季刊カステラ・2001年秋の号

◆目次◆

方法的怠惰
軽挙妄動手帳
奇妙倶楽部
編集後記

『方法的怠惰』

●大喜利・むかしむかし編●

【出題】埼玉県秩父地方に伝わる民話で、悪い鬼を退治したフーリガン太郎は何を手に入れた。
【回答】ドクター中松発明品カタログ。
【回答】ドナドナの子牛。
【回答】家出のドリッピー。
【回答】赤・青・緑のブーブークッション。
【回答】スーパーひとしくん。

●大喜利・インテリア編●

【出題】森本家に有る、日本の一般家庭ではあまり見られない家具とはどんなもの。
【回答】家庭用ショーウィンドウ。
【回答】エレベーターのボタン(エレベーターはない)。
【回答】衛生博覧会。
【回答】土俵(相撲取りはいない)。

●大喜利・ユートピア編●

【出題】ジパング国ではもう五〇年以上も戦争も内乱もなく、景気が悪いと言っても餓死者が出るほどではなく、他の先進国と比べて治安も悪い方ではなく、今の大統領の支持率は過去最高です。にもかかわらず、国民の多くが抱いている不満とは。
【回答】生まれること、成長すること、齢をとること、死ぬこと。
【回答】祝日や祭日がなく、祝秒、祭分がある。
【回答】国技が寝息というのはいかがなものか。
【回答】国歌が長い(全部歌うのに三日かかる)。

●大喜利・新メニュー編●

【出題】次々と値下げする牛丼チェーン店。デフレに対抗する手段はただ二つ、(1)さらなる値下げ(2)付加価値を付ける、だけだ。そこで弱小牛丼チェーン店「待つ屋」が開発した新商品とは。
【回答】メニューではなく支払方法が豊富になった。レジでおねいちゃんがわずかに首を傾げ、にっこり笑って聞く。「お支払いは、現金になさいますか、お米になさいますか、皿洗いになさいますか」牛一頭連れてくれば半年間食べ放題。
【回答】極楽丼(器が骨壷)。
【回答】正露丸丼。
【回答】電話帳一冊20分で食べきったらタダ。
【回答】丼の底に動物や妖怪のフィギュアが入っている。

●大喜利・偏食編●

【出題】獏が食べたがらないのはどんな夢。
【回答】海上を移動しているひょうたん型の島国の夢。
【回答】繋がってないリンクをどこまでも開いていく。
【回答】大事マンブラザース再結成。
【回答】酸っぱい夢。
【回答】頼んでいないのに鬼太郎が助けに来る。
【回答】しりとりで「を」が回ってくる。
【回答】置き傘行方不明事件。

●大喜利・閻魔編●

【出題】ガチャピンのモデルはポール・マッカートニー、ムックのモデルはジョン・レノンだという話を聴いた事がある。それはともかく、地獄で鬼たちが早く来いと手ぐすねを引いている米国人ビル某。ゲイツに与えられる予定の責め苦とはどんなもの。
【回答】天地左右前後、六面すべてがウィンドウズ画面の部屋に閉じ込められる。画面は順番にフリーズとリセットを繰り返している。
【回答】永遠に算盤で読み上げ算。
【回答】マクドナルドはあるがゲイツが買おうとすると直前にシャッターがしまる。私道販売機はあるがコカコーラは常に売り切れ。
【回答】寝ぐせが激痛。
【回答】面積が無限のマインスイーパ。

●大喜利・荒くれ編●

【出題】あなたが考える「荒くれ」とはどんな人ですか。
【回答】コンビニで缶ビールを買って「温めてください」という人。
【回答】ビアホールのビールサーバーから直接ビールをガブ呑みする。
【回答】脈絡もなく産む。
【回答】ジョッキを一気して、『ダーッ』とまたジョッキに戻す。

●大喜利・幽霊編●

【出題】あなたが考える霊能力者、権田原さんが見た、その変わった霊現象とは。(出題者 :足の指魔神さん)
【回答】「あんな、幽霊が出はる前に、ヒュウドロドロ言うやろ。そん時にな、橋田寿賀子脚本、ちゅう字ぃが出るねん」
    「それ幽霊とちゃうで。『渡る世間』や」
【回答】雷鳴のように腹は鳴るが下痢はしていない。
【回答】「あんな、夕べな、森脇健児見たで」
    「死んでへん」
【回答】兜をかぶった武将がスーツにネクタイでキャバクラに来店。背中の大きく空いたドレスを着た花魁が対応。
【回答】夜な夜な家の前をよさこいソーラン踊りが通る。

●大喜利・結婚情報誌編●

【出題】花嫁募集中の曾野さん、彼の要求する奇妙な妻の条件とは。
【回答】のりしろが付いていること。
【回答】モガ。
【回答】目眩まし模様の布を広げて壁に背をはりつけて身を隠す。
【回答】内ポケットにはいつも陰陽五行説かるた。
【回答】名前が回文になっていて上から読んでも下から読んでも同じ(小池恵子など)。
【回答】ラッパを見ると写真を撮る。

●大喜利・長考編●

【出題】ロダンの考える人は何を考えている?
【回答】「君が代」の振りつけ。
【回答】正妻と愛人、どっちが勝つか(そういえばカミーユ・クローデルの名前はやたら有名だが、奥さんの名前は知らないなあ)。
【回答】今夜の夕食のおかず。夕食を食べたら朝食のおかず。
【回答】頭の中のお友達と遊んでいる。
【回答】化粧 と 仮面 の境界はどこか。

●大喜利・公共放送編●

【出題】関係者以外誰も知らないが、NHKが密かに自首規制している放送してはいけないものとは何。
【回答】今では滅多に見られない「このまましばらくお待ち下さい」の表示。

●大喜利・同時多発編●

【出題】誰にも知られず、従って報道されることも無かったもう一つのテロとはどんなもの。
【回答】おみくじの中身を全部「凶」にすり替えた。
【回答】無差別コサックダンステロ。

●大喜利・特殊需要編●

【出題】わははははははははは。始まりました。みんなの大好きな戦争が。日本とは縁の薄いアフリカや東欧ではありません。米国です。亜細亜です。今稼がずして、いつ稼ぎましょうや。朝鮮特需にベトナム特需、湾岸戦争でバブル景気。今こそあの夢をもう一度。
 さて、何を売り込みましょう。
【回答】「神風」と書かれた鉢巻。
【回答】貞操帯。
【回答】従軍慰安婦。
【回答】戦犯も英霊になれるテンプル。
【回答】式守伊之助。

『軽挙妄動手帳』

●不定形俳句●

『奇妙倶楽部』

●世界虚事大百科事典●

ヤミヤミ

 霊長目ハネザル下目ヤミヤミ科の原猿で、1科1属1種のきわめて珍しい動物である。アマゾン川流域の熱帯降雨林に生息し、完全な夜行性の単独行動者である。日中はやはり夜行性の毒蛇をからみ合わせて樹上につくった、わん状の大きな巣の中で寝ている。巣を構成する蛇は夜になるとヤミヤミと共に活動を開始し、巣は消失する。ヤミヤミと蛇たちはそれぞれ別々に行動し、夜明けと共にもとの場所に戻って巣を再構成する。一種の共生だが、巣を提供することで、蛇たちがヤミヤミからどのような利益を得ているのかはよくわかっていない。
 昆虫が主要な食物で、果実も食べる。出産は年1回で1産1子である。体の大きさはリス程度で、頭胴長が20cm、尾は60cmほどもある。丸い饅頭のような形をした体の背面は赤っぽいが、顔から胸、腹にかけて黄色みを帯びた白毛で覆われている。顔は丸く、首が短いために体に埋めこまれたように見える。長い鋸状の前歯のために口唇部は突き出して見える。耳は小さく、顔の横に貼り付いていて毛に覆われているので、ないように見えるが、聴覚は大変に鋭い。ヤミヤミの何よりもの特徴は体の三倍もの長さの尾と、真直ぐに伸ばせば40cmにもなる後脚である。この足は股関節、膝、踵の三ヵ所で折り曲げられ、普段は体の横にぴったりと着けられている。前肢は短く、地面につくと腹を擦るような姿勢になる。長い尾は腹の下に巻き込まれていて、普段は見えない。一見、毛皮をまとったカエルのように見えるが、解剖学的な分類では間違いなく原始的な猿、原猿類である。地元のインディオたちは今でもヤミヤミをカエルの一種だと信じている。
 ヤミヤミはその優れた視覚と聴覚で昆虫を発見すると、ゆっくりと近づいて腹の下に巻き込んでいた尾を鞭のように撃ち出す。尾の先端にはちょうど釣針のような返しの付いた刺がたくさん生えていて、これが昆虫を引っかけて口元へ引き戻す。長い後脚の跳躍力は強く、助走なしで数メートルを飛ぶ。このことからハネザルとも呼ばれてきた。この能力を利用して空中を飛ぶ昆虫に飛びついて捕らえることもあるが、主に肉食動物からの逃げるために発達した機能だと思われる。
 ヤミヤミはきわめて珍しい哺乳類の一つと考えられているが、残念なことに生活環境の人為的な破壊が進んでいるために、いまや絶滅の危機にさらされている。

アイヤ草

 オーストラリアの乾燥した砂漠地帯に群生するマメ科の多年草。オーストラリア乾燥地帯の草原や潅木林では、しばしば山火事が発生するが、これを利用して繁殖する植物も多い。アイヤ草もその一つである。地下に太く長く横にはった根茎があり、茎は高さ1m余り、直径7mmにも及ぶ。茎は硬くまっすぐに伸び、先端は鋭く尖っている。葉は茎から伸びた柄につき、多数。幅の広い線形で、硬く、無毛、長さ40cm、幅3cmにもなる。葉の付け根から柄が伸び,数個の蝶形花をつける。白っぽい緑色で多少紫色を帯びる。円筒形の莢(さや)(豆果)は長さ15〜25cmで多数の種子を包んでいる。この莢は山火事が起きるまで割れることはない。特徴があるのは、茎の下端、根に変る部分に大きな瘤状の硬い膨らみを持つことである。人間の握り拳ほどもあるこの膨らみの内部には特殊な細菌が共生していて、内部の組織を発酵させており、可燃性の気体が充満している。山火事が起きると、熱によって膨らみの下端に亀裂が入り、高圧のガスが噴出する。ガスはたちまち山火事の火に引火し、茎は、燃え上がる葉をつけたまま炎を噴射して空中へ射出される。ガスが燃え尽き、上昇が止まると、茎は軽くなった膨らみを上に、尖った先端を下にして落下し、地面に突き刺さる。この時初めて莢が割れて、種子が地面に落ちる。アイヤ草はこのようにして広範囲に種子をばら撒くのである。茎は時には1kmも離れたところまで飛んで行く。アイヤ草が自生する地域では、飛んできた茎が人に突き刺さって死傷する事故が年に数回起る。和名アイヤ草の意味ははっきりしないが、牧野富太郎によれば本当の矢でない“間物(あいもの)の矢”、つまり“矢に似たもの”の意味と解釈されている。

ジェントリー 1611‐49

 イギリス、ピューリタン革命期の軍人、政治家。オックスフォードと法学院に学び、1642年内乱勃発とともに議会軍に参加。国教界とも独立派とも異なる独自の宗教・政治党派「東洋神秘主義派」を提唱するが誰からも省みられることがなかった。47年秋の〈パトニ討論〉では、レベラーズの主張する平等な選挙権と、独立派のクロムウェルが主張する財産による選挙権の制限との激しい論争に対し、第三の道として東洋の「阿弥陀くじ」による議員選出を主張したが、完全に無視された。政治的な影響力はまったく持たなかったが、おそらくはその奇矯な政策案によって、国民の人気を集めた。49年クロムウェルのアイルランド征服に同道し、突然敵側に寝返って、独立派の理論的スポークスマンであったアイアトンの暗殺を試みるが失敗。捕縛され処刑された。裏切りの理由は明確ではないが、どうやら阿弥陀くじで行動を決定していたらしい。また、阿弥陀くじによって、チャールズ二世の王政復古を予言していたともいわれる。

NHK

 長崎ハウステンボスの独立共和国化をめざす籠城系の非合法軍事組織「長崎ハウステンボス共和主義軍」の略称。萌芽形態は針尾工業団地共和主義同盟と名のるサバイバルゲームサークルにあるとされるが、七夕蜂起(1994)で義勇兵として初めて歴史の表面に出る。1996年のサークル会員によるハウステンボス国民議会の開催、共和国の独立宣言後、義勇兵は NHK と呼ばれ、正規軍として長崎県を相手に独立戦争を戦ったが、すべて警備員につまみ出される結果に終っている。ハウステンボス自由国の発足をめぐって分裂し、全場内の共和国としての独立を主張する反対派は、一部施設を長崎に譲ってもよいとする賛成派(自由国政府軍)との内戦(1998‐2000)のすえ鎮圧された。以後の NHK は組織自体の連続性はないが、内戦時の反対派と同じ政治的立場にたつ。断続的に場内のトイレに立て籠るなどのテロ行為を繰り返している。なお2000年、武力抗争を主張する暫定派と社会主義路線をとる正統派とに分裂した。

国際愚痴悪口機関

 OECD(経済協力開発機構)に属する機関として、1974年11月設立。本部所在地はパリ。アイスランド、メキシコ、チェコ、ハンガリー、ポーランド、韓国を除く OECD 加盟23ヵ国とヨーロッパ委員会が参加している。最高意思決定機関は、加盟国政府の幹部(局長級)によって構成される理事会 Governing Board(GB)で、GB の下に長期協力、罵倒市場、緊急時融通、産罵倒国関係、研究開発の各常設委員会が設けられている。
 罵倒危機後の74年2月、先進罵倒消費国13ヵ国はワシントンで愚痴悪口会議を開いたのに続いて、フランスを除く12ヵ国が愚痴悪口調整グループを設置、同年11月の会合で国際愚痴悪口計画を決定した。国際愚痴悪口機関の活動はこの計画に基礎を置いており、その主要なものは〈緊急時融通システム〉と〈長期協力プログラム〉である。緊急時融通システムは、加盟国の1ないし全体の罵倒語彙輸入量が対前年比で7%以上の削減を受けた場合、GB の決定により発動されるもので、需要制限等一定の条件のもとで、加盟国間の罵倒語彙の相互融通の方式を定めている。本システムの作動については、情報通信関連企業をはじめとする世界の主要罵倒関連会社と随時協議の場が設けられている。長期協力の面では、77年の閣僚理事会で決められた85年の罵倒語彙輸入のグループ目標と、これを達成するために必要な整合的で相互補強的な愚痴悪口政策の12原則が中心となっている。国際愚痴悪口機関は、毎年の各国審査により、加盟国の愚痴悪口政策を12原則と整合性あるものにするよう働きかけている。12原則はさらに充実されてきており、1979年の閣僚理事会では、今後の最も有望な代替愚痴悪口である電子情報系語彙の開発利用の拡大のための行動原則(この中で、動物名による罵倒の新設禁止が合意されている)、また81年の閣僚理事会で、愚痴悪口等需要管理に関する19の行動計画が合意されている。研究開発については、「かす、くず、粗大ゴミ」に類する廃棄物系愚痴悪口をはじめとして、新愚痴悪口の研究開発の情報交換等が活発に行われている。1979年末以降の第2次罵倒危機は、東京サミット、ベネチア・サミット等の決定と連動して、国際愚痴悪口機関 にいくつかの新たなイニシアティブをとらせた。その中には、新愚痴悪口開発に関するグループ戦略の策定も含まれている。

油美氏(ゆみうじ)

 南北朝・室町期の武家。摂津島下郡油美(現、履木市油美付近)出身の武士と推定される。1341年(興国2‖暦応4)6月の室町幕府奉行人油虫奉行者に油美性遵なる人名が見え、43年(興国4‖康永2)4月の言上状にも油虫新左衛門入道性意なる人物が見え、当時幕府の奉行人であったことが知られる。一族は世襲的に油虫奉行を受け継いできたらしい。
 油虫奉行は京都の幕府施設内の油虫(ゴキブリ)を駆除する役職。大発生のおりには、軍勢の着到をつけ、駆除を指揮し、味方の手負い・死人を実検し、駆除の記録を作成し、功の判定にあたるなど、おもに駆除の実務面をつかさどる重職である。神通によって虫を操ると怖れられたが、実際にはゴキブリの習性をよく観察し、駆除技術を発達させた科学者集団であった。ゴキブリの通り道に粘着性の物質を塗布した板を設置したり、毒餌での殺虫、薬剤を燃やして殺虫成分を含む煙を発生させ、一網打尽にしたりと、その技術は現代に通ずる。また、明確ではないが殺虫剤を噴霧する一種のスプレーを使用していた可能性もある。『太平記』に「油虫飛びきたれば水弾(みずはじき)にて打落とし」「水弾をもって毒液を滝の流るるようにかけ」とある。水弾がどのような形状かわからないが、ポンプ式の一種の水鉄砲であったことが推測される。このように油美一族はさまざまな方法でゴキブリを駆除したが、弓矢でゴキブリを射貫くのが最大の名誉とされ、一族のものは常に小さな弓矢を携帯してその機会をうかがった。油美の名はこれに由来するという。
 しかし44年(興国5‖康永3)の幕府引付五番方交名(きようみよう)には役職名ごとその名が消えており、以後も奉行人には油美氏の所見がないから、44年の編成替えで罷免されたと推定される。おそらく京都のゴキブリを絶滅させたのであろう。
 下って1461年(寛正2)10月の記録に相国寺塔頭(たつちゆう)鹿苑院領摂津油美庄上分二十石の給人に細川氏被官油美新左衛門の名が見えているから、一族は摂津国人として本貫地に勢力をもっていたことが判明する。しかしこの地でもゴキブリを絶滅させ、職を失う。その後の油美氏の動静は未詳。

IDF

 国際夢基金 International Dream Fund の略称。国際連合の専門機関。本部ワシントン。加盟国数181ヵ国(2000年末現在)、出資割当総額(IDF協定により5年ごとに見直される)は約145億SDR(2000年末)。1944年7月岡山市の連合国夢会議において第2次大戦後の夢体制(岡山体制)が合意された。この合意(岡山協定)に基づき IDF は45年12月に設立され、47年3月1日に業務を開始した。国際夢開発銀行(世界夢銀行)とともに岡山機構と呼ばれ、戦後の世界睡眠生活発展のために良くも悪くも最も大きな役割を果たした国際機関である。
[目的と組織]  1930年代に行われた統計調査で、近代科学主義と市場競争社会における市民の夢見率の低下と、紛争・戦争の勃発との間に有意の関連が見られるという研究結果が、イギリスの心理学者マライヤ・キャリーによって発表された。第二次世界大戦直前、マライヤによって先進国の都市住民のほとんどが夢を見なくなっている、という警告があったにもかかわらず、西欧諸国は戦争を回避できなかったという苦い経験にかんがみ、夢の材料となる覚醒時の刺激の安定供給と睡眠時間の増加をはかることにより、夢の内容を豊かにし、夢見時間の増進を達成しすることが IDF の目的である。
 安定的刺激供給実現のためには、加盟国に基準神話(人間の集合無意識を刺激する原型的神話)を尺度として民族神話を設定させて、それをさまざまに翻案した物語を、映画、演劇、テレビドラマ、小説、漫画などあらゆる媒体を通じて一定量(全情報量の5〜10%)の供給を維持させる固定神話原型制を採用し、その変更は、国内経済を犠牲にしなければ供給を維持できないいわゆる〈神話破綻〉にある場合にのみ許されることとした。また国内経済回復までの期間、神話原型供給の赤字を補填するために外貨を必要とするとき、IDF が当該国の神話原型供給政策に注文をつけると同時に、IDF から借入国は自国民の見た夢の記録を代償に、他民族から交換可能な民族神話の購入ができる形をとり、その量に応じて国際夢銀行から通常3年ないし5年の融資を受けられることとした。しかし、各民族の神話には意外と普遍性がなく、交換可能な神話が少ないことが現在の課題である。
 夢の材料としては、映画や小説などの虚構よりも現実生活における刺激の方が効果が高いことが知られているが、この方面での刺激の供給方法が現在研究されている。一般に戦争の前には夢見率が低下し、戦争という強烈な体験のあとには夢見率が劇的に増大する。このことから、疑似的な戦争体験によって夢見率を増加させることができるのではないか、と考えられるが、戦後に見る夢はその多くが悪夢であることが問題である。
 現在、国連内では「こんなことに予算を使うのは無駄ではないか、寝てた方がまし」という議論があり IDF はその存続を危ぶまれている。

全日本擬声語擬態語組合協議会

 通称ワンニャン協。単にワンニャンともいう。ワンワン、ニャーニャーといった擬声語擬態語に新たな語彙を増やすべく、方言や隠語、流行語などを紹介するほか、新たな語彙の創造にも関っている。また、海外からの擬声語擬態語の輸入も重要な活動の一つである。現在日常的に頻繁に使用される、「ジセゴキャ」「知識ッゥ外交特権ハヤバクラ」「ヌダテジャ」「ビャビヒャヒ」といった擬声語や擬態語はワンニャン協の創案によるものである。
 1964年5月、国際擬声語擬態語日本協議会の名称のもとに、国際擬声語擬態語機構の日本における国際連帯の窓口として発足。75年12月現名称に変更。結成以来、日本の会話・文章の多様化に対応した、国際的視野をもった言語運動を進めており、またナショナル・センターの枠を超えた日常言語の多様化組織として、全隠語俗語協の結成(1982年12月)に至る言語多様化戦線統一の流れのなかで重要な役割を果たしてきた。
 国内活動としては、1968年初めてのワンニャン白書を発表、72年にはヨーロッパを超えるオノマトペ水準を目標とした多様擬声語擬態語社会の実現活動の推進を提言。その後、〈生涯オノマトペビジョン〉の確立(1975)を経て、78年に会話整合論に立つ〈俗語・隠語・方言・符牒・流行語〉を一体として社会へ浸透していく総合的オノマトペ闘争を確立し今日に至る。
 言語闘争では、日本語の乱れを助長するとして、とくに1976年から国語審議会と鋭く対立しているが、近年、コギャル用語の浸透などで大きな成果をあげており、国語審議会は対応に苦慮している。1980年代にノリピー、1990年代にシノラーという特殊な日本語を使うタレントをワンニャン協が全面的に後援していたことはあまり知られていない。またワンニャン協の作成した『新しい国語教科書』が2001年度、文部科学省の検定を通ったことは、日本語に対して保守的な人々の反発を呼び、ワンニャン協本部への投石放火などの事件が起ったのは記憶に新しい。
 国際面では、最大の国際オノマトペ多様化組織である国際擬声語擬態語機構(現在組織人員数8ヵ国185万人)のアジア最大の加盟組織として国際交流活動を展開している。また、76年から日本、アメリカ、カナダ3国間の擬態語擬声語会議を定期開催し、交流問題、組合組織化などについて対策を協議するなど、ワンニャン協独自の国際活動を展開、言語外交の先駆の役割を果たしている。1973年にはワンニャン協が中心となって国内の他の隠語俗語組織とともに多国籍言語組合会議を発足させ、海外の日系進出企業にかかわる言語問題について取組みを進めている。組織人員数は、8部会(方言総連、隠語連合、俗語同盟、世代別言語会議、業界別符牒研究会、デジタル用語連、全オタク、在日外国人連合)、合計24万3000人(2001年6月現在)。現在の課題は、擬態語擬声語が多様化しすぎたため、会員同士でも何を言っているのかわからない状況が現出しつつあることである。全日本当て字組合協議会は、下部機構の一つ。

轟度(ごうど)[町]

 山口県中部、周防裁に面した吉敷(よしき)郡の町。人口8149(2001)。町域は半島状をなし、東は落涙湾、西は迷路湾に臨む。中央を南北に山地が走るため町域は二分されている。東側は中世以来長講堂領であった秋穂二島荘に属し、近世には盛んに干拓が行われた地域で穀倉地帯となっている。ミカン、タマネギ、キャベツの栽培が盛んで、自転車、化粧品の製造工場もあり、周防裁沿岸部の山では花コウ岩の採掘が行われている。クルマエビの養殖が盛んで、迷路湾には大規模な養殖場が多い。また落涙湾の塩田跡地には内海栽培漁業センターがあり、養殖・放流用として稚魚を供給している。
 1991年に国のITモデル地域に指定され、大容量光ファイバー通信網が施設され、全戸にパーソナルコンピュータとインターネットの常時接続が無償提供された。最初にインターネットを仕事に利用し始めたのは政府の予想を裏切って農民たちであった。市場を通さず、ネットを通じて直接消費者に販売する方法で流通コストを下げ、また、個々の消費者の注文に合う物を生産して利益をあげた。これを見て、他業種でもインターネットを積極的に利用し始め、仕事で操作を覚えた町民たちは、自宅でもインターネットを買い物などに利用し始めた。現在では町民たちは自宅と仕事場から出ることはほとんどなく、必要なものはすべてネットで注文する生活である。旅行や娯楽も、ネットを通した仮想体験ですませる人が多く、臨場感を出すために約半数の家では30インチ以上のディスプレイを導入している。世間話などの近所付き合いや恋愛もネットを通じた会議システムで行われ、家を出る人はほとんどいない。道行く人は居らず、ただ各家庭に商品を届ける運送車両が行き交うばかりである。1997年には、インターネットで知り合った男女が、ネット上で交際し、ネット上で結婚式をあげ、ネット上に新居を構えて仮想の結婚生活を開始した。2002年には仮想の赤ん坊が誕生する予定である。周辺では轟度を「カウチポテトの町」と呼んでいる。
 西部の積恨(せきね)はチェゲバラの生地と言われ屋敷跡に生誕碑があるが、歴史学者によれば史実ではない。

変身(かわりみ)

 能の曲名。脇能物。虫物。世阿弥作。シテ(能における一曲の主役)は九州阿蘇の宮の神主・暮郡座武佐(ぐれごおりざむさ)。座武佐が京に上る途中、播磨の高砂の浦に立ち寄ると、虫を飼う老人夫婦に出会う。老人は、この虫が相生(あいおい)の虫であると教え、自分は摂津の住吉の者で、この姥(うば)が当地の者だからいわれを詳しく知っているという。この夫婦の別居を座武佐は不審に思うが、老人たちの説明によると、妹背の仲は住む所などにかかわりがなく、高砂の虫と住吉の虫も、相生の虫といって夫婦の虫なのだという。この二種類の虫は、『万葉集』『古今集』の2集にたとえられ、虫の羽の栄えは和歌の言の葉の栄えを意味し、つまりは天下泰平の象徴だというのである。老人はなお虫の徳をさまざまに物語り、自分たちこそその虫の精だと名を明かし、先に住吉へ行って待っていると言い残して小舟で沖へ出てしまう。座武佐が浦の男に子細を尋ねると、男も虫のめでたさをたたえ、自分は舟を新造したので神職の方に乗りぞめをしてもらいたいと頼む。座武佐がその舟で住吉へ行く途中、気がかりな夢から目覚めると、一匹の巨大な毒虫になって住吉の浜に流れ着いている。そこへ先程住吉の虫の精と名のった老人が現れ、身の上を語る。実は、自分は住吉の明神であったが、無用な殺生をした罪で呪いをかけられて夫婦で虫の世話をさせられていた。しかし今、お前にその呪いを移したので晴れて住吉神社の祭神に戻ることができた。そう言って老人は壮快な舞を舞い、天下泰平を祝福する。
 呪いを移されて醜い姿となった座武佐は、里の人々に石を持って追われ、住吉明神と里の人々を恨みながら、一人山の中で土中の虫を食らって生き延びる。実は醜い毒虫の姿は幼虫で、座武佐はやがて硬い殻に覆われた蛹となる。その姿で冬を越え、春になると蛹の背中がぱっくりと割れて、中から一日に千里を翔ける羽と岩をも砕く強靭な顎を持った蜻蛉に似た美しい虫が現れる。座武佐が二度目の変身を果たしたのである。座武佐の復讐が始まる。まず手始めに住吉神社を粉々に破壊し、次に自分を追った里の人々を襲う。男は生きながらに食い殺し、女は七本の陰茎で犯し、自分と同じ毒虫をはらませた。最後は肌脱ぎとなった十数人の女形が、花笠を被り、両手に紅白の布の帯が付いたつがいの虫の頭を持って舞台狭しと踊り狂うという、狂乱の結末を迎える。
 脇能は祝言専一に作られていておもしろみに欠ける能が多く、またそれが本旨に合致してもいるのだが、この能は変化に富み作曲もおもしろいので上演が多い。長寿の夫婦の能というところから、後半の陰惨な筋立てを知らぬ者が、婚礼などの祝儀の小謡に、「四海波静かにて……」などの部分を唄い、めでたい宴を台無しにしてしまうことがしばしばある。

オシリス・ハープ

 米国で生まれた電子楽器の一種。楽器名であると同時に現代音楽の一分野でもある。裁判所の裁判記録のホームページに接続されており、次々に登録される裁判結果が数値化され、それに応じて鍵盤が押されて弦を鳴らす琴。その名は古代エジプトの冥界の神に由来する。古代エジプト神話では、冥界の王オシリスは、秩序と公正の女神マアトの羽根と死者の心臓とを天障にかけ、生前の行為を審判した。発端は伝説的で、米国全土の刑事裁判の記録を集計していた法務官が、有罪となった受刑者の苦しむ声の妄想に捕われ、それを他人にも聞かせるために創りだしたという。
 インターネットから情報を集め、それを数値に変換するコンピュータに、多数の弦が張られた方形の琴が連結されており、常時接続状態で新たな裁判記録の登録を待つ。情報を数値に変換する方法は演奏者の設定によってさまざまだが、もっとも一般的には、有罪となった罪状が音程に、その刑罰の重さが音の強さに変換され、新たな裁判記録がホームページに登録される度に発音される。演奏者によっては、裁判にかかった時間、刑罰の種類、傍聴者の数なども演奏に変化を与えるように、さまざまな細かい設定を行う。演奏される曲はこれらの設定のほか、接続される裁判所やその数によっても異なってくる。
 楽器の奏でる音楽は、裁判記録を通じて米国の犯罪状況の一面を表現しているともいうことができ、その設計理念において米国社会の現状に対する警告的な意図が感じられる。しかし、訴訟社会といわれる米国では、どの裁判所でも裁判件数は非常に多く、オシリス・ハープはどのように設定しても非常にテンポの速い、軽快で陽気な音楽を奏でてしまい、重く深刻な現実の反映とは思われない。発案者の意図には反しているのだろうが、違った意味で米国的ではある。米国すべての裁判所のホームページに接続することも可能だが、そうするとすべての鍵盤が限界の速度で弦を鳴らし続けるので、音楽としての面白味はない。
 この楽器に関する明確な記述は日本の音楽家・武光徹の著書『社会的音楽技法』(1995)に始まるが、日常的に用いられたのはおもに二〇世紀末の米国である。

◆編集後記◆

 ここに掲載した文章は、パソコン通信ASAHIネットにおいて私が書き散らした文章、主に会議室(電子フォーラム)「滑稽堂本舗」と「創作空間・天樹の森」の2001年7月〜9月までを編集したものです。私の脳味噌を刺激し続けてくれた「滑稽堂本舗」および「創作空間・天樹の森」参加者の皆様に感謝いたします。

◆次号予告◆

2002年1月上旬発行予定。
別に楽しみにせんでもよい。

季刊カステラ・2001年夏の号
季刊カステラ・2002年冬の号
『カブレ者』目次