の名はさくら−咲くときも、散るときも、ちゃんと自分で知っています。」 |
●「逃げ水半次無用帖」● ★★ |
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2002年02月 |
不思議な雰囲気の漂う作品です。妖しいと言うか、婀娜っぽいと言ったら良いのか。
童子は嗤う/振袖狂女/三本指の男/お千代の千里眼/水中花/昨日消えた男/恋ひしくば |
●「 桃 」● ★ |
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2005年03月 |
久世さん初の短篇集。 どんなストーリィなのか、どんな作品であるかを説明するのは、とても私の手に余ります。ただひとこと、間違いなくこれは久世光彦の世界であり、久世さんしか描けない小説中の世界です。 桃色/むらさきの/囁きの猫/尼港の桃 /同行二人/いけない指/響きあう子ら/桃−お葉の匂い |
●「燃える頬」● ★☆ |
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2000/08/30 |
戦時中、父と2人で疎開生活を送っていた
夏夫の、初めて性体験をしたひと夏を描く作品。 |
●「蕭々館日録」● ★ 泉鏡花文学賞 |
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2022年03月
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大正から昭和への移行期、芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎ら文士の交流を描き、過ぎ行く時代への愛惜を綴った作品です。 この小説の語り手となるのは、児島蕭々(小島)の娘・麗子。岸田劉生の娘と同じ名前であることから、その麗子像の画と同じ髪型、赤い着物を着ているのが常です。5歳ながら、文士たちを観察し、彼等の作風、文章についても的確な批評眼を持っているという妖しい幼女。そして九鬼(芥川)に対しては、女としての情を深く抱いています。 父親が“蕭々館”と名づけた自宅には、九鬼、蒲池(菊池)ら“高等遊民”が年中集い、様々な語らいに時間を過ごします。そんな場に常に侍り、お茶や酒食を運ぶのは、母親ではなく麗子です。なんとなく漱石の「我が輩は猫である」を連想させますが、磊落なこの雰囲気は、大正という時代の残り火なのかもしれません。 読み進むにつれ、蕭々館に集う仲間たちには暗い影がさしていきます。その原因は、中心的な存在だった九鬼が、次第に亡霊の如き様子を深め、遠くない死期を周囲に感じさせるようになる為。大正こそ九鬼が生きるに相応しい時代だった、というのが久世さんの思いのようです。 麗子は幼女ですが、皆を見守る母性的な存在でもあります。そして九鬼に対しては、恋人のように、時には母親のような存在にもなります。その妖しさが、本作品の特徴、魅力です。 麗子の近所友達として登場する比呂志、6歳も興味深い存在。芥川の実子と同名ですが、早熟な文学児として三島由紀夫を連想させます。比呂志の発言の後にその年齢を聞いて、皆がのけぞる辺りが可笑しい。 ともかくも、肉感的な芥川像を描いてみせた作品です。 |
●「あべこべ」● ★ |
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2002/05/14 |
久世さんの作品は、いつも普通ではない雰囲気に包まれています。本書もまたその例外ではありません。 その“弥勒さん”とはどんな人なのか? 蝋燭劇場/引き算/岸駒の虎/二度死に南北/狐目の女/鯒さんの春/あべこべ/眠さんが眠らないわけ/月下の一群 |
●「百關謳カ 月を踏む」● ★☆ |
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2009年01月
2007/06/08
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内田百先生が小説の主人公?という訳で、図書館で見つけて以来いずれ読んでみようと思っていた作品です。百閭tァンなら、きっと興味そそられる筈。 本書に描かれる百關謳カの状況は、小田原にある寺の仏具小屋に棲みつかせてもらい、15歳の小坊主・果林に世話をしてもらっているという日常。 主人公は百關謳カですが、その百關謳カは果林の目を通して語られます。 「日没閉門」「世の中に 人のくるこそ嬉しけれ とは言ふものの おまへではなし」という、百關謳カが門柱にかかげた札はまさに面目躍如と言うべし。 金魚鉢/大尉の娘/蜜月/青髪/森閑 |