パオロ・コニェッティ作品のページ


Paolo Cognetti  1978年イタリア・ミラノ生。大学で数学を学ぶも中退。ミラノ市立映画学校で学び、映画制作の仕事に携わる。2004年短篇集「成功する女子のためのマニュアル」にて作家デビュー。12年短篇集「ソフィアはいつも黒い服を着る」にてイタリア文学の最高峰であるストレーガ賞の最終候補。初の本格的長篇小説となる「帰れない山」にてストレーガ賞ならびに同賞ヤング部門をダブル受賞。
幼い頃から父親と登山に親しみ、18年10月現在は1年の半分をアルプス山麓、残りをミラノで過ごしながら執筆活動に専念。


1.帰れない山

2.フォンターネ 

3.狼の幸せ

 


                                   

1.

「帰れない山 ★★★
 
原題:"Le otto montagne"        訳:関口英子


帰れない山

2017年発表

2018年10月
新潮社

(2050円+税)



2018/11/29



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山の少年と街の少年、山を舞台にした出会いと友情、2人の半生を描いた長編。

主人公となるのは
ピエトロ。共に山登り好きの両親のもとにミラノで生まれますが、母親が夏を過ごす場所として見つけたモンテ・ローザを望むグラーナ村で、羊飼いの少年ブルーノと出会います。
出会ってすぐ2人は親しくなり、ブルーノに誘われるままピエトロは共に山へ登ります。
その2人を山へ、山へと誘った存在が、ピエトロの父親。最初は息子を連れて、グラーナ村でブルーノを知ってからはしばしば3人で山を登ります。
彼の登山スタイルはストイック。ひたすら先を急いで山を登り、頂上に着けばすぐ降りるというパターン。
レジャーや楽しみとしての登山ではなく、そこに山にこそ人生がある、といった風。それはピエトロとブルーノの2人にも共通するようです。

やがて別れ、長じてからの再会、2人の山での共同作業、そしてまた葛藤・・・・。
ピエトロとブルーノの2人、山ではまるで双子のようですが、夏季が過ぎればピエトロは街に戻り、ブルーノはずっと山の村で生きているという点で対照的。

2人の先々には切なさ限りないものもありますが、それよりも本作で胸打たれるのは、2人の山への思い、山での生活ぶりでしょう。
山の空気の素晴らしさ、都会や街から離れた高地における清々しさ、自由さ、孤高の気高さが、本作の中に充満しています。

なお、本作を読みながら私は、2つの文学作品を思い出させられていました。
ひとつは
ヨハンナ・スピリ「ハイジ、「山は美しいんです!」というハイジの言葉が今も忘れられません。
もうひとつは
ヘルマン・ヘッセ「ペーター・カーチメント(郷愁)、町での暮らしから山の村での暮らしに戻ったペーターには2人と共通するのがあるのでは、と思った次第。

第一部 子ども時代の山/第二部 和解の家/第三部 友の冬

                       

2.
「フォンターネ 山小屋の生活 ★★   
 原題:"Il ragazzo selvatico"        訳:関口英子


フォンターネ

2013年発表

2022年02月
新潮社

(1800円+税)



2022/03/29



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30歳になって何もかも枯渇してしまったという作家、ミラノを離れ、アルプスの山小屋生活を始めます。

題名の
「フォンターネ」とは、標高1900m の山中にある小村ブリュソンの、わずか4軒の山小屋からなる集落の名前。
その意味では副題の「山小屋の生活」の方が本書の内容に適っています。

都会から離れた山の上での生活というと、本書中でも引用されていますが、
ソロー「森の生活」を思い起こさせられます。
また、アルプスというと、
シュピーリ「ハイジを連想します。
ところが実際の山小屋生活となると、そう理想的には進まないようです。
夜は中々寝付けないし、野生動物の声が気になるし、と。

一方、意外と山小屋の生活は忙しいようで、常に何かしらすることがある。その意味では気分転換には最適だったのだろうと感じます。

しかし、ずっと山の上の生活というのは、それはそれで問題もあるのでしょう。都会の生活と比べられるからこそ楽しく、爽快なのだろうと思います。
読み手も作者と一緒に楽しめる、山小屋暮らしの体験談です。


第一章 冬-眠りの季節
 街で
第二章 春-孤独と観察の季節
 家/地形図/名残り雪/畑/夜/隣人
第三章 夏-友情と冒険の季節
 牛飼いよ、どこへ行く/干し草/アイベックス/野宿/登山小屋/格別な一本/
 むせび泣き
第四章 秋-執筆の季節
 山小屋に戻る/言葉/来訪者/幸運な犬/牧下り/銀世界で/最後のワイン

                         

3.
「狼の幸せ ★★☆  
 原題:"La felicita del lupo"        訳:飯田亮介


狼の幸せ

2021年発表

2023年04月
早川書房

(2400円+税)



2023/05/03



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イタリアンアルプス近くの村=フォンターナ・クレッダ、そしてフェリク氷河に近い山小屋=クィンティーノ・セッラを主な舞台にした、山岳小説。

本作における主要な人物は次の4人。
・10年の間パートナーだった女性と別れ、上記村にやって来て登山客や山の労働者向けの店で新米コックをすることになった作家の
ファウスト(40歳)
・ファウストが働くことになった店<バベットの晩餐会>の女主人で
通称バベット(店を始めて35年)、
・その店の新米ウェイトレス、
シルヴィア(27歳)
・店の常連客で元森林警備隊員の
サントルソ(54歳)

この山岳地帯では、街中とは全く違った空気が流れているようです。また、それぞれの感情や行動が本音のまま、シンプルに流れ出している、といった感じ。
そのうえ、四季の移ろいによって生活の営みや働き方も変わっていく。
それらの雰囲気がとにかく良い、理屈抜きで魅了されます。

本作は作者の実体験に基づき、実際の村や店をモデルにして執筆されたそうです。
また、恋愛小説を書きたいというのが狙いだったとか。
上記の4人の中でどういう展開があるのか、どうぞお楽しみに。

なお、題名は「狼の幸せ」ですが、狼が登場してどうこう、ということではありません。
狼というのは、定住せず、新たな土地を目指して旅を続ける存在なのだとか。本書題名はそうした狼の生き方に対する憧れを籠めたものなのでしょう。

       



新潮クレスト・ブックス

      

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