伊坂幸太郎作品のページ No.3



21.マリアビートル

22.3652

23.仙台ぐらし

24.PK

25.夜の国のクーパー

26.残り全部バケーション

27.ガソリン生活

28.死神の浮力

29.首折り男のための協奏曲

30.アイネクライネナハトムジーク


【作家歴】、オーデュポンの祈り、ラッシュライフ、陽気なギャングが地球を回す、重力ピエロ、アヒルと鴨のコインロッカー、チルドレン、グラスホッパー、死神の精度、魔王、砂漠

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.1


終末のフール、陽気なギャングの日常と襲撃、フィッシュストーリー、絆のはなし、ゴールデンスランバー、モダンタイムス、あるキング、SOSの猿、オー!ファーザー、バイバイブラックバード

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.2


キャプテンサンダーボルト、火星に住むつもりかい?、ジャイロスコープ、陽気なギャングは三つ数えろ、サブマリン、AX、ホワイトラビット、クリスマスを探偵と、フーガはユーガ、シーソーモンスター

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.4


クジラアタマの王様、逆ソクラテス、ペッパーズ・ゴースト、マイクロスパイ・アンサンブル、777 

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.5

   


   

21.

●「マリアビートル MARIABEETLE」● ★★


マリアビートル画像

2010年09月
角川書店

(1600円+税)

2013年09年
角川文庫化



2010/10/10



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グラスホッパーに続く、殺し屋たちの狂想曲。
今回の舞台は、東京発・盛岡行の東北新幹線<はやて>の車中。

どういう訳か殺し屋たちが何人もこの<はやて>に乗り合わせます。
現在はアル中だが元殺し屋の木村、依頼人のバカ息子を救い出して送り届ける最中の2人組殺し屋=檸檬と蜜柑、自分でも嫌になるくらいツキのない殺し屋=七尾をはじめ、前作同様個性豊かな殺し屋たちが登場。
(※前作に登場した人物も2、3人再登場)
ただし、殺し屋たちが偶々乗り合わせたからといってそうドタバタ騒動が起きる訳ではないのですが、この車中ではそれが起きるのです。
それを引き起こすのが、狡猾で悪魔的な中学生=王子慧の存在。
殺し屋といっても意外に人物は単純。それに引き換え、この一見純朴そうな王子の他人に対する悪意の執拗さ、他人をコントロールしてほくそ笑むところの、何と凄まじいいことか。
本ストーリィ、殺し屋たちのスラップスティック・コメディ+悪魔的中学生対大人たち、という風なのです。

なお、新幹線車内と言っても、殺し屋たちと王子以外の、普通の乗客の姿は殆ど見受けられません。あくまで殺し屋たち+αだけという虚構世界に軸足を置いたストーリィ。その意味で、本書もまた伊坂ワールド。
 450頁という長さ、途中ドタバタ劇にしてはちと長過ぎるのではという思いがありましたが、最後の50頁程が圧巻。
こういうのが適当かどうか判りませんが、スキッとした気分。

   ※ 映画化 → 「ブレット・トレイン

            

22.

●「3652−伊坂幸太郎エッセイ集−」● ★★


3652画像

2010年12月
新潮社

(1300円+税)

2015年06月
新潮文庫化


2011/01/18


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伊坂さん、初のエッセイ集。
「基本的に、エッセイは書かないようにしよう」というのが伊坂さんの現方針だそうですから、本書、貴重な一冊になるかもしれません。

作家デビューの2000年から2010年まで、3652日間に書いたエッセイを集めた一冊(365x10年+うるう年2回)。
2003年から07年までの5年間は割と多いですが、それ以前はほんの1、2篇、2008年以降は5〜7篇程度と少ないです。
一般的にエッセイというと周辺雑記という気がしますが、本書に収録されている伊坂さんのエッセイに限っては、作品執筆に連なる事々についてのものが多い、と感じます。したがって、伊坂ファンとしては興味津々に読めること、請け合いです。

また、下段の、伊坂さん自らによる脚注も楽しい。
伊坂さん自身によるコメントなのですが、自らのことを過去を振り返りながら第三者的に語っている風なところに面白さがあります。

ちょうど、伊坂さんがよく仕事をしに行ったカフェで、心置きなく作品のことについておしゃべりし合う、といった雰囲気あるエッセイ本。
ファンにとっては、真に楽しい一冊です。

              

23.

●「仙台ぐらし」● ★★


仙台ぐらし画像

2012年02月
荒蝦夷

(1300円+税)

2015年06月
集英社文庫化


2012/03/02


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地域誌「仙台学」に2005年06月から11年04月まで連載されたエッセイ11篇+4篇に書下ろし短篇小説1篇を加えた一冊。
あっさりとしたエッセイ集です。
ちなみに「エッセイに見かけた作り話」であればどうにかなるのではないかと連載を引き受けたそうなのですが、そう作り話が簡単に思いつくわけがなく、殆ど実話をもとに四苦八苦して書き上げたものばかりだそうです。

伊坂さん、かなりの心配性(私以上)だということが本書で判りました。
また、仙台にずっと住み続けて仙台を舞台にした小説作品の多い伊坂さん、さらに顔写真も知られている訳で、本好きなら伊坂さんと判るのは当然のことと思います。
ご本人もそう思っていて、呼びかけられる度に自作品の読者かと思うのに、呼びかけた人の理由は違ったものだったという辺り、何度読んでもなんとなく可笑しい。

最後の短篇小説、実際に復興支援のため移動図書館、ボランティア活動をしている2人の男性がモデルだそうなのですが、その一人が実は掏摸という設定は、伊坂さんらしい登場人物が顔を覗かせているという印象です。

タクシーが多すぎる/見知らぬ知人が多すぎるT/消えるお店が多すぎる/機械まかせが多すぎる/ずうずうしい猫が多すぎる/見知らぬ知人が多すぎるU/心配事が多すぎるT/心配事が多すぎるU/映画化が多すぎる/多すぎる、を振り返る/峩々温泉で温泉仙人にあう/いずれまた/震災のあと/震災のこと
/ブックモビール a bookmobile(書下ろし)/あとがき

      

24.

●「PK」● ★☆


PK画像

2012年03月
講談社

(1200円+税)

2014年11月
講談社文庫化


2012/04/06


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「PK」「超人」「密使」からなる“未来三部作”。
こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が見ている未来とは−
、というのが出版社の宣伝文。

実を言うと、本書についてどう言ったら良いのか、判らないのです。
伊坂さんの作品には、何のために、どう展開していくのか判らない、という作品が結構ありますが、本作品はその中でも最たるものではないかと思う次第。
3中篇、相互に共通する人物が登場しますが、時代を超越して登場するため登場人物の年代は様々。過去と現在?を行きつ戻りつつ、ストーリィは展開されていきます。
そこに何があるのか。そこにあるのは、選択と不確定要素と希望ではないか。
自分でどうにもならない事態に巻き込まれるかもしれませんが、救いの手を誰かが差し伸べてくれる人がいるかもしれない。その結果として、良いことが循環するのかも。

まず頑張ってみること、そうすれば誰かが共に手を携えてくれるかもしれない。
子供たちに語りかける言葉があるとしたら、そんなエールではないでしょうか。

PK/超人/密使

        

25.

●「夜の国のクーパー」● ★☆


夜の国のクーパー画像

2012年05月
東京創元社

(1600円+税)

2015年03月
創元推理文庫化


2012/07/04

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戦争に負けて敵方=鉄国兵士の進駐を受けることになった“我が国”。
馬に乗り銃を持った鉄国兵士に対し、馬も銃も知らなかった我が国民。そして、杉の樹から蛹を経て生まれるという化け物=“
クーパー”に、退治に行きその結果としてその体液を被って透明になってしまうという“クーパーの兵士”たち。
そしてそれらの物語を“私”に語るのは、猫の
トム
どんな時代のどんな国での話なのか定かではなく、全く訳がわからんと頭を抱えたくなります。話の中身が判らないのは、口を利くカカシが登場した「オーデュボンの祈り」以上でしょう。

ところが、伊坂マジックと言ったらいいのか、後半タネが明かされ一気に真相が明らかになっていくと、視界不良を招いていた霧が一斉に晴れて見事な景色が急に眼前に広がったような爽快さが感じられるのですから、やはり伊坂作品は読み始め時の印象からだけではとても推し量れません。

最後は、あーっ納得と思っていた隙を突かれたようにええっと驚く、2方向からのダブル仕掛け。
ただ、ストーリィとして面白かったかといえば、猫のトムという主人公像を除くと、そういった評価とは異なる趣向の作品ではないのかと言いたくなります。

             

26.

「残り全部バケーション」 ★★


残り全部バケーション画像

2012年12月
集英社刊

(1400円+税)

2015年12月
集英社文庫化



2013/01/30



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ちょっと変わり者の恐喝下請け屋、どこかピントがずれている溝口と、見事なくらいに淡々とした岡田のコンビを中心とした、連作小説5篇。

表題の「残り全部バケーション」は冒頭篇の題名ですが、登場人物がこれで人生は実質終わり、後の人生はもうバケーションのようなものだ、と言い放つところから。
岡田の、危機に陥ってさえ淡々としているところ、とても好きなのですが、その岡田が舞台から退場した後は溝口がその妙な単細胞の個性を発揮して楽しませてくれる、という風です。

この溝口と岡田、要は善人からすれば憎むべき犯罪者なのですが(でも彼らにハメられて被害者となった者たち、本当に善人なのだろうか?)、犯罪者らしからぬところが多分にあって、そこに味わいがあります。
「残り全部バケーション」は、父親の浮気がバレて両親が離婚、明日からは家族3人バラバラという運命を迎えた早坂家3人の元に、見も知らぬ男である岡田から携帯メールが入り、最終的に4人でドライブに出かけることになるのですが・・・・。
「タキオン作戦」は「残り全部」以前の話、「検問」はそれ以後の話。「小さな兵隊」も以後の話なのですが、小学生時代の岡田に遡る話。そして最後の「飛べても8分」はそれまでのケリをつけようとするかのような話。

ストーリィが連鎖して繋がっていくところ、本書に登場する犯罪者たちのキャラクターと展開の面白さ、いかにも伊坂さんらしい連作短篇集。
グラスホッパーマリアビートルの系列上にある作品と思います。

1.残り全部バケーション/2.タキオン作戦/3.検問/4.小さな兵隊/5.飛べても8分

              

27.

「ガソリン生活」 ★★


ガソリン生活画像

2013年02月
朝日新聞社刊

(1600円+税)

2016年03月
朝日文庫化



2013/03/24



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免許取り立てという大学生=望月良夫と小学生の弟=が乗っていたデミオに突然乗り込んできた女性は、10年前に女優を引退したというのに今もなお芸能雑誌の話題となっている荒木翠
2人は翠から請われた場所に彼女を送り届けますが、何とその翌日、翠が浮気相手と共にトンネル内で自動車事故死したと報じられます。
翠を追いかけていた芸能記者の
玉田健吾と知り合った2人は、必然的に翠の事故の真相に関わることになります。

本作品のユニークな点は、望月家の愛車=デミオが語り手となっていること。したがって物語はデミオが目撃した範囲という限定がありますが、それで十分にストーリィが回っていくのですから面白い。
そしてもうひとつユニークなのは、ストーリィ展開の鍵を握っているのが、弱冠10歳の小学生=亨であること。この亨が大人顔負けの見識・洞察力を備えていて、兄の良夫や玉田らを手玉に取るようにして事故の真相を明らかにしていくのですから、これまた愉快。
また、翠の事件だけでなく、高校生の姉=
まどかの彼氏が巻き込まれたトラブルに母=郁子も交え望月一家が窮地に立たされる等々の展開もあり。その際に一家を救うため思いがけないヒーローが登場するのですから、是非お楽しみに。

本作品においては、デミオと車たちが繰り広げる饒舌に格別の楽しさがあります。彼らのおしゃべりから事件の糸口が推測されるのですが、当然にして車同士の会話は人間に通じることはなく、両方を知ることができるのは読者の特典という訳で、その点は伊坂さんの心憎い仕業です。
デミオと亨らのキャラクター設定が抜群、ユーモア横溢にして、愛車も交えた望月一家のある意味での家族冒険物語。まさに楽しさたっぷりです。凝り性の方には是非お薦め!

※ダイアナ妃の事故から、D・ウィーバー主演の映画「激突」、S・キング作品までと、車たちの饒舌はすこぶる楽しき哉。

Low/Drive/Parking/エピローグ

       

28.

「死神の浮力 BUOYANCY OF DEATH ★★☆


死神の浮力画像

2013年07月
文芸春秋

(1650円+税)

2016年07月
文春文庫化



2013/08/30



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死神の精度の続編。前作が連作短篇形式でいろいろなパターンを楽しめる趣向であったのに対し、今回は長編。ですから死神=千葉のズレまくりの会話がたっぷり楽しめます(笑)。

ストーリィは、少女殺害容疑で裁判にかけられていた
本城崇に無罪判決が下されたところから始まります。それを待ち受けていたのは、愛する幼い娘を非道にも本城に殺害された山野辺遼美樹の夫婦。自分たちで本城に復讐しようという決意。2人がいざ計画を実行に移そうとしたその時、幼稚園の同級生だと言って突然訪ねてきたのが「千葉」と名乗る男。そこから、復讐劇の歯車が少々傾きつつ回り始めます。

本作品の面白さは何と言っても、ズレまくりで珍妙な千葉との会話、やりとり、その行動に尽きます。
被害者家族側の復讐計画、それを超える犯罪者側の冷酷非道な反撃。本来スリリングで陰惨な展開となる筈のところが、どこか突拍子もない千葉の言動に呆れる山野辺に、思わず吹き出してしまう妻の美樹と、からりと乾いたユーモアが広がってしまうところに頁を繰るのが勿体なくなる程の面白さがあります。
相手の周到で悪知恵を極めた反撃を易々と千葉がクリアしてしまうところは、痛快と言って良いかもしれません。
そんなストーリィの底にあるのは、愛する者が先に死んでしまうという悲しさ、恐ろしさ。そしてそんな悲しみの中でも人は面白いことがあれば笑うことができるというのは、人間の性の哀しさかもしれませんし、立ち直ることもできるという可能性あっての救いなのでしょうか。絶妙の面白さの中に結構シリアスな問題も内包しています。

いずれにせよ、すこぶる面白く、たっぷり楽しめる一冊。
ただし、どんなに頼りになっても千葉は所詮死神であり、何の為に山野辺夫妻の傍らに付き添っているのか、をお忘れませんように。
なお、結末は予想もできない驚天動地のもの。お楽しみに。

     

29.

「首折り男のための協奏曲 a concerto ★★


首折り男のための協奏曲

2014年01月
新潮社

(1500円+税)

2016年12月
新潮文庫化


2014/02/23


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伊坂さんには珍しい、連作風短編集7編。
短編ネタに困り、長編小説用にプールしておいたネタまで惜しみなく使い込んで仕上げた連作集だそうです。
どの篇も伊坂さんならではの展開、それが7篇も集まっているのですから伊坂さんらしさ横溢、ファンとしては楽しいことこのうえない一冊となっています。

短編集ではなく一応“連作集”と評されている所以は、共通して登場する人物がいるため。
一人は、相手の首を折るという方法の殺し屋=“
首折り男”、2篇+αに登場します。もう一人はラッシュライフ」と「フィッシュストーリーに登場した空き巣稼業の黒澤、3篇+αに登場です。その他、クワガタを飼育している小説家が2篇に登場。

「首折り男の周辺」は可笑し味があって面白かったなぁ。
「僕の舟」、意外や意外もここまで来ればもう唖然のみ(笑)
「人間らしく」はいかにも伊坂作品、ですよねぇ。
「月曜日から逃げろ」には、そう来るか! 少々頭を使います。
「合コンの話」、あちこちで小説中の題材に使われていても不思議ないものですが、伊坂さんならではのひねくりようが愉快。

楽しみたっぷりの連作集。是非お楽しみください。


首折り男の周辺/濡れ衣の話/僕の舟/人間らしく/月曜日から逃げろ/相談役の話/合コンの話

        

30.

アイネクライネナハトムジーク Eine kleine Nachtmusik ★★


アイネクライネナハトムジーク画像

2014年09月
幻冬舎

(1400円+税)

2017年08月
幻冬舎文庫化


2014/10/16


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冒頭は、男女が知り合うきっかけを題材にしたストーリィ。
独特の世界観を感じさせる作品の多い伊坂さんとしては、軽いスケッチ風の連作小説という印象。

全6篇からなる連作小説ですが、時間軸を自在に前後し、楽々と二世代に亘り、いつの間にか複数の登場人物が入り乱れるようにして繋がっているところが、楽しくて堪えられない次第。

小説の楽しさ、面白さは、人と人との出逢い、そして人と人が繋がり合ってひとつのストーリィを紡ぎ出すところにあると思います。
妻子に突然出て行かれて落ち込むサラリーマン、紹介された後に電話だけで繋がりあった恋人、男女高校生と担任教師が演じるヒトコマ、日本初のヘビー級ボクシングチャンピオンを巡るストーリィ等々。

そんな中、やはり伊坂さんらしいと感じさせられるのは、ハチャメチャ風な登場人物に、ユニークな脅し文句が登場すること。

日常的な連作ストーリィも、伊坂さんらしい味付けがなされれば、充分楽しめる、というものです。


アイネクライネ/ライトヘビー/ドクメンタ/ルックスライク/メイクアップ/ナハトムジーク

※ 映画化 → 「アイネクライネナハトムジーク

         

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