[五感のコントロール]

ドライアイスを触ってみましょう。すぐに熱いのか冷たいのか分かりますか?
感覚というのは時としてアイマイで混乱し易いようです。
さらに感覚は、簡単な暗示で惑わされ、間違いを犯します。
しかし一方、研ぎ澄まされた感覚というものがあります。
神業というべき技術があります。
口の中に髪の毛があるだけで、不快になりますね。
同じように、指先で、髪の毛の何分の一のひずみを、突き止める方がいらっしゃいます。
人間の感覚能力は、努力次第で大きく高めて行くことができるのです。
まず、自分の感覚を自分でコントロールすることから学んでいきましょう。
俳優は、相手役の行為と周囲の環境や雰囲気の繊細な変化を、すべて正しく知覚し、
自分の演技創造に反映することができるようになりましょう
その為には、鋭敏な注意力を養い、舞台の虚構(与えられた状況)の中で、
五感の感覚を自由に利用できるように、努力しましょう。


Exercise・[周囲のリアルな刺激を、五感によって感知する]

★課題
 ・実際に教室の中にあるものを列挙する。品物別、色別、位置別など 
 ・部屋やテーブルの上のものの配置を覚えて、部屋をでて、また戻ってきたときにその変化を正確に再現する
 ・教室に、椅子などを使って形をつくり、また崩して再現する
 ・教室に聞こえてくる音から、音源を当てる(段々と細部にこだわる)
 ・触覚だけで、自分の周囲の状況を点検する。仲間を区別する。品物を当てる。
 ・嗅覚だけで、品物を当てるなど
○注意点…練習課題は、周囲の対象のリアルな感覚に頼る簡単な課題からより複雑なものへと移っていくように。
より高度な課題は、内面の正当化[なんの為に、いかなる状況で何故自分はこの対象を眺め、
耳を傾け、触れて、味わい、嗅いでいるか]という問いに答えるように進められます。

このように感覚の感受性を高める練習は、実生活の面から想像の面に次第に切り替えられ、
五感の感覚が演技創造の重要な糧になることを理解することが求められます。


■アイホールではゲーム感覚でこの課題に取り組みました。
1クラスを数グループに分けて、グループごとに競う形としたのです。
興味深く楽しくやるために、チームとしてリーダーシップを発揮する生徒や、
人の世話にまわる生徒を見つけだし、
サポートのシステムを自然発生的にクラス内に組み立てていきました。



[観察力と表現力]

観察力は、普段の生活の中で高めて行かなければなりません。
人を観察する習慣を身につけると、いつも行っているお店の方や通勤通学で見かける人々の、
いつもと違う何かを見つけたり、歩き方からお仕事が解ったり、
何事にも面白いと感じる感性と、何だろうという好奇心も高まります。
日常訓練として、『演技創造の為の素材集め』という「表現者という意識」を育んで行きましょう。

また、観察対象から、「嬉しそう」「悲しそう」と感じる時、対象のどのような行為や表情からそれを感じ取ったか、
服装・髪型・行為・表情の細部まで観察し、自分の表現の糧としなければなりません。
更に普段の生活の中で、自分の行為や表情が他人にどのように受け取られるのか、
自分の肉体的特徴による表現を、客観的に理解していく努力が必要です。


このメソッドでは、観察力と表現力の育成強化を目的に、偏見や思い込みの無い観察と俳優一人一人が
独自の表現力を獲得して行くことを目指します。
実生活の様々なシーンで、人の営みや行為の特殊性をあらゆる細部にわたって観察し、
事件が起きたときの内面の論理と行動をつかみ取り、理解するる能力を養いましょう。
また対象を観察した時の「悲しそうだった、楽しそうだった」など自分の感じた印象を、
自分の具体的な表現・行為によって観客に感じとってもらうことを目指します。

○注意点…観察力の発達とは、感覚の記憶の発達に他ならない事を理解し
[見る、聞く]だけでなく、全ての感覚の記憶が、演技創造の糧になることを理解しましょう。
人の行為の表面を複写しようとしてはいけないのです。『らしく』表現することを捨てましよう。
真似るのではなく、行動の論理を表現する必要があります。
事件が実際に経過したよりも、さらに真実感を増すためにそれを伝えるのに役立つ
虚構(推論や想像)によって、表現されたプレゼンテーションがより豊かになることもあります。
単に観察するだけではなく、行為の論理や事件・事実の流れを分析し、これを表現してみることが大切です。
そこで再体験したときに、新たな発見(観察したときに理解できなかった行為の理解)などが生じることもあります。
出会いの印象を演じるのではなく、出会いの事件を生み出していく能力を養っていくのです。
これが演技創造に繋がることを理解しましょう。

Exercise・[観察と表現]

精密な観察と大胆な表現によって「動物あるいは人物を成りたたせている特徴的な行為とテンポリズム」を
身体で表現し、役作りの一端を理解しましょう。
★課題
(1)「アニマルエクササイズ」
十分観察した動物の動きを再現する。
動物を観察し、細部までの動きをテンポリズムに注意しながら再現することで、俳優がその動物を観察した時に感じた感想が、
観客にも感じ取れるように表現すること。その動物の行為から内面の状態が表現される事。
◇Exercise・[animal]◇
ワラビー エミュー 日本鹿
ワラビー エミュー 鹿
ドリル トラ カメレオン
マンドリル トラの家族のうち、母親 カメレオン

(2)「キッズエクササイズ」
・十分観察した子供の動きを模倣する。
子供の行為の目的や行為の変化の論理性を正確に把握し表現することが求められる。
○注意点…大雑把に動物らしさを演じたり、子供らしさを演じる事を厳しく注意します。
行動の論理や動機(内的正当性)を、行為の再現から発見することが大切です。

(3)「マンズスケッチ・マンウォッチ」
・十分観察した人間の動きを再現する。
人間の行為を観察し、細部までの動きをテンポリズムに注意しながら再現する事で、
演者がその人間を観察した時に感じた感想が、観客にも感じ取れるように表現すること。
その人間の行為から内面の状態が表現される事。
○注意点…駅で待ち合わせている人など、観察する機会に恵まれると予測される場を考えること。
自分の生活の範囲内を観察対象とします。
また対象人物は、自分より年上と思われる人物を観察することが望ましい。

●例…駅で待ち合わせをしていた若い男性を観察した生徒は、妙に目つきが厳しく、
眼があえば喧嘩になるような雰囲気を感じとって、殺伐とした青年として表現した。
しかし生徒の報告によれば、遅れてきた女性と会った瞬間その男性がまるで人が変わったように、
にこやかで(「とっても幸せそうだった」)礼儀正しい青年になったとのこと。
このことから殺伐とした青年という表現には矛盾がある事が分かる。
そのためなぜ青年が厳しい顔をしていたのかを話し合った。
【体調が悪かった・不安があった・単に性格が悪い…等】
可能性のあるものを幾つか列記したが、適当なものを特定することは難しかった。
教師は生徒に、男性が待っている時に行った細かい小さな動きを思い出すようにアドバイスした。
その結果髪や服を気にして、触ったり引っ張ったりしていた事がわかった。
そこで教師は、「もしその二人の初めてのデートだとしたら?」と提案した。
その点から男性の厳しい目つきは、彼女が来るかどうかの不安ではないかという仮説が立てられ、
その行為の論理を組み立て(観察者が不安を感じていると推理した動きはなんだったか等)、
青年の全ての行為を正当化して表現する事ができた。
この作品は、まさに大人ぶった青年のういういしい不安が醸し出された、素敵な作品となった。
虚構の挿入が、表現の創造に寄与したことが分かります。
○注意点…人を待つという行為は、演技のなかでも難しい課題の一つです。
演技の原理は、この人間の待つという行為の表現にあるかもしれません。
闇雲に「…らしく」演じるのではなく、観察しその成果を確実に表現していきましょう。
すると、待つという行為が大変積極的な多くの行為の集合である事が分かります。
また、待つ人と来る人との関係が、待つ人の姿勢や態度に大きく影響している事が分かります。
待つという演技が、実は「演劇的な演技」の「基本中の基本」であることを体験しましょう。
・信じる事、疑う事・居続ける事・探す事など、待つという行為ほど、演技創造の大切な要素…
選択肢の発見と意思決定が頻繁に行われている行為は数少ないのです。
Exercise・[駅]
96年 駅 96年 駅 96年 駅
96年 駅 96年 駅 96年 駅
96年 駅 96年 駅 96年 駅
96年 駅 96年 駅 95年 駅
96年 駅 95年 駅 95年 駅
95年 駅 ■アイホールでは、観察と表現「待ち合わせ」を繰り返し練習し、一人一人の
小さな作品「駅の待ち合わせ」を作りました。しぐさの特徴によって人間の内面の
状態を推理・判断する力を養い、その時、彼(彼女)に影響を及ぼしている
状況、例:待ち人が来ない、帰ろうか待とうか迷っている等、対象にとっての
問題を判定し、またお互いの関係「最近の知り合い、恋人同士、上司と部下」等
を推理し、これらの相互行動の論理を発見することを求める、難しい練習でした。
加えて俳優が観察した時に感じた事を、観客に感じ取れるように表現するのです。
その後「公開稽古」で「駅」を舞台に、全員参加のエチュードにまとめ、
作品『駅』を完成させました。そこでは練習着に何か一点付け加えて、
対象の年齢や個性を象徴するセンスが求められました。
また、「見立て」によって様々なものが駅の環境を作り出していきました。
例えば脚立が柱や自動販売機になり、ガイドポール2本が自動改札機でした。

看板

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