小手鞠
(こでまり)るい作品のページ No.2



11.ラブ・ストーリーを探しに

12.望月青果店

13.心の森

14.空中都市

15.お菓子の本の旅


16.美しい心臓

17.ラブ・オールウェイズ

18.素足の季節

19.あんずの木の下で

20.テルアビブの犬

【作家歴】、それでも元気な私、欲しいのはあなただけ、エンキョリレンアイ、サンカクカンケイ、レンアイケッコン、好きだからこそ、ルウとリンデン−旅とおるすばん、別れのあと、時を刻む砂の最後のひとつぶ

 → 小手鞠るい作品のページ No.1


ぶどう畑で見る夢は、炎の来歴、瞳のなかの幸福、ごはん食べにおいでよ、未来地図

 → 小手鞠るい作品のページ No.3

     


        

11.

●「ラブ・ストーリーを探しに」● ★★


ラブ・ストーリーを探しに画像

2010年04月
角川学芸出版

(1600円+税)



2010/05/05



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小手鞠さんが現在居住する、米国の小さな町ウッドストック
山間に、森の樹々に抱かれるようにしてひっそりと佇む芸術村とのこと。
1969年に催されたロックコンサートの名称に町の名前が使われて以来有名になった町なのだそうです。
本書は、そのウッドストックの12ヶ月を舞台にしたエッセイ風の連作短篇集。
登場する町、店、施設等は皆実在するとのことですが、登場人物は「サンクチュアリ」のジェニーを除いて全て架空の人物だそうで、あくまでフィクションとのこと。
でも、各章には実在のレストラン、書店等が写真付きで登場しますので、まるでその町を巡るような楽しさがあります。

米国人男性と離婚して以来ウッドストックに一人で暮らす日本人女性作家自身の恋物語の他、彼女が聞き知るラブ・ストーリーのことが各篇に書き綴られていきます。
まるで、ウッドストック周辺の町でラブ・ストーリィを蒐集しているが如くに。
行き違う人とほんのひと時足を停めてお互いのことを語り合う、それもまた旅の途中だからこそのこと。
今はウッドストックに住まう本書の主人公も、まだ旅の途中なのかもしれません。
本書で語られるラブ・ストーリー、どちらかというと辛口。
でも、ラブ・ストーリーがあるからこそ人生が彩られている、という趣を感じます。

ウッドストックの町と四季に触れながら、ささやかに語られるラブ・ストーリーに耳を傾ける。そんな楽しさを味わえる一冊。

花を愛した男/苦い涙の極上の甘さ/遠い楽園/フローズン・マルガリータ/十年後/ひとり旅/秋のエアメール/冬仕度/酒と薔薇の日々/ガールズ・ナイト/学生街の喫茶店/サンクチュアリ

     

12.

●「望月青果店」● ★☆


望月青果店画像

2011年08月
中央公論新社

(1600円+税)


2012/04/26


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現在は夫と米国でB&Bというスタイルの宿屋を営んでいる鈴子の元に、母親の具合が悪いという連絡が入ります。
母親とは高校卒業時以来ずっとぶつかってばかり、ろくに帰省もしないまま年月を過ごしてきた鈴子ですが、50代という年齢になって漸く母親への想いを自覚します。ところが大雪、停電に見舞われ、空港への出発もままならない状況。そうした中、幼い頃からの母親との関係が回想されていく、というストーリィ。

父と娘あるいは息子という関係でもいがみ合うことはあると思いますが、母娘となるとまた特別なものがあるのでしょうか。
本書の母娘関係、お互いに意地っ張りという似た者同士。だからこその相克ストーリィと感じます。
最近読んだ中にやはり母娘の関係を描いた作品、
水村美苗「母の遺産があります。水村作品がどちらかというと重厚、本作品はどこかユーモラスという印象の差はありますが、長きにわたる母娘の複雑な物語という点では相似していると思います。
何はともあれ、母は娘のためというつもりで干渉し、娘は殊更それに反発するというのは、どこか似た者同士だからなのでしょう。
米国に住む娘が、故郷の岡山に住む両親を想うという設定、心理的距離に地理的距離を掛け合わされている分インパクトは強いですが、本質としては普遍的な物語と思います。

なお、表題の「望月青果店」は鈴子の実家が営む青果店の名。

     

13.

●「心の森」● ★★


心の森画像

2011年12月
金の星社刊

(1200円+税)

2012/06/17

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小学校高学年向け課題図書だそうです。

母親が亡くなって父親と2人暮らしの少年=響(ひびき)。父親が米国に転勤になったことに伴い、響も米国へ。
英語がつたなくまだ友達もいない響が森の中で出会ったのは、小柄な少女
デイジーだった。
物言わぬデイジーでしたが、口に出さないその言葉は何故かすんなりと響の胸に伝わっていきます。
森の中、デイジーとの貴重な出会いから、響の米国生活が順調に始まっていきましたが・・・・。

表題の「心の森」とは、文字通り胸の中にある森のことです。
人が持つ素晴らしい能力のひとつに、思い出を持てる、ということがあるのではないか。
響が思い出を辿れば、あの森、そしてデイジーはいつも今もそこにあるかのように息づいている。
大人から見ると、余りに短く、余りに単純なストーリィですが、それでも最後にある言葉は、胸に快く響いてきます。

          

14.

●「空中都市 Machu Picchu」● ★☆


空中都市画像

2012年02月
角川春樹事務所刊

(1600円+税)



2012/04/07



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NYへ観光旅行に出かけていた可南子晴海の母娘。
高校には行かない、もう自分一人で何でもできると言い放った晴海15歳に、ふと母親の可南子はにっこり微笑んだ。まさかその微笑が、NYの街中にいきなり娘を一人放り出すことを意味していたとは。
内心恐慌に陥りながらも母親が行っていた手配のおかげで何とか成田まで帰り着いた晴海、父親の
宗ちゃんに迎えられてホッ。
その晴海が高校に行かないと言い出した理由には、6歳年上で高校中退の
寺内直への恋が秘められていた。
一方可南子は、一人でペルーの
インカ遺跡クスコ、さらに“空中都市”と呼ばれるマチュピチュの遺跡へと向かっていた。そこは可南子が10代の頃恋していた相手=流(ながる)がいつか一緒に行こうと約束していた地だった。

娘は未来へ向かっての恋、それと対照的に母親は過去の恋を辿るという、母娘それぞれの青春物語。
青春、恋とは後悔を伴うもの。だからこそいつまでも忘れ難く胸の内に生き続ける。
ヘッセ「ラテン語学校生等、青春小説の名品に共通して言えることですが、本作品はそれを母、娘の旅路という形で描いたストーリィ。
後悔に後悔を重ねて、人は強く、優しくなっていく、という一文はまさにそのエッセンスを語った言葉でしょう。

なお、私は読んでいないので気づきませんでしたが、本作品は「ガラスの森」「ワイングラスの海」に続く“森海空の青春三部作”の完結編なのだそうです。
たしかに本作品には、青春小説の締め括りという雰囲気があります。
※マチュピチュの遺跡、是非ネットで検索してみてください。本物語のイメージが大きく膨らむことと思います。

           

15.

●「お菓子の本の旅」● ★★


お菓子の本の旅画像

2012年04月
講談社刊

(1400円+税)



2012/07/05



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とても楽しいお話。
手作りのある
「お菓子の本」。その本がという女子中学生、次いでという男子中学生の窮地を救い、希望と夢をもたらし、紆余曲折を経て最後はさらに多くの人々の手へと渡って夢と希望を広げていくという、現実物語であると同時におとぎ話でもあるかのようなストーリィ。

主人公となるのは2人の中学生です。
まずは遥。父親が再婚してヨーロッパへ新婚旅行中、米国の家にホームステイします。しかし、会話の問題から孤立感を深めていた遥を救うことになったのは、荷物の間から出てきた「お菓子の本」。
その「お菓子の本」は、帰国した遥から運命の奇遇によって淳の手へと渡ります。祖父母が相次いで亡くなって休業状態になった“パンとお菓子の店・中村”。「お菓子の本」を見て淳が思いついたことは・・・・。

「お菓子の本の旅」、楽しげな題名ですが、本ストーリィの鍵として登場するこの本、本当に世界を旅して回るのです。それって・・・・?というのは、本書を読んでからのお楽しみ。
時間を超えて人々に喜びと希望を、そして互いに好きという気持ちを抱き合った男の子と女の子を繋ぐ、夢と楽しさに満ちたストーリィ、私好みです。

遥の物語1-魔の階段とおかしな本/遥の物語2-涙エッセンス入りフルーツケーキ/遥の物語3-感想文が書けない!/淳の物語1-まいごのプリンとたずね人/淳の物語2-にこにこ入りひつじ雲スコーン/淳の物語3-ラブレターが届いた!/遥の旅-とびらの向こうがわ/遥の旅-とびらのこちらがわ/お菓子の本の旅

               

16.

「美しい心臓 a nameless couple in heaven and hell ★★


美しい心臓画像

2013年05月
新潮社刊

(1400円+税)

2016年02月
新潮文庫化



2013/06/13



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小手鞠さんらしい、狂おしいまでの恋情を描いた長編小説。
どれほど相手が好きかというと、あの人が死んでしまえばいい、そう願ってしまうくらい好きだった、というのが本書の恋情。

主人公は30歳間近の女性。その彼女が迸る想いを抑えきれない程好きなってしまった相手は、40代半ばの中年男性。
主人公は、2人の愛の巣とも言うべきアパートの部屋に一人で住み、相手が訪れてくれるのを一日千秋の想いで待っている。その相手には別に家があり、主人公にもDV男である別居中の夫がいる、といった状況。
主人公にとっては、彼のことが好きで好きでたまらない、その今が全てといった具合。
題名の「美しい心臓」とは、
「純な生を生きよ!」という意味に繋がるものらしい。
しかし、あるひと言が主人公の想いを一転させてしまいます。

相手を求めて止まない、狂おしい恋情。だからこそ今だけ、相手以外の一切が目に入らないというような状況は、所詮いつまでも続くものではないのでしょう。それは、世俗離れしていられる間だけ抱ける想いだから、という気がします。
そんな恋情の只中と、その終わりを端的に描いた恋情小説。
初期の
恋愛三部作等に比べると、すっきり突き抜けた観があって、ついにこの域にまで至ったという到達感があります。

恋愛小説がお好きな方に、こんな作品も如何?とお薦めしたくなるような一作です。 

    

17.

「ラブ・オールウェイズ Love Always ★☆


ラブ・オールウェイズ画像

2014年02月
祥伝社刊

(1500円+税)



2014/03/23



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小手鞠るいさんの恋愛小説はだいぶ読んできたので暫くはもういいかなと思っていたのですが、書簡体小説というと、それだけでつい惹かれてしまいます。
本書は、
市ノ瀬美亜子浜崎佑司という2人が、20代前半で恋人関係になってから、お互いに相手には言えない秘密を抱え、そして別れを迎え、それでも相手をずっと忘れないまま月日を経て再会、再び結ばれるという経緯を、2人が交わし合った手紙から描いたラブストーリィ(その内には出されなかった手紙も有り)。

前半はもうひとつ乗らなかったのですが、2人が別れを告げた後からいつしか心惹かれるようになっていました。
それはきっと、小手鞠るいさんの恋愛小説における巧みさと、書簡帯小説の持つ力があったからなのでしょう。
一度別れた恋人たちが再び巡り会うという展開から、
エンキョリレンアイの書簡体版のような印象を受けます。

現代ですからやがて2人のやり取りには電子メール、携帯電話が登場しますが、比較してみるとやはり手紙のもつ濃さに両者は敵いません。手紙には書く人の想いが籠る、それは安易な通信手段である電子メールには生まれにくいのではないか、と感じさせられます。
今や手紙よりメールでの連絡が当たり前になった現在、書簡帯小説はもう生まれ得ないのかと、ふと寂しくになります。

なお、本作品について特筆すべきことは、急逝した絵本作家=伊藤正道さんの挿絵がふんだんに挿入されていること。最初こそ簡単に見過ごしていましたが、挿絵と各章の内容が調和していることに気付いた後は、挿絵の魅力が心に沁みるようでした。
※最終話は、本作品を伊藤さんへのレクイエムとするための追加とのこと。

       

18.

「素足の季節 ★★


素足の季節

2015年01月
ハルキ文庫刊

(620円+税)



2015/03/05



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高校に入学しても孤立していた杉本香織(カオ)に声を掛けてきたのは、美人で学業も優秀、しかし不良少女風ということで行内の有名人だった間宮優美(マミ)
そのマミからカオが引きずり込まれるように誘われたのは、演劇部の再・創立。さっそく他のメンバーに紹介されると、カオ以外はみな錚々たる美少女ばかり。
学校に部として認めさせる為にはまず上演実績を挙げようということになり、チェーホフ「かもめ」を土台にした脚本書きの指名を受けたのがカオ、という次第。

そこから6人の少女たちの、ひたむきに情熱をぶつけた女子高校生版演劇ストーリィが繰り広げられます。
しかし、同時にそれは、実生活における彼女たちの同じ相手への恋情を巡る生々しいドラマでもあった。まさにカオが書いた台本ストーリィを地で行くような印象を受けます。
文庫で 250頁位の短い長編ですが、熱くたぎった恋情を描き出しているという点ではこれまでの小手鞠るい作品とまるで遜色ありません。異なるとすれば、主人公たち当事者が女子高生である、というだけのことでしょう。

濃密な女子高校生版青春&恋愛ストーリィ。
自分たちの芝居を上演しようという情熱と友情、彼女たち一人一人の個性が、読み応えたっぷりです。
※舞台は岡山県。文中に飛び出す岡山弁も中々の魅力です。


雨が空から降れば/面影橋から/太陽がくれた季節/赤い屋根の家/だれかが風の中で/恋人もいないのに/素足の世代/心が痛い/あの素晴らしい愛をもう一度/おきざりにした悲しみは/今日までそして明日から/たどり着いたらいつも雨降り

      

19.

「あんずの木の下で−体の不自由な子どもたちの太平洋戦争− ★★


あんずの木の下で

2015年07月
原書房刊

(1300円+税)



2015/08/29



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1932年に日本で初めて越率された、体の不自由な子どもたちのための公立学校「東京都立公明特別支援学校」の、戦時中、疎開等々の苦労を語ったノンフィクション。
何故戦後70周年の今、特別支援学校のことについて語る必要があるかといえば、太平洋戦争中、ごくつぶし、足手まといとして蔑まれるということが、実際にあったからだそうです。

本書を読んで今更ながらに思うことは、あれは間違った戦争であった、ということです。
一般国民を犠牲にし、中でも弱い者を平気で足蹴にしてきたような戦争は一体誰のための戦争だったのか、と言えば、戦争をしたかった軍人たちが勝手に始め、勝手に一億玉砕などと唱えた戦争だったと言わざるを得ません。
その中でも特に辛い目にあった、声なき人たちの一部が、本書で語られる子供たちだった、ということなのでしょう。

そして小手鞠さんは最後に、過去のものである戦争だけでなく、現在進行中の“いじめ”問題についても語ります。
本書は、戦争のない平和な世界、“いじめ”のない社会を作るためには皆の努力が必要なのだというメッセージを伝える一冊。

東京から届いた一通のメール/1.運命を乗せた列車/2.学童疎開と光明学校/3.ふたつの疎開/4.悲しい別れ/5.あんずの木の下で/6.鳴りひびく空襲警報/7.終わらなかった疎開生活/なぜ、戦争はなくならないのか。

     

20.
「テルアビブの犬」 ★☆


テルアビブの犬

2015年09月
文芸春秋刊

(1400円+税)



2015/09/27



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小手鞠るいさんが恩師という故やなせたかしさんに捧げる、故やなせたかしさんとの約束を果たすために書かれた「フランダースの犬」の日本版、オマージュ作品。

「フランダースの犬」は子供の頃に一度読んだきりですが、ストーリィは忘れようもない名作。題名からしてオマージュとはすぐ判りますが、何故「テルアビブ」なのか?というのが誰しも抱く疑問でしょう。
祖父と孫の極貧生活という大前提から、時代は太平洋戦争敗戦後の多くの人が貧しかった時代に設定されています。
ストーリィは今更言うまでもなく、またオマージュ作と判っていても、お互いに深く愛し合う少年
ツヨシと老犬ソラの物語には感動せずにはいられません。

原作「フランダースの犬」と異なるのはその結末。
結末が異なるのかどうかは終盤に至って大いに気になった点ですが、意外と言えば余りに意外な結末。
掲げた理想が思いもしなかった結果に歪められていく現実社会の壁の厚さは、余りに重い。
それでも理想を全うした人たちもいる訳ですから、そこにおいては心の強さも必要、と深く感じた次第です。


1.涙と雨/2.あなたは美しい/3.心を奪われて/4.あふれる言葉たち/5.叫ぶ/6.危険/7.輝く星のひとつを/8.さようなら、愛しい者/9.連れて帰る

   

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