home主人敬白応接間ことばイラスト秘密部屋記帳所
「秘密の部屋」目次へ


2ページ目へ 4ページ目へ

妙正寺川

 哲学堂公園を流れる妙正寺川。
 中野区の南部を神田川が、北を妙正寺川が貫通している。神田川はともかく、妙正寺川の名を最近まで知らなかったことに我ながら驚く。この川の源流は杉並区にある同名の寺で、小さな公園になっている。

 このしつこい方向感覚の狂いを直すためにはどうすればいいのでしょうか?

 僕は、自分の行動半径がせまいのがいけないのだと考えました。もう少し中野区内を、いや、区外までこの足を使って出かけて行き、それぞれの方向に延びている道が、どの街に続いているかということを直接見届ければ、誤った方向感覚は直るのではないでしょうか。

 僕の頭では、実際には池袋のある方向(北側)が、渋谷や世田谷のある方向(南側)だと思われて仕方がありませんでした。それならば、実際に歩いてみて、本当にそこに池袋があるか、それとも渋谷があるか、確かめてみようじゃないか。

 そう思い立って、ある日僕は北へ(無意識レベルとしては南へ)向かいました。地図に間違いがなければ、やがて新青梅街道へ出て、そこから目白通りを通ってJR目白駅を通過、さらに明治通りを北上すれば池袋に出るはずです。

 このルートの全長はけっこうな距離になります。6〜7キロメートルといったところでしょうか。体力のない僕ではありますが、歩きながら周りの風景を見るのは楽しく、汗だくになりながらも、いつしか気がつくと、JR池袋駅に到達していました。これで、僕が間違いなく北へ向かっていたということが証明されました。




野方給水塔

 野方給水塔。
 哲学堂の北側にある。イスラム教の寺院かと思っていたら、給水塔だった。今は使われていないらしい。壁面に落書きがあるのは何とかしてほしい。

 同じように、JR中央線に沿って西に歩いて行けば高円寺、阿佐谷、荻窪、西荻窪、吉祥寺に到達しましたし、東に歩いて行けば新宿、四谷、半蔵門、靖国神社、秋葉原に行き着きました。

 ふだんなら、こういう場所には電車や地下鉄で行くため、駅と駅との途中の街並みがどうなっているのか、それまではさっぱり関心を抱くことがありませんでした。長年東京に住んでいても、鉄道の駅から駅へ――点から点へ移動しているにすぎず、街の全体像を知る機会はほとんどなかったのでした。

 自分の足で歩いてみると、池袋や新宿、渋谷、さらには青山、麻布、芝、銀座、日本橋といった街々が、わが中野と地続きだったということを発見しました。そんなことは当たり前のことですが、電車や地下鉄に乗り、車内でずっと本を読んでいるといった生活では、中野と銀座の間が仮に海で隔てられていようが、次元が異なっていようが、ほとんど注意を払わないのです。

 電車を使わずに、自分の足だけでいろいろなところへ行けるのが分かると、歩くのが面白くなってきます。五反田から中野まで12〜13キロの道のりを徒歩で帰ってきたときは、さすがにあごを出しましたが、気分は爽快でした。

 地図もよく読むようになり、意外なところに驚くべき貴重な建造物や、きれいな公園があることに気づきました。恥ずかしいことですが、ごく最近まで僕は、明治神宮・新宿御苑・神宮外苑・赤坂御所の区別さえ、はっきりしなかったのです。よく歩くようになってはじめて、東京にはこういう広大な公園がいくつもあるということを知りました。


2ページ目へ 4ページ目へ


「秘密の部屋」目次へ

HOME主人敬白応接間ことばイラスト秘密部屋記帳所

email:
Copyright(C) Yeemar 2002. All rights reserved.
著作権・リンクなどについて