その時はまだ気が付かなかったのですが、ここはあのピアノの巨人、フランツ・リストが「ワーレンシュタットの湖で」という曲に描いたところだったのです。
帰国して調べると、その昔、辻村伊助という人が大正の時代にここを旅して書いた「スイス日記」に記述があることを知りました。彼はサン・モリッツからチューリッヒに向かう途中、私のようにうとうとしていて、それこそ「目が覚めるような」光景を私と同じように見ています。
ところで、フランツ・リストのこの作品は「巡礼の年第1年"スイス"」としてまとめられた曲集です。第1曲が「ウィリアム・テルの聖堂」で2曲目が「ワーレンシュタットの湖で」。他にアッペンツェル地方の羊飼いの歌を基にした「田園曲」「牧歌」などや「ジュネーブの鐘-夜曲」なども含まれています。
曲は左手の伴奏が舟の魯の動きを表わし、ゆったりと続くメロディーは、どことなく世間を超越している穏やかさが支配しています。この時、リストはダグー伯爵夫人との逃避行の最中でした。
遥かに年の離れた夫の元から、若い22才のリストと28才の夫人はスイスに来ていました。ダグー伯爵夫人はこの曲を涙なくしては聞けなかったと、後年語っていますが、どうであれ、二人の恋の逃避行はワーレン湖畔をも駆け抜け、リストは次の恋へと移り、結局は実ることはなかったのです。
この曲を思い出しながら、昔の恋路を追ってみてはいかがでしょうか。 |
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