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SMC TAKUMAR 50mm F1.4の味

ぼけの美しさが最大の魅力

 ペンタックス(当時は旭光学工業)のSMC TAKUMAR 50mm F1.4は、M42マウントの古いレンズです。写真(マウントアダプタ付き)のように、ピントリングがゴムに変わった、後期型のレンズを使ってます。この後期型でさえ、約30年前のレンズです。

 このレンズですが、ぼけの美しさ、それもかなりぼかしたときの美しさでは、私が持っている100本以上の交換レンズの中で一番だと思います。全レンズを細かく調べたわけではありませんので、絶対に確実とは言えませんが、ほぼ間違いないはずです。

 このレンズの開放で写したとき、とくに後ぼけが非常に柔らかく、しかも美しく仕上がります。この柔らかい美しさを言葉で表すのは難しいですね。架空のものにたとえるなら、糸が無限に細かい真綿の柔らかさと美しさ、でしょうか。やっぱり難しいですね。ともかく、このレンズの美しい後ぼけは特筆もので、病み付きになるほど魅力的な写りです。

 開放では素晴らしいぼけ味ですが、少しでも絞ると、その特徴が大きく消えてしまいます。そうなったら、もはや普通のレンズでしかありません。ですから、このレンズは、開放で使うのが絶対条件です。私の場合は「無理してでも開放で使う」と決めています。

 ただし、どんな条件でも美しく仕上がるわけではありません。二線ぼけになる領域が存在し、その条件に当てはまると、汚い仕上りになってしまいます。その条件を避けながら撮るのが、上手な使い方となります。具体的な条件は、言葉で説明できません。被写体との距離だけでなく、被写体の形が大きく関係するので、頻繁に使いながら感覚として覚えるしかないと思います。

レンズ玉が黄色く変色

 古いレンズなので、レンズ玉が黄色に変色しています。使われているガラスの材質が特殊なためかもしれません。変色の度合いですが、それほどひどくはないものの、リバーサルで写すと確実に影響がある程度です。デジタル一眼レフで使うと、自動ホワイトバランス機能により、変色の影響を取り除けることもあります。

 RAW現像するときは、変色している分のホワイトバランス補正が必要です。普通のレンズなら5300Kに設定するところを、このレンズでは5000K程度に設定して現像しています。正確な補正量は、5000Kと5100Kの間のようです(ちなみに、この補正量は常用しているレンズの固有値であって、別なレンズでは変色の程度が異なりますから、補正値も違ってきます。そのため、レンズごとに補正値を求める必要があります)。

 実際の現像では少し幅を持たせ、仕上りの色を確認しながら決めています。黄色い感じを余計に取り除きたいときは5000Kに、黄色い感じをほんの少し残したいときは5100Kに、もっと残したいときは5300Kにするという感じで。

 レンズ本体ですけど、最近になって少し壊れ始めました。あまりにも使用頻度が高く、手荒く使っていたためでしょうか。距離目盛りを印刷してある帯状の部品が、筐体内部から剥がれてしまったのです。数字を見て距離を合わせることができないだけで、写りには関係ありません。あまり気にせず、修理しないまま使い続けています。

 非常に気に入っているレンズなので、壊れ始めたのを良い機会にして、予備を1本購入しました。ジャンク価格で相当に安い1本ですけど。また、前期型も安く買えたので、これも予備になるかも知れません。写りが同じかどうか、まだ確認はしてませんけど。

現在は、主にマクロで利用中

 このレンズの利用範囲は、かなり広いと思います。ただし、後ぼけの美しさを大いに生かす対象となると、マクロが一番でしょう。というわけで、現在はマクロを中心に利用しています。

 レンズ単体ではマクロ撮影ができないので、ヘリコイド接写リングを用いています。それでも不足する場合には、接写リングセットを加えます。ヘリコイド接写リングを最大に厚くしても、寄りの足りないことがよくあるため、接写リングセットの出番は多めです。

 開放で写すのが必須で、しかもマクロ撮影ですから、被写界深度は非常に浅くなります。仕方がないので、同じカットを何枚も撮影して、一番良い写真を選ぶようにしています。これはと思った被写体なら数十枚、そうでなくても最低5枚は写します。三脚を使えば、格段に少ない枚数で済むでしょう。でも、手持ちでの撮影が好きなので、今の方法を続けています。

 このレンズを使うとき、写真表現として大事なのは、柔らかくて美しいぼけを積極的に生かすことです。ぼけを大きく入れるほど、美しい写真に仕上がりやすくなります。マクロ撮影で利用しているのは、こうした表現が容易だからです。

 通常のマクロレンズよりも明るい開放F1.4が、役立つことも多いです。周囲が暗くなる夕方とか、室内での撮影では、暗いマクロレンズだと困ります。マクロはぶれやすいので、速いシャッター速度が必須となり、撮影時の感度を上げるしかないでしょう。高感度に弱いE-1の場合、感度を上げたくないので、F1.4の明るさは非常に助かります。

 当然ですが、マクロ以外でも使ってます。開放だと柔らかい感じに写るので、雰囲気を重視する場面で。また、F2.8以上に絞るとしっかり写りますから、スナップにも利用できます。ただし、絞り込み測光となるため、速写性はありませんね。

作例1:カタクリ彗星

 カタクリの花の形が、彗星のように見えたので、より彗星だと感じるように写してみました。このレンズの美しいぼけを生かそうと、被写体のほとんどをぼかして写す方法で、彗星の綺麗さを強調できました。RAW現像時に彩度を上げただけで、他はそのままです。

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作例2:ほんわかキブシ

 キブシの花をアップで撮っています。開放ですから被写界深度が浅く、花の一番手前の部分に、ピントを何とか合わせました。何枚も撮影して。このレンズならではのぼけ味のおかげで、キブシの花が柔らかく写り、ほんわかした雰囲気に仕上がりました。

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(作成:2005年7月27日)
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