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99.05.15

国語の防衛

 最近の新聞から、ヨーロッパにおける国語防衛の記事を2つ書きとめておきます。

 一つはフランス。ヨーロッパ11カ国の単一通貨ユーロがこの1月から導入されましたが、フランスで「この十一カ国を総称して『ユーロランド』と呼ぶのはおかしい、とフランス語のお目付け役、アカデミー・フランセーズがかみついた」(「朝日新聞」1999.01.11 p.7)
 記事を要約すると、「ランド(land)」という英国流の表記が気にいらないということらしい。「フィガロ」紙などが反対、「ディズニーランドみたいで嫌だ」とか、Hollande(オランダ)と同様に「語尾にeをつけてフランス語風にしては」という議論が巻き起こった由。
 結局、アカデミー・フランセーズが「ゾーン・ユーロ」(ユーロ圏)とすべきだと宣言したのだそうです。つまり「zone euro」となるのでしょう。
 フランスは国語の防衛意識がえらく高い国で、日本語では何の気なしに英語にしてしまっているようなことばでも、固有語を使っています。コンピュータは「ordinateur」、ビデオは「magne´toscope」といったように。
 このあたり、フランス語学習者にはメンドクサイところで、意地を張らずにどんどん外来語を取り入れてくださいよ、と思うのですが、それは身勝手か。

 もう一つは、スペインの自治州カタルーニャ。公用語であるカタルーニャ語の普及・防衛に努める州当局が、政令を出して、州内で上映する外国映画の半数をカタルーニャ語に吹き替えるよう義務づけることになったといいます(「朝日新聞」1999.03.09)
 カタルーニャでは1998年に「新言語法」が出され、今回の政令もそれに基づいているそうです。これにはディズニーなどが反対、州内の配給数を抑えることも匂わせているとのこと。
 カタルーニャは、フランコ独裁政権下で言語を奪われました。その反動もあって、州政府の国語保護政策は前から徹底していたとききます。他地域から移入したエミグラトスと呼ばれる人々にまでカタルーニャ語を強制したため、移入者らはスペイン語を話す権利を主張して争っていた(いる)んだそうです(「朝日新聞」夕刊〈カタロニアで言語戦争激化〉 1995.07.12 p.7)
 ひるがえって、日本で上映される映画を考えると、吹き替えなんてまったくされてない。そんなことをしなくても、日本語の勢力が衰えるという不安がないからでしょう。

 一種の強制力をもって、使用言語・使用語彙までを定める国の話をきくと、日本の国語審議会などはまだ可愛いと思う。審議会が「ら抜きことばはいけない」なんて叫んでも、だれも聞いてくれないのだから。

 (おまけ)
 昨日の「朝日新聞」〈ちまたの言葉〉(1999.05.14 p.19)で、えのきどいちろう氏が「……は」で始まる言い方を指摘していました。

 「は、只今{ただいま}、席をはずしてます」
 主語省略である。日本語はそもそも主語のあいまいな言語だと指摘されているが、それにしてもこれは横着だろう。状況を説明すると僕は凸凹出版の奈良原次郎さん(仮名)に電話をかけたんである。
 「いつもお世話になっています、あのー、奈良原さんはいらっしゃいますか」
 そうしたら冒頭の主語省略が来た。奈良原ぐらい省略しないでいいじゃないかと思う。奈良原が言えないくらい忙しいのか。いや、これは先日、実際にあった話である。

 僕が前に書いた「...wa, naidesune」という、「は(ワ)」で言い始める語法のことだ。えのきど氏の文章をみると「ha, tadaima...」としか読めないので、読者の多くは何のことか分からないのでは、と老婆心が起こります。
 主語省略だからえのきど氏の注意を引いたのではなく、「...wa」で始まっているから耳にとまったんだろうと思います。論点がちょっとおかしい。僕はといえば、この「...wa」は、前の発言全体を受けることができるもので、助詞「は」ならではの高級芸当だと思い、高く評価しています。

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