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                     1996年10月11日開始

                               火だるまG

第18回:1998年2月11日

『HANA-BI/北野武/97』


座席以外の通路にも壁際にも人が溢れてスクリーンを見つめていた。『ソナチネ』の時も『Kids Return』の時もこんなことはなかった。別にとりたてて『HANA-BI』だけがいい映画というわけでもない。これまでのところ武さんの撮った映画はすべて面白い。しかし北野作品といえば客が入らない映画の代名詞でもあった。ヴェネチア映画祭でグランプリをとったからこんなに客が入っているのである。絶望的な気持ち
なぜならビートたけしは、古くは榎本健一、古川禄波、そして森繁久弥、渥美清、藤山完美などと並び称されること確実の、元来が歴史に残る喜劇人・タレントなのである。毎回立派な映画を撮っているそのレベルの人が、海外の映画祭が箔をつけてくれてようやく商業的に成功するという状況では、これから先だれも映画なんか撮る気が起きないのではないだろうか?

なんか日本人てエゲツがないというか下品だよなぁ。

さて結論からいうと、心中映画と見た人も多いと思うが、本作は日本映画久々の殉死映画である。本作が観客に突きつけるテーマは、あなたの愛するものが致し方のない理由で滅びていく時にあなたはどうしますか? というものではなかろうか? そしてその問いに対して多くものは、それは致し方がないことで自分も一緒に滅びることはできないので自分は生きていきます、と答えるだろう。 
そんな現実があるから、この映画がファンタジーと成立し、最後の、奥さんの、どうもありがとう、という言葉が胸に残るのである。
この映画にそんなに感心しないものがいるとすれば、そいつは、もともと愛するものと一緒に滅びる覚悟のあるファンキーなバカか、人の世が繰り返される生成必滅の世界であることに対して徹底的に不感症の阿呆だと俺は思った。
しかし半世紀も前には、日本には特攻隊というものがあって、この映画で語られているような気分で殉死した人が現実にいたのである。とすれば、まず心配なのは、このような世界観をわざわざ今の時期に表明した武さんは大丈夫なのかな? 自死したりしないでほしいなということであり、そして不満なのは、ヴェネチアで世界の映画関係者や文化人・知識人が評価したのは、結局は、三島の時代から変わらないカミカゼ的な感性ではあるまいかということである。そういう意味で西洋の人たちにはわかりやすかったことには違いはあるまい。
武監督には、次作では、全世界に対する鉄槌のような、ステレオタイプの理解は拒絶する雄々しい映画を撮っていただきたく期待します。

(この企画連載の著作権は存在します)

 

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