朝井まかて作品のページ No.3



21.輪舞曲(ロンド)

22.白光

23.ボタニカ

【作家歴】、実さえ花さえ、ちゃんちゃら、すかたん、先生のお庭番、ぬけまいる、恋歌、阿蘭陀西鶴、御松茸騒動、藪医ふらここ堂、眩

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残り者、落陽、最悪の将軍、銀の猫、福袋、雲上雲下、悪玉伝、草々不一、落花狼藉、グッドバイ

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21.
「輪舞曲(ロンド) ★☆


輪舞曲

2020年04月
新潮社

(1650円+税)



2020/05/17



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グッドバイに引き続き、実在の記憶されるべき女性を描いた作品。
今回は、新劇女優だった
伊澤蘭奢(らんじゃ、本名:三浦繁)

日本の女優第一号であった
松井須磨子が演じた「人形の家」に胸打たれ、息子の佐喜雄を津和野の婚家に残して離婚。
26歳で上京、18年に
「ヴェニスの商人」で初舞台を踏み舞台女優として歩み始める。松井須磨子亡き後の新劇界でトップスターとなり、28年に戯曲「マダムX」の主演で大喝采を得るが、同年脳出血で死去。享年38歳、女優としての活躍は僅か10年、という女性。

朝井まかて作品については初期の頃から、毎回楽しみにして読んできたのですが、今回は何となく余り興味を惹かれず、読んでいてももうひとつ興が乗らず、というまま読み終わってしまったなぁという感じです。そのため評価が若干低めとなりました。

と言って、私は勿論のこと、伊澤蘭奢という新劇女優のことを知っている人は少ないだろうという中で、その足跡、その人生を描き伝えた意義は十分に価値あることと思います。

ストーリィは、蘭奢本人の他、彼女と深い関わりのあった4人の男性の語りを交えて綴られます。
内藤民治:総合雑誌「内外」の主幹、蘭奢のパトロン・愛人。
福原駿雄:18歳の学生時に5歳上の人妻だった蘭奢の不倫恋人。後に徳川夢声の芸名で弁士、作家、俳優として活躍した人物。
福田清人:帝大生時、女優だった蘭奢の一時の恋人。
伊藤佐喜雄:蘭奢の息子。6歳の時に母と別れる。後に作家。

複数の人の視点から語るという構成の場合、その視点によって別の人物像が浮かび上がるということもあるのですが、本作ではそういう印象はなく、その時その時の蘭奢(イジャラン)の状況と姿が描かれているという印象です。


Nからの招待状/丸髷の細君/イジャラン/茉莉花/焦土の貴婦人/逆光線/手紙/桜の面影

                     

22.
「白 光 Byakko ★★


白光

2021年07月
文芸春秋

(1800円+税)



2021/08/15



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日本初の聖画(イコン)師となった実在の女性、山下りんの生涯を描いた力作長編。

明治初頭、「絵師になりたい」と自分の願望を貫き通して東京へ出た山下りん、浮世絵師、次いで
南画師に弟子入りした処から始まり、新設された工部美術学校に入学、さらに級友の山室政子から誘われて神田駿河台にある<正教会>へ。
そして、
宣教師ニコライの斡旋で、画を学ぶためサンクトペテルブルクにあるノヴォデービッチ女子修道院の聖像画工房へ。

まさに苦闘というべき変遷ですが、りんの常に葛藤している姿が印象的です。
絵を描きたい、絵師になりたいと言っても明治初頭は大きな変化の時代であってその道は平坦ではありませんし、正教徒として受洗を受けイリナという洗礼名を得たからといって信仰心に目覚めたわけではなし。
その結果が、女子修道院での対立、葛藤、孤独感・・・。
言葉が通じればまだ違ったのかもしれませんが、現地で少し教わったばかりでは意思疎通も難しく・・・。

そもそもイコンという聖画が特殊なもの。自由に描くものではなく、あくまで信仰の道具であり、芸術作品とは異なるものなのですから。
 

本作の主人公は山下りんに他なりませんが、同時に日本における正教会の足跡(神田駿河台のニコライ堂の歴史)もまた知ることのできるところに、意味深いものがあります。

※本作に登場するニコライ師(1836〜1912年)、日本に正教を伝道した大主教であり、日本正教会の創建者。


序章.紅茶と酒とタマートゥ/1.開化いたしたく候/2.工部美術学校/3.絵筆を持つ尼僧たち/4.分かれ道/5.名も無き者は/6.ニコライ堂の鐘の音/終章.復活祭

              

23.
「ボタニカ Botanica ★★


ボタニカ

2022年01月
祥伝社

(1800円+税)



2022/02/08



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“日本の植物学の父”と言われる牧野富太郎(1865〜1957)の生涯を描いた伝記小説。

それだけ聞くと偉人と思うのですが、実際にその生涯を辿ると、何とまぁ・・・。
学歴といえば小学校中退。しかし、植物学への熱意は凄まじく、独学で研究・実地調査に没頭、次々と実績を上げていく。
一方、31歳で東京帝国大学理科大学の助手となるが、20年もの間助手の立場に塩漬け、50歳にして講師となりますが65歳になるまで立場はそのまま。
65歳でようやく論文を提出し、理学博士となった人物。

自分のしたいことだけに没頭し、それ以外のことは他人任せという、まるで駄々っ子のような人物。本人はそれで充足感いっぱいなのでしょうけれど、その煽りで苦労させられる人は堪ったものではありません。
家賃を滞納して追い出され住居を転々とすること、書物や標本まで差し押さえられるということが度々、というのですから。
妻となりながらもほったらかし状態で金だけは無心される従妹の
、その後富太郎の妻となるスエ(壽衛)にしても、その苦労と富太郎に対する献身ぶりはもう、痛ましく感じてならない程。

そんな人物だから大きなことを為し、また日本の植物学発展に大いなる貢献をしたと言えるのでしょう。終わりよければすべて良し、と言いますが、それで猶やスエ、子どもたちの苦労が無くなる訳でもなし。
それでもスエや子どもたちが富太郎を見捨てることはなかったのですから、どこかに人徳あるいは愛嬌があったのでしょう。

波乱万丈の人生を描く一方、日本の植物学の足取りを知ることができる作品でもあります。
それにしてもまぁ、牧野富太郎、何と呆れた人であったことか。
その稀有な人物を朝井さん、見事に描き抜いています。

※借金の名人というと内田百が頭に浮かびますが、牧野富太郎の借金状況ははるかにスケールで上回っていたのではないか。


1.岸屋の坊/2.草分け/3.自由/4.冬の庭園/5.ファミリイ/6.彷徨/7.書読め吾子/8.帝国大学/9.草の家/10.大借金/11.奇人変人/12.恋女房/13.ボタニカ

     

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