アラン・ベネット作品のページ


Alan Bennett  1934年英国リーズ生、オックスフォード大学で学ぶ。劇作家、脚本家、俳優、小説家。数多くの演劇、テレビ、ラジオ、映画の脚本を執筆し、2006年には“The History Boys”でトニー賞を受賞するほか、受賞多数。

 


   

●「やんごとなき読者」● ★★
 
原題:"THE UNCOMMON READER"          訳:市川恵里

  

 
2007年発表

2009年03月
白水社刊

(1900円+税)

 

2009/04/06

 

amazon.co.jp

題名の「やんごとなき読者」とは、現英国女王のエリザベス二世のこと。
なんと、現国王を小説の主人公にしてしまうのですから、驚きです。日本で天皇を、などとはとても考えられないこと。
この英国流ユーモアの寛容性には、感心するばかりです。

さてストーリィ。
愛犬が迷い込んだ先に移動図書館の車があり、それに乗り込んで本を借りてみたことがきっかけとなって、女王は読書の楽しみに入り込むことになります。それもずぶずぶと、どっぷりと。
何を置いてもまず読書。おかげで公務に関心は薄れ、どこへ行くにも本を手放さず、馬車に乗り込めばすぐ本を読み出すという没頭ぶり。外国訪問で長い列車旅があると聞けば、読書がたっぷりできると喜ぶのですから、あぁ私と同じだ、と楽しくなります。
一方、女王のそんな読書熱に困惑して頭を抱えたのは、女王に仕える人々。フランス大統領にいきなりジャン・ジュネについて質問してしまうのですから、後々にアルツハイマー発症か?と心配するのも無理ないこと。

女王の読書熱によって引き起こされた周囲の困惑と、ひたすら読書に熱中する女王の対照的な姿が、穏やかにユーモラス。
でも、単にユーモラスで終わるストーリィではありません。読書を通じて人々の心の機微を感じとれるようになる等々、女王がその年齢で新たに人間としての成長を遂げていく姿が、なんとも味わい深い。
また、エリザベス女王はどんな本に熱中するのか、という点も本好きとしては興味尽きないところ。
ジェイン・オースティンが女王のお好みに合わなかったという下りにはファンとしてムッとしてしまうのですが、その理由を聞かされれば仕方ないと納得するのもまた楽しい。
プルーストをはじめ名だたる作家以外に、ちゃんとサミュエル・ピープスの名前を登場させているところには喝采を贈りたい。

さて、肝心の結末はどこへ向かうのか?
本書の上品で味わい深いユーモアは、最後の最後まで貫かれています。
本好き、英国好き、上品なユーモアが好きな方には、是非お薦めの一冊です。

    


       

to Top Page     to 海外作家 Index