スイス・イタリア語放送のオーケストラ

  最近、スイス・イタリア語放送の音源によるCDを輸入盤を扱っている店でよく見かけます。値段も安く、ついつい買っていると、20枚近くにもなってしまい、音の良さも手伝って、よく聞いております。
 中には、イヴォンヌ・ルフェブールのピアノ、フルトヴェングラー指揮のベルリン・フィルのモーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調なんていう、古くからメジャー・レーベルで定番となっている演奏も含まれていますが、大半は始めて耳にする録音で、クラウディオ・アラウやフリードリッヒ・グルダのピアノ・リサイタルやカール・リヒターのオルガン・コンサート、クナッパー
ツブッシュがミュンヘン・フィルを率いての演奏会のライブもなかなかいい音で聞けますし、ジュネーヴに住んでいたピエール・フルニエのチェロ・リサイタルやグリュミオーとハスキルのコンサート、バルビローリが手兵のハレ管を率いての演奏会ライブなどが、そこそこいい音で聞けるのですから、言うことなし!です。
 多くはアスコナ国際音楽週間のライブのようですが、ルガーノのクアザール・テアトロ・アポロやベリンツォーナ、ロカルノのサン・フランチェスコ教会の演奏会の模様もあるようで、アスコナの音楽祭を中心にティチーノ州での演奏会のライブ盤といったものですね。

 ちなみにアスコナ国際音楽週間は一九四六年の創設で毎年八月末から十月中旬まで開催されています。例年超一流の演奏家を招いてのコンサートが組まれ、ルツェルン音楽祭などと並ぶ大きな音楽祭と言えるでしょう。まぁ、ザルツブルクのように異常に大きく、華やかな社交の世界とは土台スケールも違いますがね。

 ところで、このCDのなかには、スイス・イタリア語放送管弦楽団の演奏も少なからず含まれていて、ヘルマン・シェルヘンが指揮してフルニエがチェロ独奏を担当したドヴォルザークのチェロ協奏曲などは、実に素晴らしいもので、正規盤の取り澄ました演奏とは違う、本番のノリの熱さで一気に聞かせるものですし、シューリヒト(当時スイス在住)が指揮してバックハウスがソロを担当したベートーヴェンの「皇帝」は、正規盤の全てを凌駕する超名演だと(多少のミスはあるのですがね)思います。ストコフスキー指揮でのチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット」やストラビンスキーの自作自演も貴重な演奏です。
 また、チェリビダッケの指揮したシューベルトの「未完成」とチャイコフスキーの組曲「胡桃割り人形」なども、その精緻な音色とバランス、よく歌うメロディーが印象的で、このオケはなかなかやるな、と思わせるに充分な演奏を聞かせます。

 また、国内盤が出たので、お聞きになった方も多いかも知れませんが、スイス、ヴィンタートゥーアのオーケストラの育ての親で現代音楽の神様、ヘルマン・シェルヘンの燃える闘魂といった感じのベートーヴェンの交響曲の全集などは、ついつい引き込まれてしまうような情熱に身を焦がす演奏とでも言いましょうか、それは壮絶なものであります。

 こういった演奏を聞いて、冷静にアンサンブルの細部の乱れを指摘することは簡単ですし、ソロの部分を聞いて、その演奏技術の未熟さを指摘することもまた可能です。
 しかしそれが何だというのか、といった爽快感は、さすがラテン系というべきでしょうか。

 冷静でちっとも面白くない演奏はとてもたくさんあります。最大公約数的安全運転と、音楽をどう伝えたいのかさっぱりわからない事なかれ主義の平凡さが、音楽を停滞させ、聞く者をやりきれなくさせてしまいます。
 このオケのライブ盤の特徴は、音楽の生命力に溢れていることにつきるようです。


 このスイスイタリア語放送管弦楽団は、1933年開局のスイス・イタリア語放送の所属オーケストラとして30名程度の小規模なオーケストラとしてめ1968年までの間、イタリアの指揮者でレオポルド・カセッラ、オトマール・ヌッツォが首席指揮者として活躍。更に、シェルヘンやシューリヒト、ストラヴィンスキー、サヴァリッシュといった客演を迎えて演奏活動をしていました。ヌッツォの演奏はエルミタージュからも出ています。1969年から1990年まで、マルク・アンドレーエが率い、多くの現代音楽を紹介したことも忘れられないことです。FMで海外のライブ等の紹介で時々聞かれた方も多いのではないでしょうか。アンサンブルが妙に生々しいのは、この編成が普通のオーケストラよりも少々小さいためであると思われます。
 
また、
1937年からは、レーラーが合唱団も組織し、バロック音楽から現代音楽までの幅広いレパートリーを披露し、たくさんのレコーディングを残しました。彼は1981年までの約半世紀の間、ルガーノを中心に大いに活躍したのであります。