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神奈川月記9611

冠省
ぼやっとしてぜんぜん気に留めていなかったことには,今年は運転免許証の更新年なのだった。これを失効したら恐らく二度と取り戻せない。公安委員会から懇切丁寧なはがきが来て,はたと気付く。おれは「優良運転者」なのだそうだ。栄光のゴウルデンカードである。
そう言えばこっち(関東)に来てから10年ちかく一度もパクられぬどころか検問に引っ掛かったことさえない。優良な訳だ。超高級車に乗っていれば生涯無免でも大丈夫という話が,さもありなんと思えてくる。尤もおれ運転量すくないもんね,G7サミットのとき都内に入るような真似はしないし。原チャリが白バイに停められているのはちょくちょく見掛けるんだけどさ。
3年前(の更新の際)はこんなはがき来なかったがなあと思いつつ運転免許試験場へ向かう。神奈川なら二俣川だ。本当は地元警察署のが近いのだが,新規開拓より道のついているほうを選びたがる鼠人格なもんで試験場の裏を返した。ここでなぜ前回が試験場だったかは訊かないように。
試験場は駅からやや離れており,町のそこかしこに「←試験場」の看板がある。道を訊かれた住人が音を上げたのだろう。しかし商店街に誘導することも忘れていない。久しぶりに訪なう町の例に漏れずコンビニが増えている。代書屋は減った気がする。1行抹消っと。
平日ながら試験場はなかなかの盛況だ。特に前科も問題もない更新組は2階の広いフロアに全面展開,受付から視力検査(含む四肢異状・聴覚検査)・写真撮影・安全講習と流れるようなフォーマットに乗って進む。ふとブロイラ工場を連想する。
随分システムが変わった様子で,申請書に本籍地や住所を書かなくても済むようになっていた。おれの「免許の条件等」は「眼鏡等自二車は中型に限る」であり「免許の種類」は「普通」と「自二車」と「原付」である。丸を付けようとして「自二車」が「大自二」「普自二」に細分化されているのにとまどうペリカン。大自二は大型(限定解除)のことだろうと「普自二」の「自二」部分を囲んでおいたのだけれども,これ,しれっと大自二にしてたらすんなり限定解除できていたのではないかしら。
視力検査でちょっと絶句したものの挽回できた。次回は危ない。行列をだらだら歩いていれば四肢異状なし・係員の言うことを聞いていれば聴覚OKということらしい。おれの前のチャンジーが検査器械をちらっと覗いただけで,あー見えん・全然みえんよとやけにヤケを起こしていたのが不思議であった。係りのチャンネーがちゃんと額を付けてもう一度ととりなすも,いや見えん!と頑固親爺のうまか味になっている。この人,いったい何しに来たのだ。
基本形態は眼鏡なので写真もそれで撮る。と,眼鏡を外してもう1枚とりましょうとキャメラウーマンが腕を奮った。そ・そうなん。2枚とられるのは初めてだなあ。おれは眼鏡を掛けるとクラーク ケントだが外せばインドア派爆弾魔なんで,あんまり素を晒したくないんだけどな。
最後は講習会である。これは最近義務づけられたものだそうで,優良運転者も逃れられない。視聴覚室に集められた連中を見て思うにこ奴ら皆おなじ星座な訳で,如何に星占いがでたらめであるかよーく解る。この多士済済を見てなお皆いっしょの運勢や性格と言うか,おうこら。お負けにおれら今年から蛇遣い座だと。誰が言い出してん。言うに事欠いて蛇遣いてあーた,サジタリウスというちょっとロマンチックな語感だったのがショパン イカリになってもうた。スタンド遣い座なら良かったのに。
講習といってもビデオを観るだけだ。前の前の前くらいに観たのは──帰省中に31km/hオウヴァでパクられた後だった──若奥様が実はエスパーで旦那を常に遠隔視しており,彼が交通事故や違反を犯すたびに時を戻し精神感応と念動力を駆使して歴史を改竄してしまうという,七瀬もスーパージェッターも卒倒しそうな内容であった。今回のはずっとまとも。全然おもしろくない。『頭文字D』をビデオ化して,こんなことしちゃいけませんと訓戒するほうがウけると思うぞ。
20分ほどのビデオのあと5分の喋り。神奈川の交通事故発生状況を教えてくれた。去年より事故が多いが死者は少ないそうである。全国ワーストのトップクラスらしいが,これは人口に比例しただけではないのかね。
講習会が終わって程なく新しい免許証を受け取る手筈である。試験場に入ってざっと1時間か,大変にスピードアップされているように思う。貰った免許証の「平成13年の誕生日まで有効」の部分が金地に黒文字,「免許の条件等」の下に「優良」の囲み文字がある。条件が「眼鏡等」だけになっており,やはり中型2輪免許は「普自二」の「1」で表わされると見える。小型2輪だと条件等に「普自二車は小型に限る」と付くんだろうな,きっと。あああ,なんか「大自二」で申請しなかったのが一生の不覚な気がしてきた。
しかし免許証ってクレジットカードサイズになったんじゃなかったっけ。大きさは前と変わってないや。写真はどういう訳か眼鏡なし爆弾魔ヴァージョンが採用されていた。別にクリスマスの鼻メガネを付けてたわけじゃないんだけどなあ。


バンダイモビル スーツ,所謂ガンプラにいつの間にかMGシリーズというのが出ている。MasterGradeの略ね。それまでの最高級品HG(HighGrade)シリーズがまことに見事な出来だったのを──射出成型時にきれいな色が付けてあるから塗装しなくても見栄えがよく,軟質プラスティックの節度ある関節を持つ──リファインし部品点数を増やしオプション装備を高めして凌駕したものらしい(お値段も凌駕)。初期のヴァルキリーなんか変形なしのくせにすぐ関節が莫迦になって自重でへたりこんでいたものだがなあ。プラモデルと言えども進化するものだ。
成人してからのおれのプラモは専らバイクだったのだが,ある日ある時1/12のバイクと1/100乃至1/144のモビルスーツとがベストマッチングすることに気付いてライダ代わりに乗せるようになったのだ。ハンドルを握らせて──頭頂高20cm足らずのプラモの指が可動なんですよ,あーた──シートの左右に脚を下ろさせるだけでも「らしい」雰囲気が出る。
HGは1stガンダムからV2アサルトくらいまでの相当数を作り倒してきたが,引っ越しで捨てたりBB弾の標的になったりして今は数台(ガンダムmkIIとダギイルス・Vダッシュ)しか生き残っていない。MGはまた1stガンダムを振り出しにしておりこれを買ってみたら,あっ何と言うことだ,コアブロックとA・Bパーツのギミックがほぼ完璧に──惜しむらくはコアファイタの垂直尾翼を外さないと換装できない──再現されている。Ζの変形は更に巧妙で──買ってやんの──何ら部品を取り去ることなくウェイヴライダになれるのだった。
しかしここで誉めたいのはザクなのだ。テレビではどう見ても単なるやられ役だったのがこうして細密に立体化されオプション装備を構えると,実に恰好いいのである。頑健で屈強な戦士のイメイジが前面に出てきて,その目でガンダムやΖを見れば如何にも華奢で脆弱で頼りない。ショルダアタック1発で沈黙・最終回という感じである。コアブロックにせよトランスフォームにせよ砂埃を被っただけで稼動しなくなるに決まっている。やっぱ機械は安定動作だよなあ。早くドムが出ないかな。それとおれの一番すきな機体のガンダムmkII,乞うMG化。ΖΖはどうでも良いぞ。

不一

1996年11月28日


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1行抹消
 落語『代書屋』の1節。無筆の客と代書屋とのやり取りで,客が要らんことばかり言うのでせっかくの記述がダメになり,「1行抹消」が連続する汚い履歴書になってしまう。枝雀・春團治ほか演者多数。ぜんぶ話を聞いてから書けば良いのにといつも思うぞ,代書屋

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とまどうペリカン
 井上陽水『ライオンとペリカン』の1曲目。

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頑固親爺のうまか味
 『ガキの使いやあらへんで!!』松本の遣い捨てギャグ。

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クラーク ケント
 アメコミ『SUPERMAN』の主人公。合州国体制派エイリアンである。

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ショパン猪狩
 東京コミックショーのアラビアン?なおっちゃん。「レッドスネーク,カモン」とズボンずらしの人。

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スタンド遣い
 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』第3部からのプロットの中心。簡単に言うと超能力(スタンド)者。おれは買った物が廃れていくスタンドを持っている。

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七瀬もスーパージェッターも
 七瀬は『家族八景』『エディプスの恋人』(筒井康隆)のヒロインにして精神感応術者。ジェッターは『スーパージェッター』(原作画者わすれた)のヒーローにして時間旅行巡視者。筒井はTV版ジェッターの脚本をいくつか書いているそうな。

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頭文字D
 しげの"バリ伝"秀一の最新作。このマンガのせいで中古車市場大波乱らしい。どうして「走り屋」はクルマをエンジン型式で呼ぶのでしょうか。

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モビルスーツ
 人間が密閉式コクピットに乗り込んで動かす人型ロボットの総称。軍用をモビルスーツ・土木作業用をレイバーという,と言うのは嘘。この段落に出てくる名前で,ヴァルキリー(F-14 TOMCAT似)は『超時空要塞マクロス』だけど外は全部『機動戦士ガンダム』シリーズ。「Ζ(Ζ)」は「(ダブル)ゼータ」だからね,ゼットと読むと恥かくぞ。

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written by nii. n