updated Feb. 1 1999


【紹介】最近、読んだ本、送っていただいた本 労働・派遣関係

(労働・派遣関係)

辻村一郎・川上雅詮編『学校がよみがえる労働安全衛生』文理閣、1800円、1998年

〔京都民報1999年1月17日付に掲載した書評〕「学校の教職員に何故これほどまでに過労死が多いのか!」新聞記事や裁判例を通じて真面目で熱心な先生方が過労死で倒れた事例に接する度に悲憤の思いを繰り返してきた。多くの民間の職場と同様に、むしろ、それ以上に学校現場で「いのちと健康」を無視した働きぶりが明らかになってきた。
 本書は、四人の専門家が、教職員が生きいき働き続けられる学校を取り戻すための労働安全衛生活動の具体的な考え方と進め方について問題提起をしている。全体的な活動の進め方(辻村)とともに、過労死事件に取り組んできた弁護士(佐藤)、教職員の健康実態を詳しく調査した労働衛生学者(垰田)、労働安全衛生闘争を先進的に進めてきた全港湾(中山)の立場からの問題提起はそれぞれに説得的である。
 教職員の労働(=教育活動)は、子どもたち次の世代に多くの価値を伝える点で特別な意義を持っている。「いのちと健康」は人間にとって最高の価値であり、憲法が保障する人権の基礎の基礎である。「教え子を二度と戦場に送らない」という原点に立ち戻り、「教え子を過労死が蔓延する職場に企業戦士として送り出さない」ためにも、学校と教職員が自らの「いのちと健康」問題に取り組むべきである。さらに、学校を取り巻く社会全体が本書の鋭い提起を受け止めなければならない。

ILO条約の批准を進める会編『国際労働基準で日本を変える−ILO活用ガイドブック』大月書店、1998年

〔労働運動1999年1月号に掲載した書評〕 日本では当然のように思われている労働慣行でも国際常識に反するもの少なくない。
 すでに世界にも知られている過労死、単身赴任、長時間労働だけではない。雇用形態・性別・思想信条による異常な差別は、実態を知った外国人を大いに驚かせる。さらに、公務員の労働基本権剥奪、企業別労組、企業規模による労働条件格差、未組織に拡張適用されない労働協約、使用者による就業規則の一方的作成など、日本の職場慣行の多くは国際的にも例がない。
 日本の様々な労働分野で権利闘争を真剣に展開していったところ、期せずしてILOに行き着くことになった。本書は、ILO(国際労働機関)活用の意義を知らせ、その方法を明らかにしようとする労働者、法律家による集団労作である。ILOの役割と意義を知った感動と、それを多くの人に伝えたい、そしてILO条約・勧告の普及によって日本の労働社会を変革しようとする意気込みにあふれている。本書を通読すれば、日本が国際常識から見て「労働法後進国」であることを改めて痛感させられる。
 第二次大戦直後に形成された日本の労働法を根底から改悪する動きとは裏腹にILOは、「労働は商品ではない」という憲章の精神を踏まえて、結社の自由、多くの分野での労働基準向上、各種差別の禁止、社会保障の充実などについて、各国での適用を前提に一八〇を超える条約、それを補充する勧告を採択し、活発な活動を展開している。
 無批判な規制緩和論が洪水のように流され、政府・労働省は経営側の要求に応じて、労働基準法をはじめ労働法制改悪を急ピッチで進めている。最近の法改悪で導入されることになった「新裁量労働制」は世界にも類をみない労働時間規制を否定する制度である。八〇年前に採択された第一号条約をはじめ労働時間関連のILO条約を一つも批准できない日本が労働時間規制を緩和する方向を進めている。
 同等待遇を求めるパート条約が採択される前年に名目だけの「パート労働法」を制定するなど、政府は逆にILOを大いに意識し日本特殊論で国際批判をかわそうとしている。
 本年のILO総会は「職場における基本的原則及び権利に関する宣言」を採択した。すべての加盟国が、諸条約の批准の有無に関係なく、(1)結社の自由、団体交渉権、(2)強制労働の廃止、(3)児童労働の廃止、(4)雇用・職業における差別の排除の四基本原則・権利を尊重、実行する責任があるとしている。
 いまこそILO条約の批准を進める取り組みが、労働者の権利闘争において大きな課題と位置づけられるべきである。本書は、労働組合の中心メンバーだけでなく、労働者の雇用確保と権利向上を願うすべての人にとって必読の本である。


片岡昇『自立と連帯の労働法入門−働く人びとの権利読本−』法律文化社、1997年7月
規制緩和の流れのなかで、労働者の権利が危うくなっている。労働法は、従来、集団的労働関係法を中心に論じられてきた。著者である片岡先生は、私の恩師である。その労働法の体系書では、従来、集団的労働関係に大きなスペースが割かれていた。本書は、体系書ではないが、個々の労働者の権利を中心に論じておられる。大きな時代の流れを感じさせる。しかし、表題の「連帯」という言葉には、個々の労働者を尊重する労働組合の新たな方向が示されているとも解される。

自由法曹団『婦人少年問題審議会の女子保護規定撤廃の「建議」とこれにもとづく「法案要綱」に対する批判意見書』1997年1月
女子保護規定の撤廃法案についての批判意見書(1.われわれの見解と問題の所在、2.女子保護規定廃止の致命的な誤り、3.実効性ある均等法改正、4.「規制緩和」と労働法制の全面的改悪は労働者・国民の利益に反する)。均等法改正との「不可分一体」のセット提案の動きについての批判の補足も。

【表紙画像 CLICK HERE】ニューヨークタイムズ編 矢作弘訳『ダウンサイジング オブ アメリカ』1996年11月
副題が「大量失業に引き裂かれる社会」である。労働法制の全面的改悪が進められている日本の財界や政府がモデルとしているアメリカの雇用と社会の現実をこれほど鋭く伝える書物はない。ニューヨークタイムズの1996年3月の特集記事を一冊の書物に編集したものである。研究者の間では、すでにこの記事が大きな話題になっていたし、私も日本への規制緩和の影響を考える一つの手がかりとしていた。研究者だけでなく、一般の人にも是非読んでほしい。労働法の規制緩和を主張する人はまず、このアメリカの現実をどうみるかを示す必要があるだろう。

自由法曹団『婦人少年問題審議会の女子保護規定撤廃の「建議」とこれにもとづく「法案要綱」に対する批判意見書』1997年1月
女子保護規定の撤廃法案についての批判意見書(1.われわれの見解と問題の所在、2.女子保護規定廃止の致命的な誤り、3.実効性ある均等法改正、4.「規制緩和」と労働法制の全面的改悪は労働者・国民の利益に反する)。均等法改正との「不可分一体」のセット提案の動きについての批判の補足も。

航空労組連絡会『民間航空の現状分析と航空労働者からの提言』航空労組連絡会、4000円
規制緩和が進む航空産業。大阪でも全日空関連OASをめぐって親会社責任や職業安定法違反の問題が生じている。労働法制の規制緩和とあいまって労働者の権利や航空の安全が無視されていることを明らかにする。

【表紙画像 CLICK HERE】三和銀行闘争支援共闘会議『三和はん 処分も差別もやめなはれ!! −三和銀行を相手に闘う19人の銀行員たち−』、1997年1月
11年間で143名の在職死。すさまじいまでの数字が三和銀行の職場の実態を雄弁に物語る。日本の銀行の体質が国際的に大問題になっている。閉鎖的な銀行のなかで労働者の権利無視が行われていることに驚く。従業員の命と人間の尊厳を軽視するような銀行が勤労する預金者の利益を守ろうとするのだろうか?

東京電力差別撤廃闘争支援共闘会議中央連絡会議他『きりひらこうあしたを 東京電力と19年2カ月 写真でみるたたかいの歩み』、1996年12月
世界最大の民間電力会社でまかり通ってきた思想差別。長〜い裁判の結果、ようやく憲法や労働基準法の精神が確認された。不屈のたたかいの記録。思想差別、性別差別から雇用形態の差別までの不当な差別扱いに対するたたかいを大きく励ます記録集。この力を不安定雇用や中小・零細企業の物さえ言えぬ労働者たちの権利擁護へ拡げたい。

『職場の禁煙・分煙を考える−大阪・職場の分煙訴訟記録−』「大阪・職場の分煙訴訟」記録出版委員会発行、1000円
勝利的和解を勝取った大阪市で働く西田一さんの職場での分煙訴訟の記録。タバコが、嫌いな人やアトピーの人に大きな迷惑を及ぼすことを改めて痛感させられる。助手の時代に書いた「嫌煙権私論」は、「タバコを吸うことは自由だが、吐くことは自由ではない。他人に迷惑をかけないように、全部飲みこむべきだ。」という単純明快な論理。理屈にとどまった私とは違って、実際に権利を実現した西田さんに敬意を表したい。

島田信義監修勤労者通信大学編『最新版 労働者の権利と労働法』学習の友社、1996年9月、2500円
労働者の学習活動のテキストとして定評のあった旧版を大幅に改訂した最新のテキスト。労働法を初めて学ぶときのテキストとして何を推薦すればよいか迷うことが少なくない。この本は、法学部の学生のテキストというよりも、社会で働く人にとって分りやすい。労働組合の積極的な役割を重視し、労働協約や国家機関を活用するたたかいまで解説する。このテキストをしっかりと勉強した労働組合の活動家が増えて、権利闘争を実践すれば、日本でも労働法が再生するだろう。

全労連編『1997 国民春闘白書 新しい時代をきりひらく97国民春闘へ』学習の友社、1996年12月、1200円
労働者・労働組合にとってきびしい時代が来ている。日経連をはじめ経営者団体の春闘を否定する議論が目立っている。雇用破壊、賃金破壊、時間破壊が加速している。こうしたなかで、生活と雇用を守るための労働者の連帯した闘いとしての春闘のもつ意味は逆にきわめて大きい。そのための課題と論理を示している。

『「裁量労働制」資料集 1993〜1995 出版・民放における動きを中心に』日本出版労働組合連合会(tel03-3816-2911)1996年7月
講談社経営者から「裁量労働制」導入の提案があったのが1993年。1988年の労働基準法改正で、出版や民放では裁量労働導入に道が開かれた。いまや経営者団体は、ホワイトカラー全体へ導入を提言している。この資料集は、職場実態との関連で裁量労働の問題点を浮び上がらせ、机上の論理だけで考える危険性を痛感させる。

大脇雅子・中野麻実・林陽子『働く女たちの裁判』学陽書房、1996年7月、2800円
最近20年間の女性にかかわる労働判例を網羅的に集めたもの。かなり以前に赤松良子編の類書があったが、女性労働者の権利確立の視点、とくに、労働法の理解にとっての試金石ともいえる、差別された不公正な雇用形態への批判の視点が明確である。

岩出誠・藤倉眞編『働く人のための法律相談』青林書院、1996年3月、4100円
第一線で活躍する弁護士が、個別的労働関係から集団的労働関係までの法律問題80問に応えるQ&A。リストラ時代を反映した内容となっている。派遣110番の回答のため参考に使っている。

【表紙画像 CLICK HERE】管理職ユニオン『たたかう会社員 〔職場いじめ〕完全撃退マニュアル』自由国民社、1996年12月、1400円
110番や相談活動を通じて、管理職ユニオンが取り組んでいる職場のいじめ対策の総集版。巻末の相談先などの資料も有益。

坂本修・坂本福子『格闘としての裁判 労働弁護士のノートから』大月書店、1996年1月、2800円
 労働裁判の実践について、現在直面している問題点を含め、豊富な経験に基づいて、人権擁護の視点から、一気に読ませるベストセラー。労働弁護士を目指して法学部に進んだ私には、青年時代の熱い気持ちを想起させる書物。イタリアの代表的労働弁護士アッレーバ氏(ボローニャ大学教授)に会ったとき、その風貌まで著者によく似ていて感動したのを思い出す。

長淵満男『オーストラリア労働法の基軸と展開』信山社、1996年2月、7000円
 オーストラリア労働法の研究で第一人者である著者が、この10年間に著した論文をまとめた単行書。イタリアと同様に、労働組合たたきが強いなかで、それをはねのける労働組合運動が存在するオーストラリア。労働者権を擁護するためには、労働者の団結の役割の大きさを改めて痛感させる。研究者だけでなく、労働組合の再生をねがう多くの人々に読んでほしい。

本多淳亮『企業社会と労働者』大阪経済法科大学出版部、1996年4月、1960円
 新たな雇用構造について法社会学的なアプローチを含めて、変化する労使関係と規制緩和を中心に鋭く究明している。パートタイマー、男女差別、外国人労働者など、正規従業員の労働契約に固執する伝統的な労働法の解釈論が色あせるような鋭い問題が現実に生じていることを提起する。次の菅野教授とは対照的な議論。多くを学べる最近の著作。

菅野和夫『雇用社会の法』有斐閣、1996年3月、3296円
 雇用・労使関係の実際のシステムを正面から視野に入れ、それらシステムのなかに法を位置づけて、法の機能の問題を論じようとする。著者の指摘のとおり、「わが国雇用社会の中核をなす長期雇用システムと労働法の関係を追求するもの」となっている。私のように、派遣労働者やパートタイマーに注目する視点とはある意味で正反対の視点。近々、雑誌に書評を掲載する予定。

伊藤博義『雇用形態の多様化と労働法 企業活動の自由と労働者の権利』信山社、1996年3月、11,330円
 著者の長年にわたる労働法の研究論文をもとに、まとめられた表題の単行書。重厚な研究スタイルによる、現実をしっかりと踏まえた鋭い論理だけでなく、問題意識がつねに労働者の権利保障に向けられており、その結果、出稼ぎ労働者、労働者保護に欠ける雇用形態、とくに派遣労働者や外国人労働者の問題に目を向けている。大作ではあるが、ぜひ多くの人に広く読んでほしい書物。

生田勝義・大河純夫編『法の構造変化と人間の権利』法律文化社、1996年6月、3090円
 立命館大学人文研究所の総合研究の研究成果として刊行。同大学法学部のスタッフの書き下ろし。変化する社会における、法律学や政治学の新たな動向や課題が凝縮して示されており、きわめて興味深い。とくに、第6章 労働関係の再編と労働者の権利保障(吉田美喜夫教授執筆)では、私の前記著作も引用されている。

川口和子、坂本福子、笹沼熈子『私たちのめざす平等への道 均等法の10年と改正要求』、1996年6月、900円
 均等法10年後の見直しが行われているなか、その不備を現実の中から鋭く指摘する。女性保護の撤廃なども論議されているなか、問題を正確に指摘する。

宮地光子『平等への女たちの挑戦 均等法時代と女性の働く権利』明石書店、1996年7月、2060円
 民法協で活躍の女性弁護士の著者が、男女雇用機会均等法の10年を女性の権利の立場から、かかわってきた豊富な事例を通じて、明らかにする。労働省サイドの視点とは違って、現実に迫力をもってアプローチしている。前記『がんばってよかった』も、しっかり引用されている。一読というより、何度も読み返すことになる本。

国鉄労働組合編『国鉄労働組合50年史』労働旬報社、1996年7月、15,000円
 日本の労働組合の代表的な存在である、国鉄労働組合。1986年の40年史から、この10年間の変動は余りにも激しかった。50年史は、この10年間の動きを思い返させる。「20年−30年もストライキをしない日本の組合は、労働組合といえるのか」というイタリア人研究者からの鋭い質問に、国労の例を出して「日本にも労働組合らしい組合はある」と答えた。615頁に私の名前。(^^)

田尾雅夫・吉川肇子・高木浩人『コンピュータ化の経営管理』白桃書房、1996年6月、3,300円
新聞社がCTSによる新聞制作を開始する前からの地道な調査などを基に、コンピュータによる技術革新とは、どのような問題を提起し、解決したか、できなかったのかを究明している。コンピュータが労働に与える影響をアカデミックに追究する。

グループがんばれKBS編『よみがえれKBS京都 放送の灯を消さないで−再生への二千日』つむぎ出版(Tel 075-252-1788)、1996年8月、1860円
昔、「近畿放送」と呼ばれ、唯一回、私がニュース解説に登場したKBS。大学合格を聞いたのもこの京都の放送局。私自身にとってもなじみのあるKBSが、経営陣や財界の黒い渦のなかで倒産しかかった。市民の支援。労働組合が中心になった、前代未聞の会社更正法申請。KBS労組、民放労連、そして弁護士の大活躍。暑い夏の夜、一気に読み切らせる迫力。こんなに面白い、ドキュメントを最近知らない。


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