去年の暮れくらいからエアコンの掃除しなけりゃなーとは言ってたのね。もちフィルタの埃を払う程度のものじゃなくて,ダスキンのCMでやっていたような,ビニル_パックした室内機に水と洗剤をぶっ掛けて内部まで徹底的に洗う奴。どうやら2万円は掛かるのと工員を部屋に入れなきゃいけないのとで躊躇するうちにこんなんなったんだ。
あれやっとけば随分ちがった展開になったかもしれないなあ。
お医者はおれの部屋に原因(黴)があると決め付けており,引っ越しを強く勧める。退院しても今のウチに帰ったら何にもならん(再発する)と言うのだ。
えーそうなん。おれどうでも仕事場が原因だと思うんだけど。
入院するに及んでおれとても上記のエアコン洗浄やハウス_クリーニングの業者パックを頼むつもりにはなっていた。真菌症が本当におれの部屋に起因するかは定かでないが──強情──一般的な意味で汚れは落としておいたほうが良い。
しかし引っ越しとなると躊躇する。いま住んでいる所(ワンルーム)は仕事場に近く(30分強の通勤時間)安く(25m^2で68k円)防音に優れている。ここよりC/P値の高い部屋などあるものでない。
それに今はタイミングが悪いのだ。
今年は2年毎の賃貸契約更新年であり,かつ退院できそうな月がその切り替え月なのである。更新には家賃1箇月分よけいに科せられるから,もし引っ越すのなら更新しないで出て行くのが賢者の証し。とは言うものの更新しないでおいて入院中に部屋捜しから契約・引っ越し・引き渡しまでを処理できなかったとしたら,帰る所が無くなってしまう。
家賃1箇月分を惜しんで背水の陣を張るか,家賃1箇月分でモラトリアムを買うか。なかなかシビアな選択である。
結局のところ大事を取って契約更新した。
更新してしまえば,すぐに出るのは勿体ないし大家に悪い。悪かぁねえか。にしてもこの更新は4回目なのだった。8年たったのだ。長いなあ。ひとり暮らしを始めて断トツ最長定住記録である。次に長いのは3.1年だもんなあ。
やっぱり引っ越すのをメインに考えよう。
お医者はご自分で引っ越しをしたことがないのであろうか。引っ越すのにおれが部屋に居てはいけないと言うのである。埃(黴)を吸い込むからって,それはそうかもしれないけど,現実には不可能ですよ。おれ抜きで引っ越しができるわけがない。
梱包と清掃を引っ越し業者のパック_サーヴィスに頼むとしても,引っ越しの要は何と言っても廃棄処分だ。ナニを捨ててカニを持っていくかの判断ができるのはおれだけである。家族や,如何に親しい友人でも無理。こんなプライヴェイトな判断を任されたら任されたほうが迷惑千万である。またおれが立ち合っていなければ,現場の責任を取れないから引っ越し業者だって作業できやしない。
おれの退院に関してお医者のロウドマップはこうらしい。
2.は前述の通り不可能。
1.もかなり難しい。外出可能なのは1日8時間も無く,おれの住みたい地域に出向いて帰ってくるだけで3時間つかう。
そもそも退院の日取りが決まらないと引っ越しの日が確定しない。確定しない日程で物件や引っ越し業者を押さえるような真似は,それはやってはいけないことである。
それではとお医者の代替案。
1.は無茶苦茶である。おれの職種は21時消燈の病院暮らしに馴染むものでない。だいたい20時から23時の間に収まるが,帰宅時刻がまるで一定していないのだ。そもその日の朝きょう何時に帰れるか判っていないのである。もし大部屋から通勤なんてしたら,数日を待たずして同室のヒトに刺されてしまう。
2.はおれが立ち合って──防菌マスクをしてだな──実作業はみな業者がやるお任せパックを想定している。
しようがないのでこう。
居候ねえ。何かお医者に逆らってばかりであい済まんが,おれ友だち居ないから無理だなあ。
ところが甘木が居候させてくれると言う。細君がちょうど臨月でお里に帰っており,てんやわんやになるちょっと前までならひと部屋あけてくれるそうだ。ありがたや。
これでざっと2週間確保できたので退院を決める。もし2週間つかいきったらウィークリーマンションの類に入っても良いし,取り敢えずハウス_クリーニングだけはして暫く今の部屋にしゃがんでいよう。だっておれの部屋だもんな。
その甘木に付き合ってもらって不動産屋巡りのバスはぁ走るぅ。バスじゃなくて甘木のクルマだけど。どうでも良いけど──どうでも良かぁねえだろ──おれ凄え世話になってるな。
最も早い機会に素早く決めてしまうつもりだったのに,慮外に物件がないのだった。
おれが贅沢を言うが故に無いのではなく,単身者向けのワンルームとか1DKとかの間取りそのものが払底しているのだ。却って2LDK・3DKなんてのが賃料を下げてある。
おれのささやかな条件。
贅沢やんけ。
i.のフローリングはお医者の意見である。これはアレルギーに最悪なのが洋間カーペットであることの対極的選択のようで──正におれの部屋はカーペット敷きの洋間である──とにかく風通し良く日当たり良く・湿気の籠らない部屋でないとダメだって。
おれとしてはiii.の通勤時間がイノチなのだが,それだと大気汚染地域を脱せられない。真菌症は大気汚染と関係ないとは思うんだけど,今までそのような所に住んでいてこうなったんだからと言われれば返す言葉が無い。でもさ,田舎へ引っ込むほど森や林の黴・茸(の胞子)が飛んでないのかねえ。
まぁ駅から15分あるくのよりは,電車に15分ながく乗って歩くのが5分というほうが良いかな。
アパマンのオンライン検索一発で決まった前回(つまり今の部屋を選んだとき)と違って迷い道くねくね。沿線の不動産屋をスポット爆撃する方針であるが琴線に触れる部屋がなかなか出てこず,下見に行ってみれば狭かったり暗かったり怖かったりタブーな町だったり駅から遠かったりまだ建ってなかったりして埒が明かない。『週刊CHINTAI』や『ふぉれんと』なんかをめくっても,家賃の相場を知る以上の効果は無いしね。
とうとう部屋の決まらないまま退院である。
ぴたり60日間の入院であった。入院セット(日用品や着替え)も当初の倍となり,1箇月分の内服薬(主観で1kg)・気管支拡張剤「インヘラー」と吸入バッグのセットを持たされ,よたよたしながら娑婆に出る。
お世話になりました。ぺこり。
1998年10月25日(文中は1998年5月)
・甘木
月記文中に出てくるおれ以外の人間のひとり目は老若男女を問わず「甘木」と呼んでおります。「A氏」とか「B嬢」の代わりですな。何故に「甘木」かと言うと,横書きでは判りにくいんで,縦に「甘」「木」と書いてくっつけると「某」なのねん。「甘木」の仮名が指す個人はばらばらですよ。逆に甘木はおれの周囲の雌雄同体融合人格ということになります。この方式は夏目漱石の発明らしいんですが,おれは漱石の弟子筋の内田百鬼園からパクりました。因みにふたり同時に登場すれば──おれのルールでは──花鳥くんと風月くんです。3人なら,考えてないや。
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・巡りのバスはぁ走るぅ
山本コータローとウィークエンドだっけ,『岬巡り』の一節。こういうの今の高校生も唄うのだろうか。
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・迷い道くねくね
渡辺真知子『迷い道』の一節。おれの真知子ベストはスロウ_テンポの『ブルー』。
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