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99.05.24

ナミダ形のマル

 最近、学生の書いた文字を見る機会が多いです。いわゆる「長体ヘタウマ文字」(「文字のスナップ」のこの画像参照)はあいかわらず使われているようですね。単にヘタなだけのような気もしますが、まあいいか。
 それをつくづく見ていて気づいたのですが、マル(句点)の書き方がおかしい女子学生が多い。いわば「涙形」とでも言いましょうか。たてに長くて、水滴の絵のように書いています。
 これは、昔から長体ヘタウマ文字の流儀だったのかどうかしりません。ただ、ちょっと見ると「泣き」を表現しているように見えるのですね。文を読んでいると、なんでこの人はこうしょっちゅう泣いているのかと思うのですが、どうやらマルのつもりらしいと気づきました。
 この涙形のマルの書き方は、人によって微妙に違い、楕円を左から起筆する人と、上から起筆する人とあるようです。しかし、感じとしては上からの起筆が多いのではないかと思います。
 元来、マルはどこから起筆するものだったのか。とりあえず手元の実用書を見てみると、左から筆を起こしているようです。僕自身もそうです。
 句読点の源流については、杉本つとむ氏によれば「寛永初期〜中期の間」に「古活字本から整版本への移行によって、句読点の出現をみた」ということらしいですが(『杉本つとむ著作選集5』)、西鶴などの版本では起筆位置が分かりにくいです。性格はやや異なりますが、元禄ごろの浄瑠璃譜本「曽根崎心中」のマルをみると、まず左起筆で「つ」のような形を書いて、下に「一」を引いて円を完成させるような感じです。
 左から書くやり方だと、たてに長い楕円のマルは生まれにくいのではないでしょうか。てっぺんから起筆する人が多くなった結果、だんだん涙形が出てきたのではないかと想像しています。
 かつて勢力を誇った「丸字」(変体少女文字)ではどうだったのだろうと思い、山根一眞『変体少女文字の研究』(講談社 1986)をひもといてみました。丸字は、横長の楕円を基本形とした文字ですから、当然句点のマルも横長です。起筆位置は、ちょっと一概には言えないようですが、下から書いたり左から書いたり、上から書いたりしている。しかし、丸字の時代は、どちらかというと上から起筆するのは少数派だったのではないでしょうか。あくまで印象にすぎませんが。

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