作品を作る際に生じる自然な気持ちに、「自分独自の何かを生み出したい」があります。「普通の作品ではなく、何か特徴のある作品を作りたい」と。そんなとき真っ先に思い浮かぶのが、クセのある写真です。
写真の場合は、現実の被写体を写し取る方式なので、何から何まで自分で生み出すことはできません。それでも、クセのある写真を撮ることは可能です。現に今まで、有名な写真家が魅力的な作品を残してきました。
では、普通の人でも、クセのある写真が撮れるのでしょうか。非常に魅力的な作品は無理でも、ある程度ならクセのある写真が撮れます。もちろん、すぐに撮れるようになるわけではありません。試行錯誤は必要で、その期間は人によって異なるようです。
というわけで、クセのある写真の撮り方について概要を紹介しましょう。写真の撮り方だけでなく、クセのある写真を用いた写真表現まで含めて。
クセのある写真を撮るためには、どうすればよいのでしょうか。それを求めるためには、クセのある写真とはどんなものなのかを明らかにしなければなりません。
簡単に表現するなら「普通に撮ったものと比べて、違った印象を与える写真」となります。その「印象」の中身が問題です。美しいといった印象の場合、クセのある写真とは見なさないでしょう。それとは反対の、恐ろしい、汚い、不思議といった印象を与えるなら、多くの人がクセのある写真とみなすでしょう。大まかな傾向として、美しいといったプラスの印象でなく、マイナスの印象を与える写真が、クセのあると感じさせます。
ただし、プラスの印象でも、迫力があるとか、きらびやかといった印象なら、クセのある写真と感じさせられます。けっしてマイナスの印象だけではないのです。
クセのある写真の印象は、どのようにして作られるのでしょうか。様々なクセのある写真を調べてみると、普通の写真とは違っている点が見付かります。細かく分けると何十個もです。それらはクセを作るための要素なので、ここではクセ要素と呼びましょう。
世の中にある写真からクセ要素を洗い出し、次のようになります。大きく4つに分類してみました。
< クセのある写真を作るための要素 >
・画質に関する要素
・コントラスト:高い、低い
・明るさ:明るい、暗い
・彩度:高い、低い
・粒状性:荒い(デジカメではノイズで代用)
・色合い:カラー(平均的、特定1色に偏り、特定2色が中心)、
モノクロ、変色モノクロ、部分的カラー
・画像編集に関する要素
・周囲などに装飾を加える
・特殊効果のフィルターで処理する
(例:歪ませる、ソラリゼーション、油絵風など)
・一部を目立たせる(他を暗くするなどして)
・複数の画像を合成する
・複数の写真を合成する
・写真以外の画像と写真を合成する
・上記を組み合わせる
・撮り方(フレーミングなど)に関する要素
・ピント:完全にぼかす、少し甘くする、主役以外に合致
・ブレ:手ブレ、被写体ブレ
・レンズ選び:広角のみ、望遠のみ、ミラーレンズのみ
・地平線:少し傾ける、かなり傾ける、逆さにする
・アングル:変な方向から写す
・被写体:変な切り取り方をする
・主役:極端に目立たせる、目立たせない、なくす
(例:フラッシュで主役だけ目立たせる)
・背景:極端に入れる、まったく入れない、ぼかす
・構図:代表的な構図を極端に崩す
・被写体の選び方に関する要素
・変わった被写体だけ選ぶ
(例:醜い被写体、怒っている人など)
・特別な状況だけ選ぶ
(例:悲しんでいる状況、騒いでいる状況など)
・光の具合で選ぶ
(例:強い日差し、光の差し込み、人口光など)
・その他、特別な条件を満たすものだけ選ぶ
(例:日の出直後、人混み、都会など)
他に、見せ方に関する要素もありますが、写真自体には含まれないので除外しました。4つの分類のうち、被写体の選び方に関する要素だけは、上手に挙げられませんでした。この分類に関しては、各人が試行錯誤しながら深く考えて、条件を見付けだすしかなさそうです。
クセ要素が明らかになったので、クセのある写真との関係を考えてみましょう。クセのある写真の印象は、上記のクセ要素を何個か組み合わせて作られます。組み合わせるクセ要素によって、写真の印象が決まるのです。
クセ要素ごとに、作り出す印象に与える影響が決まっています。たとえば、コントラストを極端に高めると、硬い、強い、強烈、冷酷、不自然といった印象を作り出します。こうした傾向を理解しながら、狙いに合ったクセ要素を選ぶわけです。
クセ要素を何個選ぶかは、最終的に求める印象で異なります。たとえば、強烈な個性の写真で知られる森山大道氏のクセを付けるなら、モノクロ、コントラストを高く、粒子を荒くが必須の要素です。他に、ブレやぼけを混ぜる、独特な被写体選び、独自の切り取り方、ときどき地平線を傾ける、たまに極端に暗い、なども含めます。
こうして整理していくと、組み合わせるクセ要素が2種類に分けられることに気付きます。次のような形で。
< 組み合わせるクセ要素の分類 >
・必須クセ要素:全部の写真に当てはまるクセ要素
・任意クセ要素:一部の写真に当てはまるクセ要素
このうち、任意クセ要素が、個々の写真のバリエーションとなります。つまり、全部の写真で必須クセ要素を守りながら、被写体に応じて任意クセ要素を選択して使うわけです。任意クセ要素の選択と被写体との関係にも写真家の特徴が表れるので、これも印象に影響を与えます。
前述のように、クセ要素の数は多くあります。当然、組み合わせも相当な数に上ります。全部を試して調べるのは、非常に大変です。では、どうするのでしょうか。
まず、主なクセ要素ごとで、印象の傾向を理解します。実際に撮影するとか、写真を加工して試すしかないでしょう。全部試す必要はありませんが、主なものに属するコントラスト、明るさ、彩度などは必須です。それ以外は、自分で興味があるクセ要素を何個か試すとよいでしょう。大まかには、試した(印象の傾向を理解した)数が多いほど、作れる印象の幅も広がります。
個々のクセ要素の傾向が理解できたら、それを組み合わせてみます。この段階では、撮り方に関するクセ要素も一緒に試します。被写体の切り取り方、アングル、地平線、主役の目立たせ方、レンズ選びなどを幅広く試してみます。
撮影した写真は、どんな印象に仕上がっているのか、必ず確認します。組み合わせたクセ要素によって、どんな効果が得られたのか見極め、自分で理解するるわけです。様々な組み合わせを試すと、自分が気に入った印象が見付かるはずです。今度は、それを出発点にしながら、別なクセ要素を組み合わせて、自分の好きなクセを探します。
こうした試行錯誤を続けると、組み合わせるクセ要素が絞られてきます。得られたクセ要素の一部は、必須クセ要素となります。それが見極められると、好みのクセが安定して作れるでしょう。残りのクセ要素を被写体に応じて選びながら、自分なりの選び方を確立していきます。
クセ要素の組み合わせを、永遠に固定する必要はありません。ときどき新しいクセ要素を入れたり、一部のクセ要素を削ったりします。自分なりの作風を追い求めながら、作風も少しずつ変わっていくものです。
最初にも少し触れましたが、クセのある写真を撮る目的は何でしょうか。おそらく、他人とは違った写真を撮りたい、自分独自の写真を撮りたいという、表現する上での不可欠な意識ではないかと思います。
こんな意識の突破口というか、実現する方法として、クセのある写真が役立ちます。最終的に、クセのある写真に到達するかどうかに関係なくです。クセのある写真の撮り方を試すことによって、様々な写真を作る機会が生まれます。同時に、写真表現についても深く考えされられます。こうした経験のおかげで、自分の撮りたい写真の方向が見えてくるわけです。
もう1つ、クセのある写真を多く見ることも大切です。面白い写真を数多く知らないと、クセのある写真は撮れません。写真でこんな表現も可能なのかと、強烈な衝撃を受けることも、表現の幅を広げる重要な要素ですから。
幸いなことに、日本の写真界には、様々な試みを行った写真家が何人もいます。日本の写真史を調べて、強烈な個性を持つ写真家を知ってください。彼らが残したクセのある写真を見ることで、自分の写真表現の可能性も広がることでしょう。同時に、まだ気付いてない写真の面白さも知ることになるでしょう。美しい写真だけが良い写真ではないのです。