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終末のフール、陽気なギャングの日常と襲撃、フィッシュストーリー、絆のはなし、ゴールデンスランバー、モダンタイムス、あるキング、SOSの猿、オー!ファーザー、バイバイブラックバード |
マリアビートル、3652、仙台ぐらし、PK、夜の国のクーパー、残り全部バケーション、ガソリン生活、死神の浮力、首折り男のための協奏曲、アイネクライネナハトムジーク |
キャプテンサンダーボルト、火星に住むつもりかい?、ジャイロスコープ、陽気なギャングは三つ数えろ、サブマリン、AX、ホワイトラビット、クリスマスを探偵と、フーガはユーガ、シーソーモンスター |
41. | |
「クジラアタマの王様」 ★★ |
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2022年07月
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久々に味わう、如何にも伊坂幸太郎さんらしい、ちょっと不可思議なところあるエンターテインメント。 ふと思い出すのは、「オーデュポンの祈り」「ゴールデンスランバー」といった作品。 本作で、ある事態に対して奮闘するのは、主人公である大手菓子会社広報部勤務の会社員=岸、主人公と不思議な縁に結ばれた都議会議員=池野内征爾、人気ダンスチームのメンバーである人気芸能人=小沢ヒジリ。 3人の縁も縁、しかし、その3人の奮闘ぶりというのが・・・これ如何に。 その3人以外の登場人物も含め、登場人物たちの絡み合いが楽しい。そして思いも寄らぬ、夢と現実が輻輳する展開。 そしていったい、題名となっている“クジラ頭の王様”という異名をもつ珍鳥ハシビロコウは、本ストーリィの中でどういう位置を占めているのか。 このユニークな面白さ、やはり伊坂さんならではの面白さなのですよねぇ。 本作で興味惹かれるのは、川口澄子さんによる数多い挿入画。 最初はどういう意味を持つのかまるで分らなかったのですが、どうぞ安心してください、中盤に至るまでには分かります。 そして、何度も最初から画を繰り返し眺めてみると、伊坂ストーリィが立体的に感じられ、これはあるべくして挿入された画と感じるようになります。お楽しみに。 1.マシュマロとハリネズミ/2.政治家と雷/3.炎とサイコロ/4.マイクロチップと鳥 |
42. | |
「逆ソクラテス」 ★★ 柴田錬三郎賞 |
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2023年06月
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デビュー20年目の短編集、5篇収録。 本書の特徴は、小学生たちが主役であること。 と言ってもそこは伊坂作品ですから、児童向け小説とか成長ストーリィという風にはなりません。 ワクワクするように楽しくなってくるのは、彼らが繰り広げる発想、論理です。「敵は、先入観。」等々。 柔軟な発想ができない大人たちからすると、小憎たらしい子供たち、ということになるんだろうなぁ。 でも、私は大好きです。ケストナーではありませんけど、子供だって子供たちなりに自由に考えたって良いのですから。 ・「逆ソクラテス」:自分は全て分かっていると、何でも決めつけてしまう担任教師に、自分も間違えることがあると悟らせるために計画を練る同級生たち。ソクラテスは自分は何も知らないと自覚していた人物だから、その逆という訳。 ・「スロウではない」:クラスの女子ボスはイジメでも中心人物。その女子ボスに転校生が伝えようとしたことは・・・。 ・「非オプティマス」:題名のオプティマス、SF映画「トランスフォーマー」に登場するオートボットのリーダーのことかぁ。 小五クラスのボスに、目立たない生徒たちが反撃? ・「アンスポーツマンライク」:小学校時代のミニバスケ仲間である5人が主役。小六生時、5年後の高校生時、さらに6年後の社会人時と、いつもチームらしさを発揮する5人が羨ましい。 ・「逆ワシントン」:正直に謝れば、人は許してくれるものだろうか? 主人公たちがその通り実践して必ずしもそうではないと学ぶところが愉快。あれは大人の発想、と私も思うな。 逆ソクラテス/スロウではない/非オプティマス/アンスポーツマンライク/逆ワシントン |
43. | |
「ペッパーズ・ゴースト Pepper's Ghost」 ★★ |
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伊坂さんらしさ満載のエンターテインメント長編。 3人による第一人称で語られる構成。 その中心人物が中学の国語教師である壇千郷・35歳。 平凡な人物ですが、代々受け継いだ特殊能力あり。人から飛沫を浴びると、その人物がこの先(未来)に見るであろう印象的な光景をフラッシュのように見えてしまう、というもの。千郷の父親曰く“先行上映”と。 そのお陰で壇、過去に起きたテロ事件の被害者たちが企んだ計画に巻き込まれます。 一方、受け持ち生徒である布藤鞠子が執筆中の小説を壇は読ませてもらっている処。ネコジゴハンターの2人組が、猫虐待に関わった人間たちを懲らしめていくというのがストーリィ内容。 ストーリィの中盤、壇たちのストーリィと、ネコジゴハンター2人組のストーリィがどう絡むのか。 この場面が、えっ!と思わされる面白さ。 また、そのネコジゴハンター2人、悲観的な性格のロシアンブルと楽観的な性格のアメショーの会話は、伊坂さんらしい楽しさです。 平凡な人物が何故こんな事件に巻き込まれるのか、という点では本作、「ゴールデンスランバー」を思い出させられる処があります。 カンフー映画好きでカンフーアクションを披露する女子がいたりと、一つ一つのパーツが面白く、その集合体である本作品自体の展開もスリリングなのにユニークな処があちこち笑える、という具合。 伊坂さんらしさを満喫できる一冊です。ファンならお薦め。 |
44. | |
「マイクロスパイ・アンサンブル Micro Spy Ensemble」 ★★ |
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2015年、猪苗代湖を会場として開催された音楽とアートのイベント“オハラ☆ブレイク”。 開催にあたり、短い小説の執筆依頼が伊坂さんに寄せられたそうです。その小説を小冊子にし会場で配布するという計画。 2015年夏に始まり21年秋まで、それを単行本化したのが本書とのこと。 就活中の最中彼女から見限られ、その傷を負ったまま社会人になった青年(松嶋)。 いじめっ子から逃走中、スパイ(エージェント・ハルト)に助けられ、自分もスパイとなった元いじめられっ子の少年。 彼らのそれから6年余りを、一年毎に描いていくという構成。 ちょっと変わっている。でも、だからこそ楽しめる、という処は伊坂作品ならではの面白さ。 松嶋、少年、共に猪苗代湖が重要なポイントになっています。 でも、猪苗代湖周辺に敵の基地? スパイ同士の攻防? というのは似つかわしくないと思ったのですが、そうかぁ、そういう仕掛けですか。 思わず笑いたくなるような、ストーリィ運びでした。 相変わらず伊坂さん、読み手を楽しませてくれます。 昔話をする女/一年目/二年目/三年目/四年目/五年目/六年目/七年目/おまけ−七年目から半年後 |
45. | |
「777 トリプルセブン Triple Seven」 ★★ |
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「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX」に続く、殺し屋もの第4弾。 本作の主人公は、「マリアビートル」に登場した、ツキのない殺し屋“天道虫”こと七尾。 絵画を超高級ホテルの一室に届けるという単純な仕事だった筈なのに、何故そのホテル兄で殺し屋たちと渡りあうことになったのか。 折しもそのホテルには、驚異的な記憶力をもつ女性=紙野結花が元雇用主の乾から逃れて、逃がし屋の老女=ココと共に身を潜めていた。 その紙野を捕らえるべく、美男美女の殺し屋“六人組”がホテルに乗り込んできます。 さらに、“コーラとソーダ”、“モウフとマクラ”というコンビ殺し屋も登場。 それぞれが互いの得意技を繰り出し、出会いがしらの乱闘が繰り広げ続けられます。 これらの顔ぶれの中で、何の関係もない殺し屋は七尾だけ。 なんと運の無い男と言えますが、「マリアビートル」の激闘から生き残った運の良さがあるのですから・・・。 なお、2階レストランに集まった3人はどう関係するのやら。 七尾、格別個性的な得意技がある、という訳ではありませんが、こうしたシンプルな人物こそしぶとくて面白い。 本作での殺し屋合戦、ふと考えたら、昔の忍者合戦のようなもの、と感じます。 残忍さや陰惨さといったものは一切なく、カラッとした殺し合い、というところが伊坂作品の面白さでしょう。 |
46. | |
「楽園の楽園」 ★★ |
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久しぶりと感じる伊坂作品ですが、意外という感じの 100頁程度という短い作品。 しかし、紹介文によると「長さは短篇、物語は壮大、読み応えは大長編」とのこと。 さて本当なのか。それは読んでみてのお楽しみです。 上記紹介文、本作の特徴をよく表していると思います。 ストーリー内容は、強毒性ウィルスの蔓延、大地震の頻発等々により末期的状況に陥っている、近未来の地球が舞台。 この原因は、謎の人工知能(AI)である<天軸>の暴走か。 開発者である<先生>は天軸のある場所を目指して垂直離着陸機で飛び立ちますが、消息を絶ってしまう。 先生の仕事場には「楽園」という題名の水彩画が残されており、それに描かれた場所こそ天軸のある場所と判定されます。 そしてその場所へ向かうのが、感染症に極めて強い体質をもつ、五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗という三人。 描かれる事象は、私個人としてかなり以前から考えていたことと同様なので、驚きや違和感は全くありません。 ただそれを短篇なみの長さで壮大な物語に仕立て上げているところが、伊坂さんの上手さ。 とくに「西遊記」の三蔵法師+三人に模した登場人物設定、それ故の興味と面白さに惹きつけられます。 結末はといえば当然ながら壮大なもので、私としては爽快に感じるばかりです。 |
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