ピリス・デュメイ・ワンのトリオ

10月8日 オペラシティコンサートホール

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op. 109
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
ラヴェル:ツィガーヌ
ブラームス:ピアノ・トリオ第1番 ロ長調 op. 8

ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス
ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
チェロ:ジャン・ワン



(デデのひとりごと)

地味な曲目なのに7割ぐらいはお客さんが入っていたでしょうか。室内楽の演奏会はどこも閑古鳥が鳴いているというのに。

最初の曲はピリスの独奏でベートーヴェンの30番ソナタ。ベートーヴェンのたどり着いた孤高の境地を表すかのような、こじんまりとしたソナタです。ピリスはすごく繊細な音楽をするピアニストですから、ちょっと楽しみにしていたんですが、ところがところが、のっけからピアノならぬフォルテの大音響が轟き渡り・・・これちょっと違うんじゃないのぉ、ってな感じ。しかも高音の走句が低音の響きにかき消されて、音の芯が全然見えてこないんですニャー。もちろんこのホールの問題もあります(ちょっと響きすぎ。しかも高音が伸びない作り)。しかも座った場所が悪かった(3階の正面)。こういうときは仕方ないですから、こちらの耳をチューニングするんですニャ。やがて耳が慣れてきて何とか高音のニュアンスが伝わってくるようになりましたが、それでもピリスの弾き方が以前とはちょっと変わったのかなあって気はしました。第3楽章の変奏曲はかなりしっとりと歌って聴き応えがありました。

2曲目はデュメイが入って、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ。ドビュッシーの最後の作品ですニャ。もしこの作曲家が印象派っていうカテゴリーにくくれるとするなら、まさに象徴的な作品と言えるでしょうか。リリカルなメロディーを静かに歌ったかと思えば、突然激して、また引いていく。展開するとか発展するというよりも、一瞬の光と影をキャンバスにたたきつけてゆくような音楽ですニャ。フランスの近代音楽はやっぱり、このダイナミックな感情の起伏が魅力。デュメイのヴァイオリンはこの曲のおもしろさ、怖さを極限まで表現していましたニャ。さまざまなメロディ、フレーズが一瞬にして消え去る瞬間がたまらなく美しいんです。

ラヴェルのツィガーヌにも、ドビュッシーのソナタと同じことが言えるかもしれません。普通ヴァイオリンの技巧をひけらかすショーピースってことになっていますが、とても一筋縄じゃいかない曲。前半分は無伴奏ですが、デュメイはややゆっくりしたテンポで入りながら、曲の起伏を鮮やかに弾き分けていきます。テンポは自由にゆれますが、聴き手を驚かせるためのテンポチェンジというよりは、聴衆とともに自然に呼吸している感じです。フラジオレットの虚ろな旋律も申し分なし。あそこは弓をたっぷり使って・・・うん、ヴィブラートは抑えて・・・後半のピリスのピアノも、このホールの響きがわかってきたんでしょうか、かなり高音が通るようになってきて、丁々発止の仕掛け合い。というよりも、「ザンパーノが来たよ〜、ザンパーノだよ〜」ってな感じで、見せ物小屋の猥雑さ。休憩時に聞くとはなく、耳に入ってきたお客さんの感想曰く、「デュメイはちょっと荒いな・・・」。そりゃそうなのよ。ヴァイオリンを近くで聴いたら雑音の方が多いものなのよぉ。

後半のブラームスのトリオは昨年の来日時にも名演を繰り広げました。CDも定評ある名盤ですニャ。ジャン・ワンの雄大に歌う旋律に続いてデュメイも歌い出します。あ、そうそう、3階はどうしようもないので後半は1階の前の方まで移動しました。これで、多少はまともな音が聞こえるようになったでしょうか。第二主題が熱く燃え上がるあたり、不覚にも涙が出てきちまって・・・困ったもんだ。ピリスは「あたいには絶対にブラームスは弾けないよ」って渋っていたそうですが、デュメイの説得工作のお陰で、繊細かつ重厚な演奏を繰り広げます。

デデが一番気に入ったのは第2楽章のスケルツォ。チェロのスタッカートの旋律で小粋に始まります。このチェリスト、歌うだけじゃなくて、こういった軽いパッセージもすごくうまいんです。最初のテーマが戻ってくる度にゴロゴロと喉が鳴ってしまうんですニャー。第3楽章はアダージョですが、弦楽器はヴィブラートを極力抑えて調和の美学に徹します。そして、あの第4楽章の熱情のほとばしり。うん、やっぱり名曲だな。それに、現在のように、クラシックの世界までショービズがあまねく支配する時代にあって、アンサンブルができるソリストって貴重な存在ですね。こらっ、そこのミーハー。クレメルだマイスキーって、ニャンニャン、ワンワンするんじゃねぇぞ。やっ、ちょっと脱線。



デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールsl9k-mtfj@asahi-net.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)