演劇ラボ

【演出の仕事】


【演出の仕事】

演出の仕事を一言で言えば、舞台創造に関わる様々な仕事を、舞台の表現のために収斂させ、
観客に分かりやすく、より感動し易く提供する努力だ。
舞台創造に関わる様々な専門的な仕事は、舞台上での俳優の表現が、観客によりよく伝わるようにつとめることだ。

舞台作品に関わる様々な専門的な仕事は、単独でも十分に芸術として価値がある、
その専門的な仕事が俳優の表現に収斂していくのは、舞台作品の集団的な創造のあり方…贅沢な舞台創造・ライブそのものの魅力に他ならない。
もし照明や舞台美術や音楽等が俳優の表現を無視したものであったら、現代の舞台作品そのものが成り立たない。

演出は、舞台化の材料(戯曲・小説・その他)を選び、どんな芝居を作り・どのように見せるか決定し、
スタッフ・俳優の意識をその目標に導く。
同じ戯曲でも、読む人によって印象の強い部分が違うのは当然。
スタッフ・俳優といっても、人生経験や知性知識の違いで、戯曲の解釈は当然異なってくる。
演出の仕事は、集団の意志を統一するということから始まる。

演出の具体的な仕事は、舞台作品を作り上げるにあたって、
『場の選択(劇場研究)、戯曲との仕事、舞台装置・照明・音響・道具・衣装その他』
舞台創造に関わる各専門パートとの仕事、俳優との仕事と分ける事ができる。
演出の具体的な仕事について、もう少し詳しく見て行こう。

【場の研究】

場の研究(劇場研究)は、俳優が演技する場(アクティングエリア)の研究であり、劇場の建築の研究ではない。
一階を演技空間として俳優が生活しているような場を築いて、2階を回廊上に設置し、観客が覗き見る劇空間があった。(グロトフスキー)
砂漠の中にかがり火をたいて、カーペットを敷いて、一方は楽屋、三方は客席とする劇空間があった。(ピーターブルック)
真っ白なパネルで大きな箱を舞台上に作り、小さなスライドステージを場面転換に用い、サーカスのような劇空間があった。(ピーターブルック)
俳優が演技できる場と観客が居れば、そこは劇の場と考えられる。

様々な『場』がある。
日本には、古代から受け継がれて来た、魂振り・魂鎮め(天鈿女命・桶伏踊)から・能・狂言・歌舞伎・浄瑠璃人形芝居
神楽・宴曲・伎楽・雅楽・散楽・太神楽・俄(即興芝居)・万歳・説教・落語・絵解き話し・番楽・山伏神楽・風流・盆踊り、
曲舞・幸若舞・久米舞・白拍子舞・鹿踊り・蟹踊り・綾子舞・燈籠踊り・地芝居など・・・
西洋からの様々なダンス・サーカス曲技・ミュージカルなど。 今でも幸せなことに、鑑賞することが出来る様々な芸能が有り、それぞれに相応しい『場』がある。

その『場』がもつ力をどう役者たちにプラスするか、観客の心を動かすために、観客にどう見せるか、演出が学ぶべきことは多い。
演出は、自分の作品がどんな舞台作品なのか・誰にみせるのか・どのように表現するのか・いつ開演するのか、
等々公演のコンセプトとテーマにふさわしい、場の選択をしなければならない。

日本の古代は、前方後円墳の耳のような「造出」部分が、奉納の祭事の場であったらしい。
また円墳などの前に、土盛りの壇(春日大社若宮お旅所前 ※1)が設けられることもあったようだ。
仏教が入って来ると菩薩の練行する橋が、拡大して舞台化する方向もあったらしい。(※2)
雅楽の舞台や能舞台は、土盛りの壇(※1)から発展したらしい。
橋懸かりや花道は、書院造りの池の橋(※3)から借用。回り舞台やスッポンは、飛騨からくり人形山車からの借用らしい。
今ある舞台機構は、日本の伝統芸能の継承そのものだ。古くからの「場」を見て来て欲しい。

不思議なのは、1600年代に発達したイギリスの舞台と、江戸などで催された歌舞伎の舞台が、似通っていることだ。
舞台前は土間で、二階席の桟敷に囲まれている。
能舞台の橋懸かりは書院造りの池の中にあった泉殿に渡された橋が起源と言うが、西暦1000年頃の菩薩練行の橋懸かりも取り入れた可能性がある。
現代の劇場は、野外のローマ劇場やギリシャ劇場の機能や江戸歌舞伎小屋の仕掛けなども取り入れている。

近代的な「場」は、パリコレのランウェイショーの「場」だ。
舞台作品にパレードの要素を取り入れて、手に取るような錯覚を導く。

面白いのは、「場」と呼べるものが、それほど多様に発展していないことだ。
ライブの現場の機能は、変わる必要がないのかもしれない。
だからこそ、演出は現代に至る様々なライブの「場」を学ぶべきだと思う。
自分が創りだすライブに、もっとも相応しい「場」を求めて。
それが真似であろうと、二番煎じであろうと、自分のライブに相応しいと思ったら、勇気を持ってその「場」を選ぼう。
そんなあなたを尊敬する。
[土壇・橋懸かり]

アンマンのローマ劇場遺跡 新国立劇場中劇場
パリコレ ランウェイショー(Vogue Japan)
江戸期の歌舞伎の舞台 ロンドンのグローブ座
浄真寺菩薩練供養行「菩薩練行」 春日大社若宮御祭お旅所※1土壇
武家書院造の泉殿 ※3池の橋




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