神奈川月記9806

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取り敢えず甘木んチに居候する。出勤はもう少し先として,代わりにおれのウチに通って宛も無く引っ越しの準備を始めることにした。

お医者に貰った防塵防黴マスク(隔離患者の部屋に入るとき医師や看護婦が着ける奴だ)を掛けて荷崩しする。荷作りではない。床のそこかしこに石筍のごとく積み上げられた本の山を崩し,超A級以外をぜんぶ捨てる。部屋のあちこちで歩哨しているモビルスーツの小隊を崩し,ぜんぶ捨てる。頻度の低い辞書・字典・用例を捨てる。鍋・釜・包丁を捨てる。使いかけのラップ・ホイル・調味料を捨てる。パンフ・カタログ・チラシを捨てる。弱電パーツを捨てる。ハンディ_コピイ機・双眼鏡・ミルを捨てる。オウディオ機器の空箱・段ボールの束を捨てる。日常のごみ収集に捨てられる物はみなみな捨てた。
次いで引っ越すときに運送屋に廃棄させる家財に「ハキ」と書いたガムテイプを貼る。まずは寝具一式・ベッドのマット。洗濯機・乾燥機・ランドリ_ラック。電子レンジに冷蔵庫・電気釜。ミニ_テイブル。オウディオ_ラック・プリメイン_アンプ・PCMプロセサ・メイン_スピーカ・サブスピーカ・リアスピーカ。そしてエアコン室内外機。
それから掃除をちょいちょい始める。元元おれがこの部屋を借りたときに内装リフォームがされていたわけではなくて──だからこそ安かったのだが──壁に穴でも開けない限り敷金は安泰,そう熱心に務めなくて良い。炒め物など絶無に近くて油膜の汚れは小さいが,たばこの脂を浮かせると凄い・カーペットにぽつぽつと溶け跡ができている。

そのうち出社再開で,甘木家から会社に通うん。1時間以上かかるのが思いの外きつく,体力の低下を正に痛感した。自覚なかったけどやっぱ入院モウドになってたわ,おれ。
自分の部屋の最寄り駅を通過していくのが空しいと言うかLUNA SEAと言うか妙な気分。

退院して最初の不動産屋まわり。もう後がない。今日ダメならもう引っ越しは無期延期のつもりだ。と,非常に良い・がしかしという物件が見つかった。
不動産屋のセクシィなお姉さまに案内されて下見をする。おれの健康上の条件(どの不動産屋も必ず引っ越しの理由を訊くんだよね)や好みを鑑みた上でのお薦め。駅に近く,単車を敷地内に置ける。駐車場を+9000円で敷地内に持てる。即入できる。治安よさそう。
がしかしおれには広すぎ,家賃(+管理費)が安全域をちょい越えている。木造アパートで音漏れが心配。
逡巡して一旦は諦めた。でもね,これを蹴って外にどんな物件を採れると言うのか。矯めつ眇めつ考えなおし,決定。もう月末ちかいから数日おいて切り良く1日からの契約とした。

今度は旧居の撤収に掛かる。もう次の月の家賃は払ってしまっており,余裕のスケジュールである。取り敢えず布団だけ買って──これも甘木の世話──契約発効日に甘木家を辞し,ほとんど入院セットのまま新居に起居する。
何軒かの引っ越し屋に見積もりを出させて競合させ,一番やすいところを採る。と言うようなことは面倒臭いの3乗であって,近所の,「お任せパック」がシステマティックにメニュ化されている程度に大きい業者にお任せしよう。
ざっと9万円の見積もりは,配車・人件費・廃棄/解体作業が1/3づつほぼ均等に割かれていた。エアコンの撤去費も込みだが,実作業はまた別の業者に委託していたぞ。
えへん。白状いたしますが私はエアコンの冷媒フロンを大気中に放出してしまいました。
梱包はもっとぞんざいなのかと思ったらまめまめしく緩衝材を入れ,埃をちゃっと払うくらいのことはする。
おれもトラックに乗っけてくれないかと思ったら,何とか法でダメらしいんよね。トラックを見送っておいてタクシで追いかけた。電車を使うと乗換駅が遥か彼方で三角飛びとなり,時間が掛かりすぎるのだ。あんまり現地で待たせて兄ちゃん達がダレると困る。
一番でかいのはベッド。次にPCラックかな。開梱は自分でするので積みあがる段ボール箱にげんなりする。直線距離にして6km強の引っ越しが終わるとおれはへたばった。

何度かに分けて,必要になった順に大型電器の買い出しだ。洗濯機と乾燥機・照明器,それから冷蔵庫・電子レンジ,そしてエアコン。
電器は候補を決めておいて店で指名買いできるが──各社パンフがあってその製品は必ず店に置かれるから──ラック・衣裳箱の類はそこまで望めない。通販のカタログの中から無理に選んで購う。っても大抵の家具店の展示品よりは選択肢が多いだろう。

新居の契約から荷の引っ越しまでが2週間・旧居の引き渡しまでにもう2週間ある。
何も無くなった部屋に何度か行ってみたのだが,まことに無気味であった。晧晧と蛍光灯を点けていても──30W直管4本が2器天井に備え付け──空気が死んでいる。ここに蜜柑箱のひとつもあればこざっぱりした部屋と言えなくもなかろうに。電器掃除機を掛けて冗談のように狭いキチンを掃除して。何かもう,終わった感が強い。
部屋の引き渡しはあっさりしたもので,家賃の日割り精算と,大家さんに鍵を返しておしまい。何故おれが転居したかは内緒である。

ああ8年の思ひ出とエロビデオちらしの投げ込みよさらば。

1998年11月25日(文中は1998年6月)


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written by nii. n
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