FAQ:qa3047 派遣先の指示で担当業務が増えたのに時給を上げてくれない

updated Dec. 9 2000 　派遣１１０番によく寄せられる質問と回答例(ＦＡＱ)

　質　問　と　回　答　例　（Ｆ　Ａ　Ｑ）

3047.　派遣先の指示で担当業務が増えたのに時給を上げてくれない

ある派遣会社に登録をし、派遣先の情報関連部門で約２年間、働きました。当初は庶務ということでパソコンを使った事務を担当しました。１年ほど過ぎた頃、派遣先の部長に「ホームページ更新の仕事をしてみないか」と言われ、私も興味があったのでやってみることにしました。当初は、簡単な編集作業が主だったのですが、今年５月からはバナーやデザインを伴うようなページ作成までするようになりました。ホームページ作成についての知識は独学で習得しました。
　このことを派遣元に報告し、「庶務として派遣されたが、今ではホームページのデザイナー的な仕事をしているのに、時給は同じなのか？」と相談しましたが派遣元は知らぬふりです。今ではホームページ作成のヘルプデスクまでしています。ＯＡ操作って、こんなに幅広く仕事をしなくてはいけないのでしょうか？

　担当業務が、「庶務という事でパソコンを使った事務」と文書（労働契約、就業条件明示書）に記載されているということですね。

　労働者派遣の法律関係は、三者関係になっていますので、この基本にそって当事者の関係を整理して下さい。それぞれの文書とその記載内容を正確に確認して下さい。

　以下、派遣元をＡ、派遣先をＢ、派遣労働者をＷとして説明します。
　まず、この三者の間には、下記の内容の文書が存在しなければなりません。
　　　○労働契約（雇用契約）〔Ａ←－→Ｗ〕
　　　◎就業条件明示書〔Ａ→Ｗ〕
　　　　モデル就業条件明示書については以下のホームページ参照
　　　　　http://www.asahi-net.or.jp/‾RB1S-WKT/modelsh.htm
　　　●就業規則〔Ａ〕
　　　◇労働者派遣契約〔Ａ←－→Ｂ〕

　この図の通り、派遣の三面関係では文書での業務内容や労働条件の明確化が必要です。

　派遣先Ｂからの指示とのことですが、派遣の三面関係ではＡとＷの間の合意が必要となります。
　業務内容の変更を定める手続きについて、順序が違うということだと思います。
　派遣先Ｂからの業務の変更（ないし追加）の話があったとき、派遣元が了解すること、できれば賃金をアップするなどの合意が派遣元・派遣先の間に必要だと思います。
　派遣先と派遣労働者が直接に業務変更での合意をしたことから行き違いが生じたということだと思います。
　現場の労働者としては派遣先の指示を断りにくいと思いますが、この点を曖昧にしたためにトラブルがよく生じています。

問題の視点が、派遣元と派遣労働者でまったく違いますので、ＯＡ操作の範囲を問題にしても水かけ論になります。法的にはＯＡ操作の範囲を超えているのは明らかです。しかし、だからと言って、それを根拠に他の業務分に合わせて待遇を変えるには、現在の仕組みでは派遣元が合意することが必要です。
　派遣先と派遣労働者の間での「合意」は、現在の労働者派遣法では効力を認められません。派遣元・派遣先の合意→派遣元・派遣労働者の間の合意が必要です。この手順を飛ばして、派遣先・派遣労働者の「合意」を、派遣元に押しつけることは労働者派遣法の趣旨に反することになります。

　実際には、派遣元Ａが形骸的な存在であり、派遣先Ｂと派遣労働者Ｗの間の関係が実体的ですが、労働者派遣法は、派遣元Ａと派遣労働者Ｗの間の契約が基本であるという建て前です。この建て前を否定することは中々難しいことです。
　以前の相談例では、まったく同様な事例で、ＷがＡに賃金アップを請求したら、Ａから、労働契約、就業条件明示書で合意した業務とは異なる業務を担当したことを逆に責められることになりました。本来の就業条件明示書で定めた業務以外の業務を勝手に担当したのは、Ａ－Ｗの労働契約に違反している、というのがＡの言い分でした。
　Ａの側の言い分は、Ｗが勝手にＢからの指示に従ったために、ＡからＢに派遣料金引き上げを交渉する機会を失ったというものです。Ａとしては、Ｗの賃金を引き上げたいが、その経済的な根拠となる派遣料金の引き上げを改めて派遣先と交渉しなければならない。それはかなり難しいというものです。

　そうしますと、派遣労働者としての対応は法的にはなかなか困難です。
　考えられるのは、
　①派遣先に事情を伝え、本来の庶務にのみ担当業務を縮減し、追加業務の担当を労働者として拒否する
　②その結果、派遣元・派遣先で話し合いをしてもらい、希望通りの待遇改善があれば、①で拒否した業務を再開する。

　というのが、一番、労働者派遣法の建て前にそった解決になると考えます。
　実際には、①については、派遣元Ａをとばして、ＢとＷの間の「合意」があり、Ｂは、Ａに支払う派遣料金をそのままで、Ａ－Ｂ間の約束以上の労働をＷから受け取って来たのですので、新たな負担をいやがると思います。簡単には②に進まないかも知れません。更新拒否や派遣の打切りなどの危険も考えられます。
　もっとも、ＡがＢからＯＡ操作以上の専門業務に対応する派遣料金がＷには内緒で支払われているといった事情があれば、Ａに追加業務分の賃金アップを話し合いで請求する根拠が出てくると思います。

　正社員であれば、賃金支払義務者と業務指示者が同一ですので、ご相談のような問題は生じにくいのですが、派遣の場合には、三面関係であるために、ご相談のようなトラブルが少なくありません。上で述べましたが、この点をよく理解して、業務内容についてはしっかりと派遣元との文書で確認し、派遣先からの指示について問題があれば、簡単には引き受けず、派遣元を通して交渉してもらい、その機会に賃金引き上げなどの約束を派遣元との間で文書で確認することが必要だと思います。

　本来は、派遣先が最大のメリットを得ているのですから、本格的な態勢をとって地域労働組合に相談し、派遣元や派遣先に団体交渉を申し入れて派遣料金の引き上げを獲得するという強い手段を選択することもできます。

3047. 派遣先の指示で担当業務が増えたのに時給を上げてくれない

3047.　派遣先の指示で担当業務が増えたのに時給を上げてくれない