神奈川月記9805b

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入院するうち看護婦さんの出勤状態の一様でないことに気が付いた。
3交代で日勤・準夜勤・深夜勤のあることは知っている。深夜勤の続くのが稀であることも解る。何となく夜勤の後は24時間以上あいて次の勤務に移るものと思っていたのであるが,今朝おれの脈を看てくれた人がその午後遅く居たりする。あり,おれの日付感覚くさっているのかそれとも8時間あいただけで連投なのかしらん。

1D 2D 3D 4D 5D 6D 7D 8D 9D 10D
A 日深
B 日深 日深
C 日深
D 日深 日深
E 日深
F
G
H
I 日深
J
K
L
M
凡例 日:日勤 ( 7.5-15.5時)
夜:準夜勤(15.5-23.5時)
深:深夜勤(23.5-31.5時)

連投なのだった。うーん。お顔とお名前が一致する看護婦さんの勤務時間帯を10日間ばかり付けてみた(やな患者だなあ)。
空欄はおれが見掛けなかったかお休みだったか外来の日勤にいらしていたかでお姿の無かった日ということである。もちろん看護婦さんはここに挙げた13名だけではない。下の行ほど埋まっていないのは,おれの記帳が追い付いていないせいである。

何か日勤のあと8時間後に深夜勤のパタン(「日深」)が目に付くね。準夜の明けに日勤というのもきつい。
3交代8時間勤務とは言っても定時の前後1時間やそこらは在席することがあるから──むしろ在席するほうが多かろう──準夜勤で引き継ぎに時間を取られて終電に間に合わなくなると,もう病院に泊まってしまうのだそうだ。
ずっと以前入院したときに聞いた話では,準夜の帰りはタクシを使うとのことだった。それで電車がなくなってもタクシ代が出るんでしょうと訊いてみるに,出ることは出るが月に5000円なんだって。そりゃ安すぎ,1発で遣いきってしまう。それでもこの病院(JR某特大駅のすぐ傍)は23時半あがりなので,終電を逃すことはあまりないそうな。
各人の勤務表を作るのは婦長さんのお仕事なのらしい。あっ,この表はおれの曖昧な記憶といい加減な観察に基いたものだから曖昧で好い加減である。クレイム付けないでね。

5月12日は「看護の日」なんだって。何でこの日なのか駄洒落も思い付かないけれど,看護の日を中心に1週間が「看護週間」となっている。
おれの入った病院でも全院を挙げて記念行事があった。看護婦さん主導で日頃の激務の合間を縫って準備するのだから高校の文化祭ほどの盛り上がりも難しいと思えるが,入院の長い人は随分と楽しみらしい。それに看護婦さんたちも実に楽しそうだ。前月号のおれの写真も消化器内科の紹介記事(壁新聞)用に撮られた物である。肖像権を主張して焼き増ししてもらったのだ。ははは。それを無断で掲載してはいかんな。
記念行事としては地下講堂に患者が集まって──ストレッチャ・車椅子・松葉杖での参加多数。ちょいと壮観であった──看護婦長の挨拶や親会社OBから成るジャズバンド演奏や外科部長の骨粗鬆症の話やマイナ歌手のカラオケを鑑賞するのが大きい。おれは骨粗鬆症の話を聞き終わったところでずらかってしまったのだが非常に有意義なイヴェントに感じた。講堂の外は植木市で賑わう。入院中にこの週間があったのは僥倖と言ってよいだろう。

さて咳が出ないようになれば,あのヒト何でここに居るの的入院意義喪失ふう患者である。おれも姥捨てされたように見えるだろうか。
治ったかどうか治っているのかどうかは外見からは(たぶん)判らない。週に1度ペイスのレントゲンと血液検査が拠り所である。ここにレントゲン写真を載せたいが胸部実物大のフィルムを読み込めるスキャナがない。代わりにと言っては何だが血液検査の結果を──何枚かプリントアウトしたレシートを貰ったんだけど,記載の項目がばらばらだ──グラフ化してみた。
時系列各項目の単位もよく判らないので0〜150の範囲になるべく収まるよう掛けたり割ったりしている。計算が面倒だから10^n以外の伸縮はしていないけれど。
線が多すぎて何だこりゃ状態ですな。だから得た材料を全部だしちゃダメと言うのだ。

えと,非常に顕著なのがWBCIgE・それからCRPかな。NEUTは調べたけど何のことか解らなかった。
WBCはWhite Blood Cellで,ずばり白血球数だ。多ければ殺すべき黴菌が多いということである。
IgEは免疫グロブリンEという抗体のこと。これが出ていれば即ちアレルギー症状である。入院後急落したのがプラトー気味になったところでプレドニンを投入したのがよく解る。プレドニンがまた実に効いている。
CRPはC-Reactive Protein(C反応性蛋白),体のどこかに炎症があるとどっと増えるん。

内視鏡2回目の後WBCががんと上がっているについては理由がよく解らない(おれが)。日記メモに拠れば見舞い客が多かったり外出でウチに帰ってたり院長回診があったり入院費を払ったりと,体に悪そうなコトが続いているのだが。
いちばん体に悪そうなので「呼吸機能検査」をやっていた。肺活量や単位秒あたりの呼吸量を計ったりするんだけど,息を吸えるだけ吸って吐けるだけ吐くだの1秒間で肺が空っぽになるよう強く吐くだの,思い切り力が要って呼吸器を痛めつけるようなメニュばかりである。あーた,んなもん胸を患ってる人間にできるわけないでしょ。おれなんか特に自然気胸で肺が破れたことがあるんだから,また破れることへの恐怖が先に立ってそんな検査に全力を盡くすなんてできっこない。性交にだって全力ださんのに。
しかも一どきに2セット3セットとやらせるのだ。阿呆か。こういう被験者の意思だけが頼りの検査はやるだけ無駄である。客観性に乏しい。1回目は検査経験自体が新鮮だから気を入れてやるかもしれんが,2回目があると判ったら誰だって2回目のために力を温存するっての。
莫迦莫迦しい。おれ,この検査まじめにやるヒト居ないっすよとお医者に言ってしまった。日を改めての検査は拒否したよ。

まぁ入院した(せざるを得なかった)頃からすれば劇的に数字が良くなっている。プレドニンの内服量は漸減していくとして,もう入院しているほどのこともない。
何ちて,おれの年休がさすがにもう無いのである。年度初めに2年分の年休を蓄積していたのであるが──ご高察のとおり年休を遣うヒマが無かったのだ。否,あったのだが代休を取らされていたのだ──ほとんど遣いきった。これ以上やすむと休職あつかいとなり,何かと不利益を被るのである。
むろんお医者の判断に従うのであるが,なろうことならぼちぼち退院したい。

退院するについてはふたつ条件がある。ひとつはプレドニンを当初の半分量に落としても病状が悪化しないこと。そしてもうひとつは引っ越しすることである。
えーっ,引っ越し。何それ。

1998年10月3日(文中は1998年5月)


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プラトー
 「平坦」とか「平衡状態」の意味らしい。快方に向かうのが鈍化したりこれ以上加療を続けても無意味になってきたかな,という状態。おれはたまたま医学用語辞典みたいなのを見て知っていたから良いけど,お医者がレントゲン写真みながら説明してくれる中でいきなり「もうプラトーですから」と言われても普通わからんぞ。

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written by nii. n
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