99.05.14
のむヨーグルト
「のむヨーグルト」という飲み物が気になっています。べつに味がどうのというのではなく、ことばの面で。
これは商品名でもあるけれど、登録商標ではないようです。ちょっと近所のコンビニエンスストアで確かめただけでも、明治乳業、雪印乳業、(株)エルビーなど、各社がてんでに「のむヨーグルト」という名称を使っています。
何が気になるかというと、「これ、全部で1単語なんだろうか」ということです。もちろん商品名だから1語ともいえるけれど、それならば「出雲のからだにうるおうアルカリ天然水」(株式会社ケイ・エフ・ジー)なんて長いシロモノも1単語なのだろうか、というわけで、ちょっとすっきりしません。そもそも、1単語とは何か? ということを、考えてしまいます。
なぜか、この手の「ナントカするナントカ」といった命名は乳製品に多いらしく、チーズにも
雪印 北海道生乳100%使用
さけるナチュラルチーズ ストリングチーズ(雪印乳業)
カマンベール入り
切れてるチーズ(森永乳業)
雪印 New
とろける
ナチュラルチーズ (雪印乳業)
などとあります。
ある料理の作り方の文章では「インゲンをとろけるチーズで巻き、さらに豚肉で巻く」などとごくふつうに使われていましたが、これは普通名詞として使われているのでしょう。「とろける|チーズ」と分けたくなる人もいるかもしれませんが、固定化してしまえば、「とろけるチーズ」で1単語とみても間違いはないでしょう。
「とろけるチーズ」が1単語なら、「遊んでばかりいる少年」や「すぐ怒る母親」も1単語になりはしないか。前者と後者の差はどこにあるのか? それとも、大した差はないのか?
こういうときに懐かしく感じられるのは、松下大三郎(1878-1935)の説です。
彼は「花」「月」だけが名詞ではなくて、「春の花」や「秋の月」も、「花」や「月」と〈文法的価値〉が同じなので、やはり一つの名詞だと考えました。
松下にかかると、「腕時計」も名詞だし、また、
「私が先年銀座の服部時計店で買って、爾来毎日持って歩いて一日も使わないことの無い、一度も狂ったことの無い、そうして私の職務に取って非常に必要な、非常に大切な、此の腕時計」(『改撰標準日本文法』 p.196)
という長い長いことばも名詞ということになります。
どうも松下は「単語」と「連語」の差をそれほど重視していないようだ。ことばとことばがくっついて、もっと大きなことばに成長していく、その間に質的な差はないというとらえ方でしょう。日本語の性質をよく言い当てているように思います。
(00.02.28 一部修訂)
追記 江国香織『落下する夕方』(1996.11発表、角川文庫 1999.06.25 p.114)に次のように出てきました。
「あー、のどがかわいた」
華子は冷蔵庫からのむヨーグルトをだし、コップになみなみとつぐ。
ここでは、「のむヨーグルト」も普通名詞として使われています。さあ、1単語か2単語か?(2000.07.11)
●この文章は、大幅に加筆訂正して拙著『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波アクティブ新書 2003.06)に収録しました。そちらもどうぞご覧ください。
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