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おおっ  さて、当日。約束通り、3人でボウリング場に行きました。
 ゆうべ、『ボウリング入門』で読んだことを忠実に実行しようと僕は決意しました。あの本のまえがきかどこかに、「ボウリングは奥は深いが、基本に忠実にやれば、どんどんうまくなるはずです」というようなことが書いてあった。一夜で「どんどん」はうまくならないにしても、せめてスコア0点などの最悪の事態は避けたいものだ。

 同行の2人に、不格好なフォームを笑われながら、それでも『ボウリング入門』の記述に沿うように心がけて球をころがしました。
 それが、意想外によくピンに当たるのです。いやもう、おもしろいほど当たる。今となっては記憶もおぼろですが、ストライクも何度も出したのではなかったでしょうか。
 笑っていた彼らも、だんだん真顔になってきました。

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 結局、ゲームが終わってみると、なんと僕は1位に輝き、2人の驚きを誘ったのでした。
 「まあ、これはビギナーズ・ラックだな」
 と、自分では謙遜したものの、思いがけぬ番狂わせで、予定調和は乱れ、そこはかとなく気まずい雰囲気。せっかく優勝したのに、あまり称讃のことばはもらえませんでした。
 むしろ、僕以外の2人の間には、敗北者としての同朋意識が芽生え、結束を固くしたように見えました。
 もともと、僕は大敗を避けるために『ボウリング入門』を読んだのであって、彼らを叩きのめすために練習したのではありませんでした。しかし、期待した以上の好結果。そのわりには恵まれない優勝者。
 「ボウリングって、まあこんなもんか」
 ゲームを通じて心の中に生じつつあったボウリングへの興味は、急速に薄れ、この日のことは忘却の彼方に去ってしまいました。

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金町ボウリング場  歳月は流れ、ふたたび現在の金町のボウリング場。
 10フレーム1試合が終わったところで、僕は66点しか取れていませんでした。66というのは相当にひどい点で、期末テストなら赤点といったところです。
 僕たちは、ふた手に分かれて試合をしていました。敵方との差は2倍ほどに開いていて、どうやら僕だけが味方の足を引っ張っている様相です。
 「もう1試合やるか。負けたほうが、ゲーム代を払うことにしようじゃないか」
 勝ちの見えている敵方のメンバーは、にこにこしながら、そんなことを言っています。

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