藤原公重 ふじわらのきんしげ 元永元〜治承二(1118-1178) 号:梢少将・紀伊少将

生年は元永二年(1119)とも。閑院流公実の孫。権中納言通季の息子。母は藤原忠教女。公通の同母弟。子に内大臣実宗・参議実明がいる。
父に早く死に別れ、叔父実能の養子となる。紀伊守・侍従・右少将などを経て、正四位下に至る。
『治承三十六人歌合』に選ばれる。家集『風情集』がある。詞花集初出。勅撰集入集歌は計六首。

前参議経盛歌合し侍りけるに

山のはに入日のかげはさしながら麓の里はしぐれてぞゆく(新勅撰386)

【通釈】山の稜線にかかった入日の光はなお射しているのに、その山の麓の里には時雨がそそいでゆく。

【語釈】◇前参議経盛 平忠盛の子。仁安二年(1167)、承安元年(1171)など、盛んに歌合を主催した。

【類想歌】
柴の戸に入日の影はさしながらいかにしぐるる山べなるらむ(藤原清輔[新古今])
山のはに入日の影はさしながら一むらくもるゆふだちの空(藤原隆信)
ただひとへ嵐の上にうき雲の日はてりながら時雨てぞ行く(素純)

恋千鳥寄

逢ふことをいなみの浦になく千鳥われもさこそは声も惜しまね(風情集)

【通釈】印南の浦で鳴く千鳥よ、私もそのようには声を惜しまず泣くよ、恋しい人に逢うことを否まれて。

【語釈】◇恋千鳥寄 千鳥に寄する恋。「寄千鳥恋」と表記するのが普通。◇いなみの浦 印南の浦。播磨国の歌枕。今の兵庫県加古川市から明石市あたり。「否み」を掛ける。

泉向恋人

思ひ出づるかひやあらましわぎもこがむすぶ泉に影もうつらば(風情集)

【通釈】思い出す甲斐もあるだろうに。手に掬う泉に、愛しいあの子の面影でも映るならば。

【語釈】◇泉向恋人 泉に向ひて人を恋ふ。◇影もうつらば 面影が映るのは、相手が自分のことを思ってくれているからだという古くからの俗信があった。

【本歌】藤原経衡「経衡集」
いづかたに鳴きてゆくらむほととぎすむすぶ泉に影もみえなん

ありがたくて見し人のはかなくなりて、夢にみえしかば

のこりゐてさむる別れの悲しきに我も夢ぢにきえなましかば(風情集)

【通釈】ひとり残されて、目が覚める――こんな別れは悲しすぎるから、私も夢といっしょに消えてしまったらよかったのに。

【語釈】◇ありがたくて見し人 滅多に逢えなかった人。◇はかなくなりて 死んでしまって。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日