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電話  僕は友人の意図を測りかねました。ボウリング? なんで突然ボウリング?
 運動神経の鈍さについては自信がある。そしてそれは公知のことだ。それと知って誘うとは、野郎、女子学生の前で僕に恥をかかせるつもりだな。つまりは、僕を彼の引き立て役にしようというわけだろう。
 友人にそんなつもりはなかったと今では思いますが、その時はそう受け取った。それでも、彼からの誘いを断るわけにはゆきません。男たるもの、どの舌で
 「ボウリングは苦手だから、君と彼女と2人で行ってくれたまえ」
 なんてことが言えましょうか。

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本を読んで修業  否も応もなく、僕はボウリングへの誘いを受けました。しかし、どうする、約束は明日なのだ。ひそかにレッスンに通う余裕もない。みすみす恥をかきに行くことになるのか。

 ここは、書物に助けを求めるしかありませんでした。本というものは不思議な力があります。今回も、何か解決策を提示してくれるはずだと思われました。
 僕の部屋には、だれにもらったか『ボウリング入門』なる新書本がありました。今はこの本だけが命綱。第1ページ目から、なめるように活字を追って行きました。
 筆者のいうとおりに、投球フォームをまねてみる。「ボールは図のような軌跡を描いてころがるので……」なんて記述があると、目を閉じてそのイメージを思い浮かべてみる。その実、僕はボールもピンも、本物を見たことすらないのでした。

 これでは「畳の上の水練」ならぬ「畳の上のボウリング」です。でも、畳の上だろうが何だろうが、今はやらねばならぬ。タイムリミットは近い!

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