ローザンヌ室内管弦楽団

 レマン湖に面した美しい町、ローザンヌ。湖に続く坂の町ローザンヌは、モーツァルトも一七六六年に立ち寄り演奏もしているそうですし、リスト(一八三六年ダグー夫人と)もメンデルスゾーン(一八四二年演奏旅行)も来ており、その風光を愛したそうです。
 以前も触れましたが、パリ・コミューンの騒乱を避けてフォーレもその青年時代を、ここで過ごしています。スクリャビンも訪れているそうです。

 また、近年はあのモーリス・ベジャールが一九八七年に、ベルギーからここローザンヌに本拠地を移して以降、バレエの世界でも大きな意味を持つ土地となっています。
 ローザンヌ音楽院では、戦後ここを本拠地とした名ピアニストのアルフレッド・コルトーやヴラド・ペルルミュテール、声楽家のパンセラといった教授陣により、バーゼル、ジュネーヴ、チューリッヒ、ベルンといった音楽院とともに、一二〇〇名あまりの生徒をかかえる スイス有数の音楽学校に発展して来ています。
 ここの近郊のメジエールのジュラ劇場の為にオネゲルがいくつもの傑作を作曲し、ローザンヌ市立歌劇場では、一九一八年に、スイスの詩人ラミュの台本にストラヴィンスキーが作曲した、今世紀の傑作のひとつ「兵士の物語」が初演されています。

 このように、多くの音楽家に愛されたこの土地には、また優れた室内オーケストラがあります。
 ローザンヌ室内管弦楽団は一九四〇年に、スイス・ロマンド放送の為の弦楽アンサンブルとして創設されました。創設者はスイスの指揮者、ヴィクトル・デザルザンでした。
 一九四二年に最初の公開演奏を行いその後、急成長を遂げたこの楽団は、ヨーロッパ各地に演奏に出かけ、高い評価を受けています。多くはデザルザンと出かけていますが、客演の指揮者のフリッチャイやエルネスト・ブール、アンセルメ、クリュイタンス、ギュンター・ヴァント(この近くに住んでいます)、ロヴィツキ、アッカーマン、マタチッチといった大指揮者が客演し、このオーケストラの演奏水準を上げています。

 随分前に、マタチッチがローザンヌ室内管を振ったハイドンなどのCDがデンオンから出たことがありますが、しっかりとした演奏でした。

 デザルザンの指揮ではモーツァルトのポストホルン・セレナーデと、セレナータ・ノットゥルナK.239の演奏がMCAから出ていて、実にノーブルな、落ち着いた演奏で、好感を持ちました。
 また、晩年のティボーと共演したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲などは、全く期待しないままに聞き始めて、そのしっかりとしたアンサンブルに驚嘆したこともあります。

 一九七〇年代に入って、アルミン・ジョルダンが、デザルザンの後を継いだ一九七四年以降、ピリスと共演したモーツァルトの二〇番のピアノ協奏曲の名演などで、このオーケストラは、更に注目を集めるようになりました。
 更にロスアンジェルス生まれの指揮者、ローレンス・フォスターが、一九八五年に音楽監督兼主席指揮者に就いて、スイス・クラヴェース・レーベルに録音された多くが高い評価を受けることで、その名声も徐々に国際的にも認められるようになってきたのです。
 フォスターが指揮した、エネスコの室内交響曲やラフのピアノ協奏曲の録音は、実に生気に溢れ、室内管弦楽団としては、近現代の作品も積極的に取り上げるスイス屈指の楽団に成長を遂げたのです。

 現在はスペインの名指揮者、ヘスス・ロペス・コボスが一九九〇年以来、その地位について、活動をしています。

 こういったオーケストラは、日本で言えば水戸室内管弦楽団や、アンサンブル金沢のような存在であると言えます。編成が小さい為に、レパートリーに一定の制約があるとはいうものの、単なるバロックの音楽専門団体というわけでなく、色々なレパートリーにチャレンジする、実にアクティブなグループとして、今も活動していることは、とても素晴らしいことではないでしょうか?

 スイス・ロマンドには、もう一つ、素晴らしいオーケストラがあるということを、皆さんにも知って頂きたいと思います。