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組写真の表現意図の設計例(紅葉)

紅葉を題材に、表現意図の簡単な設計例を紹介

 組写真で可能な表現意図は、非常に広くなります。そのため、表現意図の作り方や掘り下げ方を一般論の形で説明しても、かなり理解しづらいでしょう。そこで、ある設計例を用意しました。

 抽象的な表現意図だと難しいので、より一般的な対象を選びました。それは「紅葉」です。このような対象だと、多くの人が普通に撮影するため、例としても最適でしょうから。

 ただし、問題点もあります。紅葉の場合、表現の方向として「美しさ」ぐらいしか思い浮かびません。広がりにくい題材、つまり工夫する余地が非常に少ない対象といえます。そうであっても、幅広く考えることで、いろいろな表現意図が導き出せます。その辺の話も頭に置きながら、設計する過程を読んでください。

 なお、実際の対象を見せられないので、架空の場所を観察しながらという前提で話を進めます。といいつつも、実際の対象と違わない内容になっていますが。

掘り下げる方法は、大きく分けて2種類

 題材を掘り下げる方法としては、大きく分けて2種類の方向があります。題材そのものを掘り下げる方法と、題材と他の関係に注目する方法です。2種類の方法とも、汎用的で絶対的な方法はありません。しかし、いくつかの考え方は例として挙げられますから、何個か挙げました。

< 題材を掘り下げる方向 >
・題材そのものを、深く分解していく
  ・例1:題材を何個かの要素に分解し、どれかの要素を選ぶ
  ・例2:題材を何種類かに分類し、どれかの種類を選ぶ
  ・例3:題材の実例から特徴を見付け、どれかの特徴を選ぶ
・題材と他との関係に注目して掘り下げる
  ・例1:題材の周囲にある何かとの関係
  ・例2:題材の変化に着目して、関係する何かを探す

 題材そのものを掘り下げる方法として、3つ挙げてみました。最初は、題材を構成する要素に分解してみて、どれかの要素を選ぶ方法です。次は、題材を何種類かに分類して、どれかの種類を選ぶ方法です。要素でも種類でも、2つ以上選ぶことができます。もちろん、表現意図としてまとめられる限り。最後は、題材の実例を観察し、何らかの特徴を探し出す方法です。見付かった特徴の中から、表現意図として使えそうなものを選びます。

 題材と他との関係に注目する方法として、2つ挙げてみました。一番有効なのは、題材の周囲にある何かとの関係を調べることです。いろいろとあることが多いので、1つずつ順番に考えてみます。もう1つは、題材の変化に着目する方法です。変化を起こす要因を調べ、それとの関係が採用できないかを検討します。

 以上の掘り下げ方を、今回の題材である紅葉に適用したらどうなるのか、続けて紹介しましょう。

題材そのものを深く掘り下げてみると

 先に、紅葉という題材を掘り下げます。紅葉の魅力とは何でしょうか。最初に思い浮かぶのは、その美しさです。また、紅葉が集まった山々では、その壮観さも魅力でしょう。他には思い浮かびませんでした。美しさの方が広がりそうなので、今回は美しさに絞って掘り下げてみます。

 掘り下げる過程まで説明すると、大変長くなってしまいます。そこで、掘り下げた結果だけをまとめてみました。

< 紅葉の美しさを掘り下げる >
・要素に分解:美しいと感じる対象
  ・個々の葉っぱ(*)
  ・1本または数本の樹木
  ・森や山々などの景色
・種類を発見:美しさの種類
  ・紅葉の色の違い
  ・色の組合せや模様の違い
・特徴を発見:特徴的な美しさ
  ・森や山々での、色の組合せ(*)
  ・森や山々での、色のなだらかな変化(*)

 この中から、表現意図として使えそうなものを選びます。今回選んだのは、上記で(*)印が付いた3つです。それらを、具体的な表現意図や写真の組合せの形で、次のようにまとめてました。タイトルに場所名が必要だったので、仮に「日光」としてあります。

< 紅葉の美しさを掘り下げた結果、得られた表現意図 >
「秋の日光で輝く珠玉の葉っぱたち」
  ・表現意図:異なる葉を組み合わせて、様々な美しさを表現
  ・個々の写真:1枚の紅葉の葉をアップで撮影
  ・写真の構成:代表的な紅葉の葉を何種類か含める
「紅葉が奏でるハーモニー」
  ・表現意図:紅葉の色の様々な組合せを表現
  ・個々の写真:美しく組み合わされた紅葉の山々
  ・写真の構成:色の組合せや模様の異なる紅葉を何枚か
「秋が生み出すグラデーション」
  ・表現意図:紅葉グラデーションの様々な美しさを表現
  ・個々の写真:グラデーションが美しい紅葉の山々
  ・写真の構成:色やタイプが異なるグラデーションを何枚か

 こうして狙いを絞り込むことで、何を見てほしいかが明確になります。当然、組写真から受ける印象も定まり、狙った美しさが伝わるようになるでしょう。こうした形とは異なり、様々なタイプの紅葉を一緒にすれば、焦点が定まらない組写真(実際には単写真の集まり)になってしまいます。

 組写真の場合は、個々の写真の撮影に注意が必要です。表現意図に合わせた形で、フレーミングしなければなりません。たとえば、紅葉のグラデーションが狙いなら、グラデーション以外の要素ができるだけ目立たないように(通常は入らないように)切り取ることが大切です。

題材と他との関係を考えてみると

 今度は、題材と他との関係に着目して、表現意図を求めてみましょう。この方法だと、いろいろなものが対象となり得ます。その中から、表現意図に使えそうなものを選ぶのです。

 まずは、紅葉の周囲にあるものを探します。撮影場所を歩いていたら、観光客の捨てたゴミが目に付きました。けっこう多いようです。紅葉の美しさとは正反対のものですね。関係としては面白い題材です。美しさの表と裏という感じで。

 次は、題材を変化させるものを探します。紅葉というか森を変化させるのは、自然の変化ですね。もっと具体的には季節の変化です。これから思い浮かびました。四季の変化を見せて、紅葉の美しさを強調すればいいと。春夏秋冬の4つの季節で、同じ位置から同じ方向を撮影する方法が使えます。

 よく考えると、紅葉だけが美しいとは限りません。春、夏、冬もそれぞれ別な美しさがあるでしょう。4つの季節がどれも美しい景色を見付ければ、面白い作品になりそうです。このように、表現を膨らませることも大切です。

 他にも、いろいろと思い浮かぶでしょう。きりがないので、この辺にしておきましょう。挙げたものをまとめると、次のようになります。

< 紅葉と他との関係に着目し、得られた表現意図 >
「美しい紅葉の表と裏」
  ・表現意図:紅葉の美しさとは正反対となる、裏側の醜さを表現
  ・個々の写真:紅葉が美しい遠景と、そこにあるゴミの写真
  ・写真の構成:紅葉とゴミをペアにして、数個の組合せを入れる
「四季が生み出す4種類の美しさ」
  ・表現意図:四季の変化で生じる、同じ景色の4つの美しさを表現
  ・個々の写真:同じ景色を同じアングルで、4つの季節で撮影
  ・写真の構成:4つとも美しい風景を、何種類か含める

 春夏秋冬とも美しい風景を探すのには、1年以上の時間が必要でしょう。仕方がないことなので、気長に続けるしかありません。また、四季のうちで2つまたは3つしか美しくない風景もあるでしょう。さらには、紅葉だけしか美しくない風景もあるでしょう。そんなときは方針を変更し、他の季節の写真で紅葉の美しさを強調する形に表現意図に変えます。ときには臨機応変も必要です。

基本的に何でもありで、そこに個性が出る

 紅葉という一般的な題材を取り上げて、表現意図の設計例を紹介してみました。人間に関係するような重い表現意図ではなく、普通に撮影しそうな題材だっただけに、表現意図の作り方が分かりやすいと思います(その分だけ、組写真の醍醐味は小さいのですが)。

 ただし、ここで紹介した表現意図は、あくまで一例にしか過ぎません。組写真での表現意図は、基本的に何でもありです。“何を選ぶかこそが、表現者の個性”となります。常識的な狙いに捕われず、もっと自由に選んでみてください。たとえば、遠くから見ると美しい紅葉も、個々の葉っぱは汚い点に着目するとか。

 もう1つの大事な点は、狙いを欲張らずに絞り込むことです。組写真ですから、山々の遠景の美しさ、複数の樹木の美しさ、葉っぱの美しさを組み合わせることも可能です。しかし、狙いがぼけやすいので、よほど強力な視点でもないかぎり、単写真の組合せで終わってしまいます。組写真が上手になるまでは、狙いを絞り込んだ方が安全でしょう。

(作成:2003年9月16日)
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