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南部トラットリアの掟

<1997年> エピソード

アルベロベッロ

トラットリアって何だ

トラットリア(Trattoria)というのは、食堂と訳されることもある庶民的なレストランのこと。
もっとも、看板を見るとRistrante,Trattoria,Osteria,Pizzeriaと、ありったけの飲食店を意味する単語が並べられていることが多い。「うどん、そば、定食」とか「スナック、喫茶、軽食」とかいうのと同じ。看板だけでは実態が判断できない。
安い店を見分ける方法は一つ。店の中を覗いてみて、テーブルやイスが貧相で、客の服装が貧乏そうならそれがトラットリアだ。
開店時間は、昼はやけに短く、夜は遅くに始まる(午後8時あたりから始まる)。

気合いで注文すべし

プーリアのトラットリアでは、基本的にメニューはない。ないわけじゃないのだが、ちゃんと頼まないと出てこない。出てきたところで、メニューに書いてないメニューがあって、メニューに書いてあっても作れないメニューがある。あまり意味がない。
最初は、私もこの事態に大変慌てた。しかし、冷静になって考えてみると、メニューがあったところで状況は同じはずなのである。イタリア語が読めなければメニューがないのと同じこと。庶民的な店では、どのみち英語メニューなんか用意されていないのだから。
この状況も、開き直ってしまえばかえって楽だ。意味不明の文字列を何度も読み直し、どれにしたものかと苦吟するよりは、最初から何も読むものがない方がマシ。無駄な努力をしなくて済む。どうせ最後には成り行き任せになるのだし。

日本で言うと、ちょうど寿司屋のカウンターに座っている感じ。飲み物どうしましょう。今日は○○のいいのが入ったんですが、刺身でどうです。そろそろ、にぎりにしますか。そんなやり取りで食事が進行し、頼みもしないのに吸い物が出てきたりする。メニューも値段表もないが、それなりに流れと順序があるのが寿司屋の掟。プーリアのトラットリアも、それと同じノリであることを理解すればよし。
おそらく、ご請求の方も、同じ注文でも客によって値段が違う寿司屋方式だと思う。

メニューを持って来ないような店では、それなりのコースというものが考えられているらしい。あまり言葉が通じない外国人相手の場合、最小限度の質問をしておおまかな希望を聞き、適当にコースというか定食を出しているようだ。日本にいたってお任せメニューで済ませるわけだし、考えようによっては楽。慣れてくると、メニューを渡されると面倒に思えてくる。

無条件降伏による注文

一応、定食は、前菜、パスタ、メイン、デザートというフルコースが基本。
その段階ごとに、最低限のコミュニケーションがとれれば何とか食事ができる。たぶん、希望を言えば、一部省略も可能なはず。しかし、希望をうまく伝えられない私は、ただひたすら成り行きに任せることにしている。トラットリアでは、無条件降伏が最上の作戦と考えている。そのため、旅行に出ると、かなりデブになって帰ってくることになる。

店主 "Da bere? Vino rosso o bianco?"(飲み物は? ワインは赤か白かどっち)
 "Rosso"(赤)
店主 "Carne o pesce ?"(肉か魚か?)
 "Pesce"(魚)

たったこんだけのやり取りだけで、前菜からデザートまでフルで食わされたことがある。この店のおっさんは、いったん奥さんが盛りつけたデザートの皿を取り上げて、思いっきり山盛りにしてくれた。何やらコースとは関係ない料理も出てきたし、いくら請求されるのだろうかと冷や汗をかかされた。でも、全部で2万3千リラ(1700円弱程度)だった。
私の理解では、安い店は有無も言わさず料理を持ってくる傾向が強く、高い店ほきちんと注文や希望を聞いてから持ってくる。
だいたい、97〜98年の相場で、トラットリアの定食は飲み物込みで3万リラ(2200円程度)。バーリくらいの大都市の中心部に行くと、高めの3万5千リラ。安いか高いかは人によって受け止め方が違うと思うが、私にとっては何が出てくるかわからんスリルも味わえて楽しく、満足できる値段だ。
概して、プーリアの料理は安くておいしい。また、ガイジン観光客が大挙してやってくる地域でないため、地元の人相手の良心的な店が多い。

家族構成を理解すべし

トラットリアの場合、家族的経営による店がほとんど。家族以外の従業員というものがおらず、幼い子どもたちもが動員されている。
日本と違うのは、男と女の役割分担が逆なこと。男が給仕役で、女が料理をつくる。イタリア料理は家庭料理の延長にあるものだと言われるが、トラットリアではまさにその家の母親が料理をつくる。おふくろの味方式なのである。

給仕役は、店の幼い息子たちも担当する。店の中でボール遊びをしながら、ときどき客の注文を店主に伝えたり、飲み物を持ってきたりする。邪魔してるのか、サービスしてるのかわからないのだが、たぶん、そういう日常の中で仕事を覚えるのだろう。
なお、この手のガキどもには、日本の使い済みテレフォンカードを配ると喜ばれる。
娘の方は、テレビを観ながら店のテーブルで宿題をやっていたりする。ノートやら教科書がテーブルの上に載せられているが、勉強している気配はあまりないから気にする必要はなし。大きくなると、厨房で母親の手伝い。従って、年頃の娘の姿を見ることはほとんどなし。残念ながら、看板娘という概念はないらしい。