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ストライク  第2ゲームが始まりました。相手チームは、さっそく快調に飛ばしています。こちら側は、相変わらずもうひとつ振るわない出来です。
 「このまま低い成績のままで終わって、味方に迷惑をかけるのはいやだな」
 そう考えていた僕の脳裡に、突然、あの10年以上前に読んだ『ボウリング入門』の文章がフラッシュバックしました。
 「基本に忠実に……基本に忠実に……」
 忘れていたあの感覚。僕の体は何者かにぐいと押されるようにして前へ出ました。自分のものではない力によって、右腕がしなやかに回転すると同時に、球が猛烈な速さで転がり出ました。
 「ストライク」
 一同から湧き出る歓声。
 「素晴らしい。その調子だ。この分だと逆転できるかもしれんぞ」
 味方チームの主将が叫びました。

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 それからの僕は――自分で言うのも何ですが――人が変わったようでした。第2ゲームは1度のスペアと4回のストライクを出し、135点を取りました。
 しかも、ストライクのうち3回は連続で、いわゆる「ターキー」でした。
 「ターキーってのはねえ、なかなか取れるもんじゃないよ。運動神経のないお前らしくない。ほんとうに初心者なのか?」
 みんな目を丸くしている。ちょっと経験したことのない気分の良さです。

 第2ゲームは、結局わが方の勝ちとなりました。
 「きょうのヒーローは疑いなく君だな。脱帽のほかはない」
 素直な驚きと讃美の混じったことばを口々にもらって、僕は得意の絶頂でした。

 これが、その日のスコアです。

score
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