出久根達郎作品のページ


1944年茨城県生。中学校卒業後、東京・月島で古書店に勤務。73年から杉並区で古書店を営む。92年「本のお口よごしですが」にて講談社エッセイ賞、93年「佃島ふたり書房」にて直木賞を受賞。


1.
本のお口よごしですが

2.漱石を売る

3.佃島ふたり書房

4.御書物同心日記

5.作家の値段

  


 

1.

●「本のお口よごしですが」● ★★     講談社エッセイ賞


1991年07
講談社刊

(1456円+税)

1994年07月
講談社文庫化

1991/11/21

古書店の店主が書いたエッセイ。

古本愛好家他、本に愛着をもつ人々のエピソードがさりげなく語られていて、興味深いと共に、とても親しみを感じます。
こうした本は、じっくりと少しずつ読んでいきたい。
とは言うものの、途中から急にスピードアップしてしまい、結局あまり記憶に残っていない、というのが常のこと。

  

2.

●「漱石を売る」● ★☆


1992年07月
文芸春秋刊

(1456円+税)

1995年09月
文春文庫化

1992/08/11

読んでいる内に、不思議と読書意欲がかき立てられる本。
これといって本の話題がある訳ではありません。あくまで商売上のエピソードを書き連ねたもの。
本を読むなど、古本屋としては商売が低調な証拠、と言います。ただ、エピソードに現れるのは、各々本をそれなりに愛している客たちの姿である。
それを思うと、改めて本をもち、本を読むことに対する喜びを感じさせられます。となれば、本棚にある本を再び読みたい、という気持ちになるのも当然のこと。

  

3.

●「佃島ふたり書房」● ★☆       直木賞

 

1923年10月
講談社刊

(1553円+税)

1995年07月
講談社文庫化

 

1993/01/31

冒頭、佃島を語る辺りは、森田誠吾「魚河岸ものがたりを連想させられます。ともに東京都下にありながら、都会と異なった気配をもつ町である。
佃島の現代と大正からの過去が、折り重なってストーリィは展開します。ただし、現代といっても昭和40年頃のことでしょうか。
ストーリィは、生年月日が全く同一の2人、梶田郡司工藤六司の友情が主体です。主人公はどちらかというと梶田郡司。
2人の出会いは、同じ奉公先の古書店であり、それがストーリィの舞台となります。
大正、関東大震災、太平洋戦争と続いた時代の中にあって、古書が投機的商品となったり、左翼的傾向の本が発禁となったり、古書店の仕事にもドラマはあった。そうした過程を経ても、古書店は続いていたというストーリィ。
もうひとつ華やかさ、活力に不足、そしてはっきりしないところが残ったという印象。

  

4.

●「御書物同心日記」● ★☆




1999年04月
講談社刊

2002年12月
講談社文庫

(495円+税)

 
2003/06/17

御書物方同心として出仕を始めた、東雲丈太郎を主人公とする連作短篇集。

家康が収集した書物は、後に城内の紅葉山に移され、紅葉山文庫と称されたそうです。そして三代将軍家光が御書物奉行を置き、御書物方同心という職掌を設けて、紅葉山文庫を監督保護させた由。
時代小説多くあれど、御書物方同心を描いた作品は珍しい。丈太郎という青年を主人公として、彼の新任体験を描くと同時に、御書物方同心の仕事の様子を描いたというのが、本書のミソ。
火の気が許されない故の温熱衣という工夫、恒例行事である御風干し等と、興味深いこと多。
とりわけ事件が起きる訳ではありませんが、本好きにとっては御書物同心たちの仕事振りだけでも充分に楽しめる一冊。

御書物方同心の世話役である時田敬之助、軽いノリの同年代同心である白瀬角一郎、養父・栄蔵、実家の妹である「珍本」こと琴乃と、周辺人物たちもなかなか楽しい。それ以上に、補修等で本をいじっているだけで楽しいという丈太郎を、本好きとしては好きにならずにはいられないではありませんか。

ぬし/香料/花縁/足音/黒鼠/落鳥/宿直/附・江戸城内の書物

     

5.

●「作家の値段」● ★★




2007年05月
講談社刊

(1800円+税)

 

2007/06/21

 

amazon.co.jp

出久根さんといえば、古書店主人にして作家。
その出久根さんが著名な作家について語るとなれば、単なる作家紹介には留まりません。
下記24人の作家の古書の値段を語るを以って、その作家の成り立ち、作品刊行当時の状況までを紹介するという、本好きにとっては興味尽きないエッセイです。そう、本書は読んでいて飽きることない面白さ、楽しさいっぱいです。

人気作家の初版本だから高いとは限らない。出版当時の部数、装丁の妙、美本として在り難いか否か、作品の価値とは別のところで決まっているところが古書の値段の面白さです。
どの作品が高いか?となれば、あまり注目されなかった収入稼ぎの初期作品が登場してきたりします。
古書の値段について出久根さんに情報提供してくれるのは、近現代文学・大衆小説専門の古書店主という大場啓志さんですが、この方の通暁ぶりにはただただ驚くばかり。古書とは何と奥深い世界なのだろうと、門外漢としては呆れる思いがします。
古書の値段の一方で披露される各作家のエピソードも魅力です。
山本周五郎という名前は、実は当時徒弟奉公していた質屋の主人公名前だったとか。住所を「山本周五郎方清水三十六」と書いたところ、出版社が取り違えたのだとか。そんなハプニングを笑って許してくれたというそのご主人、なんと寛容な人物だったことかと嬉しくなります。
また、野村胡堂「銭形平次の命名逸話も楽しい。
樋口一葉、石川啄木の極貧生活はエピソードとして読んでも痛ましい限りですが、この2作家の生涯については井上ひさしさんの評伝戯曲を通してじっくり味わえますので、是非お薦めしたいところです。

なお、24人のうち私が読んだことのない作家は、寺山修司、江戸川乱歩、直木三十五、泉鏡花、横溝正史、石川啄木、深沢七郎、火野葦平、立原道造、吉屋信子の10人でした。

司馬遼太郎三島由紀夫山本周五郎/川端康成/太宰治/寺山修司/宮澤賢治/永井荷風/江戸川乱歩/樋口一葉/夏目漱石/直木三十五/野村胡堂/泉鏡花/横溝正史/石川啄木/深沢七郎/坂口安吾/火野葦平/立原道造/森鴎外/吉屋信子/吉川英治/梶井基次郎

      


  

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