ボーイスカウト夜話


 この冊子は、団がまだ10周年も迎えていない頃、少年隊隊長の菅野氏によってまとめられたものです。スカウト諸君に捧げるという書き出しですが、格調高い文章なので、現在の中学生には少し難しいように思います。ここに寄稿されている河井宏文氏は現在も団委員として活躍中です。
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目次

  1. 野営の楽しさ
  2. 班長・次長・班員
  3. 奉仕をする喜び(漆畑昌坦)
  4. 神様(河井宏文)
  5. 無名スカウトと無名戦士(三島通陽)
  6. 努力を怠らない
  7. スカウティングの本質
  8. 忘れ得ぬ人
  9. 協力するにはやり方しだい
  10. 独創的思考
  11. 実践躬行・精究教理・道心堅固(河井宏文)
  12. 健全なる精神は健全なる肉体に宿る(漆畑昌坦)
  13. 夕に祈る
  14. 真の勇気(漆畑昌坦)
  15. あるスポーツマン
  16. 愛国心について
  17. スカウト今昔
  18. B−P最後のメッセージ(B−P)


この短文集をスカウト諸君に捧げる

 人のお世話をするよう
  人のお世話にならぬよう
   そして報いを求めぬよう
          後藤新平
 めぐりくる同じ季節の憶い出が人生のあわただしさといったものを感じさせる。ふとしたことが縁で当隊の指導者として今日まで何の支障もなくやってこれたのは、ただただ諸先輩のお力添えと神の御加護のおかげであると信じている。これまでに138団は幾多のスカウトを生んだ。彼等の何人かは現に実社会で働いている君もいるし、学窓で研究に就かれている君もいる。しかし、多かれ少なかれ、彼らの少年時代に培われたスカウティングは、未だに彼等から抜け出ていない。ここにスカウト道の妙味がある。筆者は実践的技術も、またそれを裏付ける適当な理論も充分に身につけてはいない。しかし、少なくともスカウトとして、これまで為してきた体験から、君たちスカウトにとっても何か通じるものがあるのではないかと思いたち、この企画を思いついた。
 人間は男女を問わず、自分を生活環境に適応させる能力は単に進化論的な進歩をとげることだけではない。教養として高めてよい実際的な哲学を立証することである。他人を指導する前に、まず自分を導き、自分を律する人間とならねばならない。初代総長後藤新平先生の冒頭のことばは、このことに何かしら合うところがある。
 この広い社会で君達は真のスカウトであれ。これまでに君達は有形、無形の恩恵を社会からうけた。今度は社会に奉仕する番である。「誰にでも責任あることは誰もやらない」という諺があるが、それを打ち破り、自ら公民として、国際愛をもった人間として成長することを筆者は何にもまして祈っている。
 聞くところによれば、この隊が創立されて以来、もうすぐ10年の歩みをみるそうである。進んで社会に奉仕し、独立心をもって事に対処し報いはもとめない、それでいてそれがあたりまえだというふうになってもらいたい。この隊が存続されうる限り、君達はその長い歴史において、光輝ある、そして誇りある一部分を占めるであろう。スカウティングは人間的にも、技術的にも、にじみでるものでなければならぬ。
 最後に、この短文集を刊行するにあたり、漆畑昌坦年少隊隊長また同じく河井宏文副隊長の多大なご援助を願った。ここに衷心より深甚なる謝意を表するしだいである。筆者自身まだまだ未経験なことが多いため、この試みは期待に添ったものではない。 そのつど不明、不適当な点は御指導を願いたいと思っている。この短文集の刊行が幾分なりとも、スカウト諸君に何らかの要素として役立つならば、それはひとり筆者自身のみの喜びではない。
1966年9月
             日本ボーイスカウト東京第138団
             第4代少年隊隊長  菅野 公人


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