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ボウリングを投げる  「お前、ボウリングはできるの?」
 「はははは。できるも何も」
 「そう緊張することはない。べつだん難しいことではないよ。球をころがすだけだから。まあやってみ」
 諭すようにそう言われて、僕は適当に選んで持ってきた重い球を、腕のばねを利かせてレーンにころがしてみました。球は勢いよく転がっていったと思いきや、中央から大きくそれて、側溝に落ち込みました。
 「ああ無念。ガーターだ」
 どうも幸先が悪い。僕は結局、2回続けてガーターを出してしまいました。友人たちは「こいつを誘うんじゃなかった」という顔をしています。

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 早くもみじめな気持ちになりつつも、僕は奇妙な既視感を感じていました。
 ――待てよ、おれって、今までボウリングをしたことがなかったっけ。
 そんな経験はないはずでした。でも、この球の重みには何だかはるかななつかしさを覚えるのでした。

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Dボウリング場  ――いや、ある。あれはもう十何年以上も昔の話だ……
 ボウリング場内のあちこちから響いてくる球とピンとの激突音が、抑圧されていた記憶を呼び覚ます。僕は学生時代、友人に1度だけボウリングに誘われたことがあったのでした。

 それはある夏の夜にかかってきた電話が発端でした。その友人は特にスポーツ好きというふうでもありませんでしたが、めずらしく「明日、ボウリングに行かないか」と言うのです。
 彼のほかにもう1人連れてくるとのことでした。それは、共通の友人である女子学生でした。

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