小杉健治作品のページ No.



11.検察者

12.裁きの扉

13.殺意の川

14.宿敵

15.容疑者

16.曳かれ者

17.失跡

18.それぞれの断崖

19.偽証法廷

20.落伍せし者


【作家歴】、陰の判決、原島弁護士の愛と悲しみ、死者の威嚇、月村弁護士・逆転法廷、絆、影の核心、疑惑、汚名、土俵を走る殺意、最終鑑定

→ 小杉健治作品のページ No.1


殺人法廷、父と子の旅路、父からの手紙、公訴取消し、第三の容疑者、もう一度会いたい、家族、裁判員、決断、声なき叫び

→ 小杉健治作品のページ No.3


罪なき子、逃避行、死の扉、母子草の記憶

→ 小杉健治作品のページ No.4

 


         

11.

「検察者」● ★★

 

1992年12月
集英社刊

1997年04月
集英社文庫化

 

1992/12/27

内容のかなり盛り沢山な推理作品です。その分迫力に欠けるという面があるものの、単なる推理小説に終わらず、社会問題をしっかり提起している点、小杉さんらしい作品です。
本書は、検事検察審査会弁護士と、各々の正義の在り様を、それぞれの立場の人間から描き出す内容となっています。
事件は、2つの異なったものが同時に進行します。
第一は、鷲尾塾というスパルタ式の管理職特別研修で起きた、研修生の急死事件。担当検事は政治的圧力に屈し、本件を不起訴処分としますが、検察審査会に選ばれた湯川珠美は、青野と名乗る男から審査会において鷲尾事件を取り上げるよう勧められます。審査会に選ばれたメンバーはいろいろです。モーレツ社員である有藤は、選ばれたことによって会社の重要プロジェクトから外されるのではないかと心配ばかりが先に立ちます。
第二は、渡部という男が自殺に見せかけられて殺害された事件。桐生という若い検事と、検察に敵対する、司法試験合格の経歴をもつ河原崎警部が登場。そして、この事件には、水木弁護士が登場します。水木弁護士の登場により、事件は新たな展開を見せることになります。
検察の正義と政治圧力の問題、検察官における良心の問題、警察における捜査での先入観、過信の問題。そして、弁護士は被告の意思に反してでも真実を明らかにすべきかどうか、という問題。それらを巧みに纏め上げ、本書は読み応え充分な作品になっています。

  

12.

「裁きの扉」● 

 

1993年05月
講談社刊

1996年05月
講談社文庫

 

1996/05/26

ミステリーというより、社会問題を取り上げた作品です。
中心ストーリィは、ある私立幼稚園の存続問題。経営者と教諭、父母が対立します。もうけ主義と理想主義の対立。そして、双方の弁護士となる西城藤枝みずえは、かつて恋人同士だった間柄。
また、利権に絡む地元不動産業者、料亭の女将が重要人物として登場し、更にミステリ要素として、刑事の失踪、西城自身の謎めいた過去があります。
幼稚園の存続紛争は、実際に神奈川県の鶴見で起きた事実であり、小杉さんはそれに創作意欲を誘われた、ということです。あらゆる妨害を弁護士の手を借りて行う経営者の宮下と、必死で守ろうとするみずえと父兄たち。身近な問題として興味深いものがありました。
ただし、どちらかに絶対の正義があるわけではない、というみずえの先輩弁護士の忠告は、重たい事実を語っています。
ミステリという面では物足りなさもありましたが、それなりに読み応えのある作品です。

 

13.

●「殺意の川」(「緋の廷」を改題)● 


1994年
集英社刊

1998年04月
集英社文庫
-改題-
(667円+税)

 

1998/05/04

社会問題を題材とした法廷ミステリ5篇。少年犯罪、保険金詐欺、医療過誤等々。
小杉さんの法廷推理ものは、単にミステリの面白さを追うのではなく、常に人が人を裁くことの難しさを追求しています。それをもっとも体言しているのが
水木弁護士であり、本書でも4篇に登場。
「事件のみではなく、その人間の人生の弁護人になったつもりで事件の弁護を引き受ける」という信条をもつ水木弁護士の存在は、犯罪者、被害者双方の心情を救うものだと言って良い。そんな水木でさえ、打算的な弁護士稼業の誘惑にかられることもある。
理想を追うことの難しさをわかっているからこそ、著者の訴えが読後余韻として残ります。

季節のない川/すみだ川/罪の川/偽りの川/真実の川

 

14.

●「宿敵」● 

 

1994年08月
新潮社刊

1998年12月
集英社文庫化

 

1994/09/11

全国弁護士連合会の会長選挙をめぐる駆け引きが、本ストーリィの主軸。そして主題となっているのは、目的をもって行動する人間と、目的のためなら何をやっても良いと考え結果的に目的を外れてしまう人間との、対立の構図です。
弁護士の北見は、河合の選挙運動のリーダーとして活動していましたが、弁護士会を反権力の砦として守ることを最大の目的としています。しかし、選挙運動の進展と共に、検事側の圧力、或いは全弁連会長の座を射止め権力を手中にすれば良い、といった姿勢が露わになってきます。
弁護士という職業の実態、弁護士会内部の抗争、弁護士と検察の対立の歴史、そして企業の政界工作つまり賄賂という永久の問題。
そしてサブ・ストーリィとして、サラリーマンの過労死問題。
サスペンスに名を借りて社会問題を摘発するあたり、作者本来の実力を感じさせる作品です。
最後は、現代社会にはまだ救われるチャンスがあると提示されているようで、爽快感を味わうことができました。

   

15.

「容疑者」● ★★

 

1996年09月
講談社刊

 
1999年07月
講談社文庫化

 

1996/10/14

小杉さんは本来法廷推理物が得意の作家なのですが、最近は社会派小説に傾斜している様子。本書は久し振りの推理物であり、楽しめました。
本作品は珍しく、地道な地元署の刑事が主人公。ストーリイは、人気弁護士の殺人事件発生から始まります。
読み始めてから暫くの間違和感があったのは、犯罪捜査以外のものが本作品の主題らしい、さてそれは何か、という戸惑いがあったからです。しかし、後半を過ぎると主題らしいものが見えてきます。

主題は、本書中に登場するあらゆる類の人間群像にある、と言えます。
主人公の矢尋文吉は小唄の練習に励む刑事ですが、その知識が捜査上にも役立つのが面白い。そして彼の義父は、たかりの金で自分が逮捕した窃盗犯の妻娘を援助し、名刑事といわれた人物。また、矢尋の息子はいじめにあった学友が自殺し、いじめた本人に謝罪させようと奮闘しているところ。
知坂刑事は、妻がありながら、逮捕したヤクザの愛人と関係ができている。高柳刑事はどこか頼りない。定年を控えながらも、未解決の殺人事件に未だ執念をもっているのが、塚田警部補
また、いじめ側の岩田少年は、幼い頃から父親に虐待されて育った子供。更に、その父親である岩田卓男、新たに容疑者として浮かび上がる加賀美悦也、本書に描かれる人間群像は、きりが無いほどです。そんな中から、7年前の事件も謎解きがされていきます。
とくに感動的というストーリィではありませんが、含みの多い、手堅さを感じさせる好作品です。

  

16.

「曳かれ者」● ★☆

 

1997年02月
角川書店刊

2001年05月
角川文庫化

 

1996/10/14

容疑者に続く、矢尋・知坂刑事もの第2作。続編と言って良い内容です。
本作品は、事件の捜査以外に、矢尋刑事自身のルーツを探るという二兎を追ってしまった為、推理という部分のキレがかなり悪くなってしまったという印象が強い。
今回、2件の殺人事件がストーリィに絡みます。容疑者白根千秋の出生の事情を調べる為、矢尋は越中の城端町を訪れます。そこで突然、彼の記憶の中に、子供の頃母に連れられてこの町を訪れた記憶が蘇ります。曳山祭、庵唄で知られる町。千秋を捜査するに伴い、矢尋は自分の母親の謎をも究明していくことになります。
事件の真相究明というミステリ性はあっても、本書は矢尋刑事、そして容疑者の女性・白根千秋の生い立ちを探る、ストーリィ性の高い作品です。

   

17.

「失跡」●

 

1997年11月
講談社刊

2000年11月
講談社文庫化

 

1998/8/25

矢尋・知坂刑事もの第3作
正直言って、
あまり面白くありませんでした。冒頭から当事者に嫌悪感をもちました。結末近く盛り上げるお手並みはさすがというところですが。
医薬品関連の出版会社を経営する倉沢。実態は、医学会の有力者・鶴田教授のリベート受領するための団体口座を管理するのが仕事なのですが、その倉沢の愛娘・亜子が誘拐されます。目的は4億円か、鶴田らとの仕組みの暴露というもの。
犯人は、鶴田らによって薬害を受けた被害者なのか。倉沢の様子に疑念を抱いた知坂が、倉沢の身辺を調べ、真相に近づいていきます。
薬害問題、婚約者の失踪事件、倉沢夫婦の亀裂・修復と、幾つものストーリィの陰で、やたらセックスが鍵となっていることに、嫌な気分がしました。

   

18.

●「それぞれの断崖」● ★★




1998年04月
NHK出版刊

(1600円+税)

2001年04月
集英社文庫化

1998/07/15

amazon.co.jp

少年犯罪における被害者そして加害者の家族が陥った苦悩の物語。
被害者の少年の父親を第一人称とするだけに、父親の抑え難い憤怒に圧倒されるまま本から手が離せず、一気に一日で読み上げてしまいました。

父親の加害者の少年に対する憎しみ、告発。その反響は自分への非難の殺到として現れ、ついには家族の崩壊という結果にまで及んでしまう。家族を失い、仕事までも失った父親ののたうつ様はまさに地獄図のよう。私自身が中学生の息子を持つだけに、いざ自分がそういう立場に陥ったらと思うと、怖気立ちます。
次に父親が踏み込んだ女性関係。それは被害者および加害者の家族がどんなに苦しみの中にのたうち回るしかないかを象徴的に表していると思います。(作為的過ぎる面もありますが)

最後は収まるべき結果に収まるとはいえ、読後感は意外にすっきりとしていました。一環としてヒューマニズム路線を歩んできた作者への信頼感が、常に内心にあった所為かもしれません。新聞での書評も欠点として同趣旨のことを指摘していましたが、でもそれは仕方ないこと。

 

19.

●「偽証法廷」● 



1998年07月
双葉社刊
(1700円+税)

2002年11月
双葉文庫化

2024年02月
祥伝社文庫

1998/11/23

冤罪事件を多く題材としてきた作者が、これまでの傾向にあえて反し、「私は今度の作品でその言葉(極悪人であっても関係ない事件で有罪にしてはならない)に逆らってみよう」とした作品。
その言葉どおり、犯人に対して恐怖感を覚えるほど、迫真に充ちたストーリィとなりました。

何としてでも凶悪なこの男を法で閉じ込めたいと渇望する刑事・大場
一方、この男の犯罪性を確信し迷いながらも、無実の事件で無罪立証に努める弁護士・万城目。
その傍らでは真犯人の探索、大場の個人的捜査が進みます。

幾つかのストーリィが同時並行して展開されながらも、それらが輻輳せず、きっちりとした流れとなっている点は、さすが作者ならではのもの。
犯人にさえ非常に引きつけられるものを感じます。

読了後の感動といったものはありませんが、息の詰まるようなサスペンスとして、手堅い作品であることに間違いありません。

  

20.

●「落伍せし者」● 

 

1999年02月
勁文社刊
(1800円+税)

 

1999/11/03

連帯保証人となった義兄の会社が倒産、そして自分は会社でリストラされ、さらに辞職を余儀なくされます。主人公に残されたものは家族だけと思いきや、妻と息子、娘は家を出て行き、 家庭も崩壊してしまいます。
何もかも失った中年サラリーマンが選んだ行動は、義兄の自殺の真偽、そして殺人事件の犯人追求、というストーリィ。
時勢に合ったストーリィとは言えますが、無理にこしらえた感じを受け、あまり納得いくものではありません。
最後は、さすがにヒューマニストの小杉さんらしく、希望を取り戻して完結していますが、小杉作品としては物足りないと思わざるを得ません。

   

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