季刊かすてら・2004年冬の号

◆目次◆

軽挙妄動手帳
奇妙倶楽部
編集後記

『軽挙妄動手帳』

●不定形俳句●

『奇妙倶楽部』

●世界虚事大百科事典●

番光(ばんこう) 1931‐03(昭和6‐平成15)

 画家、前衛芸術家。奈良県に生まれる。本名船戸智恵子。10代半ばに大峰山の観光地での印刷物のデザイナーとして働き、その後、大阪の光彩画塾を経て1952年に上京。文化画会研究所に通う。66年第13回遊手会展に初入選して以後、独立美術協会展などで精力的な発表活動に入る。前衛絵画のグループとも交渉をもち、79年にはシュルレアリスムをその特色とした「美術文化協会」に参加。フランドルの画家ボスを連想させる幻想的な画面は、1980年代の時代の状況を画家の内省的な世界のなかで定着させ、とりわけ『模倣のある風景』(1988)は、代表的な作品として評価されている。
 1990年代に入ると『偽札』シリーズの作成に入る。「これは何か」と誰に訪ねても「どこかの国の紙幣」「お札」と答える、架空の紙幣の図案を次々と創り出し、またこれを印刷した。当初は赤瀬川源平の前衛芸術としての偽札に影響を受けた物と考えられたが、番光はこれを実際に流通させたかったらしく、古銭店に持ち込んで詐欺罪で訴えられかけた事もある。周囲はこれを芸術的なパフォーマンスと捕えていたが、彼女は何か宗教のような事をやりたかったらしく、また、親しい者によると「文化的テロ」という言葉もしばしば口にしたという。2002年の暮れから理由の判らないハンガーストライキに入り、点滴注射などで長らえさせたが、2003年の三月に理由の判らないまま死んだ。三人の子供に訊ねるとなぜか皆一様に苦笑した。

ンヌワガチ丹三郎(んぬわがちにさぶろう) 197? -

 洞穴レコード所属の黒人演歌歌手。会社の方針で経歴等は一切明らかにされていない。「ライオン狩りだよ人生は」で1998年にデビュー。独特のブルース調演歌で人気を得る。ヒット曲に「パガヒ族の義兄弟」「タンザニア道中」などがある。

アガサ斎藤教会

 斎藤アガサ(1958 -)が2001年に設立したキリスト教系新興宗教。三重県木曾岬市に本部教会がある。信者数108人(2003年)。斎藤は幼少期から熱心なプロテスタントであったが、18歳の時、啓示を受けて教祖となる。キリストは人類の原罪を一身に背負って磔となったが、人心の荒廃極まった現在、人々の罪を担う新たな身代わりが必要であるとして、2003年秋、十字架に掛けられたキリストを象った「磔饅頭」を売り出し、一部のキリスト教徒に問題視されている。

犬の法律

 匂いで記述されている。

食人規制法

 東南アジアの小国、バイセルジ王国に独自の法律。1963年に王宮議会が制定、国王が承認した。この時期、王国は西欧型近代化を進めていたが、古代よりの習慣である食人を急に全面的に禁止することは国民の反発と混乱を招くとして条件を付けて規制した法律で、驚いた事に規制は強化されながらも食人が全面的に禁止される事はなく現在に至っている。観光は現在の王国の主要産業の一つであるが、早朝ジョギングをする者は無制限に食べて良いという事になっているので旅行者は注意が必要である。

プクダ語

 野川良一の作り出したシリーズ第21作目の言語。ズノォクシュ語派の一分枝。名詞には一四二の格変化があったが、実際にこの言語を使ってみた所ほとんど機能しない事が確認されている。名詞には更に、男性・女性・中性の他、陰性・陽性、善性・悪性、寒性・暖性、動物性・植物性、積極性・消極性、サド性・マゾ性、饒舌性・沈黙性、大陸性・海洋性・臨海性、定住性・遊牧性、火性・水性・風性・土性、秩序性・無秩序性、構築性・破壊性、外宇宙性・内宇宙性、深刻性・滑稽性、可食性・不可食性、宗教性・経済性、空間性・時間性、独自性・模倣性、自由性・定型性、叙情性・叙事性、意識性・無意識性、堅牢性・軟弱性、栄養性・毒物性、洗練性・素朴性、進化性・退化性、抑制性・促進性、果物性・野菜性、上昇性・沈下性、主体性・客体性、残虐性・慈愛性、質問性・解答性、粒子性・連続性、記号性・事物性、装飾性・機能性、先天性・後天性、略奪性・贈与性の区別があった。これは確かめるまでもなく常人には使い分け不可能である。語彙は日本語に準ずるが日本語に置き換える事が不可能な独自の言葉が二、六一二ある。文法としては動詞が文頭に来る、ゲーリック語に似た非インド・ヨーロッパ語的なものだが、特徴として非常に多様な表情記号の使用
がある。書かれた文に表情などを付加する記号としては、欧文由来の「!」「?」、コンピュータネットワークで多用される顔文字などがあるが、この言語では実に二〇六の表情記号がある。「怨念を込めて」「ブルース調で」「だんだん早く」など読み方や感情、雰囲気を示す物がほとんどだが中には、「平方根」「凍結」「胎生」など意図の判らない物もある。この言語に最も特徴的なのは固有名詞で、「固有」という語義とは矛盾するが特定の事物を指し示す固有名詞という物は存在しない。話者がその都度その対象に仮の名を与えるのである。一時的な名なのでその時だけしか通用しない。これは目の前にある物について語る場合にはさして問題はないが、時間的空間的に離れている物について語っている時、話者がその名で何を指しているのか察する事は困難である。人名も同様であり、呼ばれているのが自分かどうかなかなか判らないという自体も出来する。
 野川の作った他の言語同様、この言語もどこかで定着するという事は全くなかった。野川は生涯におよそ一〇八の言語(分類方法によって異なる)を作ったが、建築事務所の経理であった野川がどのような目的でこれを作ったのかは判っていない。一種の現代芸術と考えるのが一般的である。

◆編集後記◆

 ここに掲載した文章は、パソコン通信ASAHIネットにおいて私が書き散らした文章、主に会議室(電子フォーラム)「滑稽堂本舗」と「創作空間・天樹の森」の2003年10月〜12月までを編集したものです。私の脳味噌を刺激し続けてくれた「滑稽堂本舗」および「創作空間・天樹の森」参加者の皆様に感謝いたします。

◆次号予告◆

2004年4月上旬発行予定。
別に楽しみにせんでもよい。

季刊カステラ・2003年秋の号
季刊カステラ・2004年春の号
『カブレ者』目次