デュメイ・ピリスのデュオ

10月24日 東京芸術劇場

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op. 109
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番 ハ短調
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
ラヴェル:ハバネラ形式の小品
ラヴェル:ツィガーヌ

ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス



(デデのひとりごと)

へへへ。上の曲目、どっかで見たニャーと感じる人は、エライ。そう、半分は10月8日の曲目と同じなんです。ですから、興味ある方はそちらの感想も併せてご覧になってくださいニャ。

なぜ同じ出演者の似たような曲目の演奏会を聴きに行ったかといいますと、デュメイとピリス好きだからです。と言うと身も蓋もありませんが、先日のオペラシティーという演奏会場が、何ともひどい響きだったので、もう一度まともなホールで聴いてみたいと思ったからなのです。

奇しくも最初がベートーヴェンの30番ソナタ。どんな音がするかニャーと、興味津々。ちなみに今日は「都民劇場」という鑑賞団体の演奏会だったんですが、お余りが当日券として出回った次第です。売り出されたのはS券だけで、一金8000円也(チーン)。場所は・・・知っている人なら知っている、芸術劇場で一番(音が)ひどい席・・・つまり、1階の後方と2階。ま、仕方ないか、というわけで2階の中段へ。3階がかぶっていない位置だったので、いくらかましか?

あっ、そうそう、ベートーヴェンのピアノソナタのお話でした。第1楽章の急速なテーマが爽快に鳴り出したとたんに、おや、まあ・・・という感じ。確か、オペラシティーでは高音がほとんど聞き取れなくて、低音がやけに鈍重に(ボワーンと)響いていたのに、何たる変身。第2楽章の急速なスケルツォ風(?)の部分も細部まで研ぎ澄まされた演奏。特にピリスのピアノはペダルワークが繊細で微妙なんですが、これが本当に効果を出しています。特にキーペダルは別名弱音ペダルとも呼ばれるように、強弱の差を付けたい時に踏む人が近頃は多いですけど、ピリスの場合にはそういった使い方はほとんどしません。左ペダルを踏むことで音色ががらっと変わるんですニャ。このソナタは、劇的な見得を切る曲ではないんですけど、でも、抽象的な表現をすれば、優雅さと強靱さ、光と影といった対比と、その間の豊富なグラデーションを表現しなければならない曲です。ピリスのペダルは強靱だけどもややくぐもった音といったような、白か黒かでは判別しがたい音色を描き出すんですニャー。シューベルトの世界に半分踏み込んだと言ったら大げさでしょうか。ハーフペダルなどの技術も最近はすっかり見かけなくなりましたけど、ここらへんの使い方もしっかり理にかなっています。

なんだか技術論みたいになっちゃいましたが、デデはピアノを聴くときには、ペダルをじっと睨んでいることが多いんです。すごくイヤなネコですねぇ。まあともかく、オペラシティーの響きはとても音楽会場として実用に耐えるものでないということがわかっただけでも、収穫でした。それ以上に、ピリスのピアノの繊細な響きに感銘を覚えた次第です。

次もベートーヴェンのヴァイオリンソナタ。ハ短調って『運命』の調ですね。こちらはかなり劇的な作りです。ブリオの効いた第1楽章。たっぷりと歌の世界を堪能させてくれる第2楽章。デデが気に入ったのは第3楽章のスケルツォ。3拍目にアクセントがある急速な曲で、ピリスのピアノの輝きが光りましたニャ。一瞬でしたが、これがヤマハ?って音がしていました。スタインウェイのように、スコーンと抜ける音ではありませんが、ヤマハもかなりきらびやかな音になってきてますな。デュメイのヴァイオリンも絶好調。ピアノの蓋が全開でしたが、それ以上にデュメイのヴァイオリンも全開(?)でした。アクセントの強さが、アクの強さと間違われて、デュメイは嫌いって人が結構いますけど、あのアクセントがいいんですよ。ピリスとの呼吸もぴったり。ドライブ感がたまらんですニャーーー。

後半の曲目は8日の曲目とほとんど同じですから、感想はそちらをご覧ください。ひとつだけハプニング。ドビュッシーのソナタが終わったあと、袖に戻らずに、すぐそのまま次の曲を弾き始めました。予定ではハバネラのはずなのに、デュメイがいきなりツィガーヌを弾き始めたもんだから、後ろでピリスと譜めくりの女の子が大慌て。ヴァイオリンのソロの間に、ピアノの譜面がめっかって、よかったニャー。

アンコールには何とバッハのソナタからシチリアーノ。確か第4番だったかの冒頭楽章ですニャ。デュメイは古楽器の演奏家よりもさらにビブラートを抑えて禁欲的な響き。もうちょっと色気があってもいいんだよ。ピリスの右手のスタッカートの響きがすごくきれい。バッハが通奏低音ではではなくて、右手のパートもしっかり書き込んだワケがよくわかる感じでした。これって、コンチェルトの緩徐楽章のようでいて、実はチェンバロをもうひとつのソロ楽器にした、トリオソナタの形式ですニャー。これはまだ、演奏としては完成品じゃないのかもしれないけど、師匠のグリュミオやミルシュテインのサッカリンたっぷりなバッハは、遙かに遠くなったんだニャーなどと思いながら聴きました。



デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールsl9k-mtfj@asahi-net.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)