フィリップ・プルマン作品のページ


Philip Pullman 英国の作家。オックスフォード大学卒業後、ウェストミンスター大学で英文学を教える傍ら、小説、芝居の脚本、絵本等を発表。95年“ライラの冒険シリーズ”第一作「黄金の羅針盤」の刊行により、英国カーネギー賞、ガーディアン・チルドレン賞、チルドレンズ・フィクション・プライズ等、多くの賞を受賞。さらに「琥珀の望遠鏡」により、2001年度英国ウィットブレッド賞の大賞を、児童文学作品として史上初めて受賞。


1.黄金の羅針盤−ライラの冒険シリーズ1−

2.神秘の短剣 −ライラの冒険シリーズ2−

3.琥珀の望遠鏡−ライラの冒険シリーズ3−

 


 

1.

●「黄金の羅針盤」● ★★
 
原題:"The Golden Compass" 
     訳:大久保寛 




1995年発表

1999年11月
新潮社刊
(2400円+税)

2003年11月
新潮文庫化
(上下)

2007年09月
<軽装版>
(上下)



2002/03/16



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本書は、大冒険ファンタジー、“ライラの冒険シリーズ”の第1巻。
帯には「指輪物語」「ナルニア国物語」「はてしない物語に熱中したすべての人に、とあります。刊行されたのが今なら、当然にハリー・ポッターも付け加えられていたことでしょう。

冒頭の第1部ではもうひとつストーリィがつかみきれず、それ程面白いとは思わなかった、というのが正直なところ。
主人公のライラという少女はオックスフォードの学寮で暮らしていますが、ひどいお転婆ですし、おまけに相当な嘘つき。これでは好感を持てという方が無理でしょう。もっとも、出来すぎの主人公より身近な存在に感じられますけど。

そのライラは、寮からコールター夫人の元に引き取られますが、最近勃発している子供の誘拐事件に彼女が関与していること、おじアスリエル卿が北極の果てで監禁されていることを知り、彼女の元から逃げ出します。
そして、誘拐された子供達を捜すジプシャンの一行と共に北極へ向かうところから、ライラの大冒険が始まります。

同じファンタジー物語と言っても「ハリー・ポッター」が現代おとぎ話であるのに対し、「ライラ」は本質的に冒険物語。
第2部からは本格的な冒険ストーリィとなり、俄然面白くなります。その理由は魅力に富んだ多彩な登場人物たちにもある、と言って良いでしょう。

ライラがいるのは、似てはいるものの我々の世界とはちょっと違った世界。大きく異なるのは、人間にはダイモン(守護精霊)が必ずついていることです。そのダイモンは、様々な動物の姿に変身でき、その主人と共生関係にあります。ライラとそのダイモン=パンタライモンのやり取りが実に楽しく、本書ストーリィに温もりを与えています。
そして、よろいをきたクマ=イオレク・バーニソン、北極に住む魔女=セラフィナ・ペカーラ、等々の存在が、とても魅力的。

本書はまさに大人向けの冒険ファンタジー!です。

※映画化 → 「ライラの冒険−黄金の羅針盤

 

2.

●「神秘の短剣」● 
 
原題:"The Subtle Knife"      訳:大久保寛 




1997年発表

2000年04月
新潮社刊
(2100円+税)

2004年02月
新潮文庫化
(上下)

2008年06月
<軽装版>
(上下)

2002/03/21


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第1巻も半分位までよく判らなかったのですが、この第2巻はそれ以上。殆ど最後までよく判らない、というのが正直な気持ちです。
本巻では、ライラの属する世界とは別次元の2つの世界が舞台となります。
そのひとつが我々の世界。ウィルという少年が登場し、ライラと出会い、“神秘の短剣”を手に入れ、その守り手となるまでのストーリィです。

一応冒険物語ではあるのですが、本巻の本質は序章である第1巻と、究極の物語となるであろう第3巻を結ぶ為のストーリィという気がします。ですから“ライラの冒険シリーズ”の舞台背景を理屈づけて説明している、という要素がとても高い。

コールター夫人や魔女のセラフィーナ・ペカーラ等も第1巻に引き続き登場しますが、理屈に押しのけられているという感じで、彼女等の登場があってさえあまり面白さが感じられません。
ただ、終盤に至ってようやく、本ストーリィが神と天使達の抗争に根源を置いていることが明らかになってきます。
この辺り、ミルトン「失楽園を読んでいると理解し易いと思うのですが、そうでないとちょっと辛い。

思うに、プルマンはミルトン「失楽園」に匹敵する大叙事詩を書き上げようとしているのではないでしょうか。
もっとも、ストーリィ内容は相反するようなものですけれど。これでは、教会筋が目を剥くのも当然でしょう。

いずれにせよ、ここまで来たら第3巻を読まないと話になりません。

         

3.

●「琥珀の望遠鏡」● ★☆
 
原題:"The Amber Spyglass"      訳:大久保寛 




2000年発表

2002年01月
新潮社刊
(2800円+税)

2004年07月
新潮文庫化
(上下)

2008年08月
<軽装版>
(上下)

2002/06/09


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壮大なファンタジー叙事詩“ライラの冒険シリーズ”最終巻。
第2巻から規模が急激に膨らんでいき、かつ複雑化を極めたものですから、読む方(私)の理解が追いつかず、というのが正直なところ。その傾向はこの第3巻でも変わりません。

本巻ストーリィの中心は、ライラウィルの2人が神秘の短剣を用い、ダイモンと離れ離れになって死者の国へ行き、永遠の幽霊状態となっている死者たちを解放する、という部分。

既存権力の支配を打ち壊す、最大の場面と言って良いでしょう。
また、ライラのダイモン=パンタライモンとすっかり馴染んだ読み手にとって、ライラとパンの別れは、今後どうなるのかと胸をドキドキさせられます。(ただし、2人が死者の国へ行かなければならない必然性が、もうひとつ理解できず)

イオレク・バーニソンら一旦退いた脇役たちが再登場するのも嬉しいところ。それでもなお、最も不可解で興味をそそる人物といえば、ライラの実母・コールター夫人に勝るものはいません。本巻でもライラに負けない存在感を示しています。
多くの登場人物がライラとウィルの冒険を応援し、ストーリィは大団円へと向かいます。それに伴い、ライラとウィルは子供から大人へ成長する姿をはっきり示していきます。

壮大なストーリィが繰り広げられる一方、ライラとウィルの成長物語として収斂する点において、やはり本書は児童文学と言うべきなのでしょう。
もっともその成長物語が、壮大な構想にやや押し退けられそうになっているという印象の故、評価は厳しめとなりました。

   


  

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