99.05.13
葉菖蒲
新聞の整理をしていたら、「同じ部首で揃っている熟語」がいくつか見つかったので、書きつけておきます。
これは、前にも特集したことがあって、その後も細々と追加しているものです。最近、新しい例が見つからず、滞っていました。まずは、新聞投書欄から。
庭の片隅に二年前植えた葉菖蒲{しょうぶ}。これを見ると幼いころを思い出す。〔教員 西野紀子(神奈川県 52歳)〕(「朝日新聞」声欄 1999.05.03 p.5)
これは草かんむり。
葉菖蒲は、よく知らないのですが、ふつうの菖蒲のことでしょう。いたずらな少女だった投書者に、あるとき母が「かごに入っていた葉菖蒲の長めの物を一本抜き、「元気な頭の良い子になーれ」と言いながら、それを頭に巻いてくれた。」とあります。
「葉菖蒲」を辞書で調べても出てこず、代わりに「芭蕉葉」(ばしょうば=芭蕉の葉)という、これも部首のそろったことばが見つかりました。
次に、この3月、国籍不明の不審船が日本の領海に侵入した事件で見つけた例。
能登半島沖で発見された二隻の不審船が逃走した事件で政府は二十五日、不審船はいずれも朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)北部の「清津{チョンジン}港」に入港したことを確認した。複数の政府関係者が明らかにした。(「朝日新聞」1999.03.26 p.2)
「清津港」はさんずい。どうも、このように日本の安全に関わるようなニュースでも、僕の興味はまずことばに行ってしまうようで、よくありませんな。
最後に、これはちょっと苦しい例ですが。
出席者からは「一九九五年に村山富市首相が出した歴史認識談話など、自民党が失ったものも大いにある」(板垣正参議院議員)と否定的な声も出たが、〔後略〕(「朝日新聞」1998.05.30 p.7)
日本の戦争責任に関するいわゆる「村山談話」のこと。「歴史認識談話」とすると、ごんべんで4文字がいっぺんにそろいます。
まったく、何の得にもならないコレクションです。数が集まっても、だれかが何かと引き替えてくれるわけじゃなし。
▼関連文章=「魑魅魍魎」
追記 得にはならないけれども、その後もいくつか見つけました。
【3字連続】
・「偶像化された肖像」(和田誠『似顔絵物語』白水社 1998.12.25 p.187)
・「人類の低俗化に拍車をかけた」(土屋賢二『棚から哲学』文藝春秋 2000.02.20 p.140)
・「満濃池」(香川県満濃町)
・「吐[口+葛]喇{とから}列島」(鹿児島県南部)
・「柳模様(ウイローパターン)というお皿の写真」(高島俊男『せがれの凋落 お言葉ですが…(三)』 1999.01.30 p.144)
【4字連続】
・「慚愧懺悔{ざんぎさんげ}をも仕り候はば」(猫のさうし・『御伽草子(下)』岩波文庫 p.115)
・「[石+車][石+渠]碼碯{しやこめなう}にて上葺{うはぶき}し」(蛤の草紙・『御伽草子(下)』岩波文庫 p.28)
・「北条時政(ら)が奸佞なる臓腑肺肝を探{さぐ}りいだして」(坪内逍遥『小説神髄』岩波文庫 p.166)
・「涕涙滂沱{ぼうだ}たり」(夏目漱石「『トリストラム、シャンデー』」1897.03.05発表、『漱石全集 第十三巻』 p.72)
・「鉄銭銅銭{てつせんどうせん}入{い}れ交{まぜ}て」(仮名垣魯文『安愚楽鍋』弐編下 岩波文庫 p.70)
【熟語の一部分が連続】
・「一般船舶や軍艦、ヨットなど」(「朝日新聞」2001.02.11 p.3)
・「欠落感の代償作用」(「AERA」2000.04.17 p.16)
・「特許訴訟」(「週刊朝日」2000.08.18-25 p.109)
・「紐緒結奈」(テレビゲーム「ときめきメモリアル」の登場人物。コナミ(株)1994.05発売)
また集まればご報告します。(2001.08.12)
追記2 さらに追加します。「熟語の一部分が連続」しているのは、コレクションとしての価値が低いと見て、以後省略します。
【3字連続】
・「波浮港」(東京都・伊豆大島)
・「広範に張り巡らせた組織網」(「サンデー毎日」2001.10.07 p.36)
・「淡黄褐色{おうかっしょく}のやや混濁液」(松本清張『砂の器(上)』〔1961.07発表〕新潮文庫 1990.05. 53刷改版 p.19)
【4字連続】
・「虚空陰リ塞ガリテ雷電霹靂シテ大雨降ヌ」(日本古典文学大系『今昔物語集一』p.351。その他同作品に多数、他に「日本書紀」などにも散見)
・「柔らかな筋肉の繊維組織だけが」(筒井康隆『虚人たち』中央公論社 1981 p.87)
・「漂白剤や洗浄溶液で」(「週刊朝日」2001.11.02 p.29)
・茉莉花茶 ジャスミン茶のことですね。太巻美緒さんが教えてくださったところによれば、「薔薇茉莉花茶(バラジャスミンチャ)」なるお茶もあるとのこと。ウェブで検索すると、現在ではまだ一商品名であるようですが、6字連続の例で、今のところ、部首連続の例としてはこれが最長記録です。あるホームページには「花茶 薔薇茉莉花茶」と記されており、間の空白を無視すれば、実に8字連続ということになります。(2003.02.16)
●この文章は、大幅に加筆訂正して拙著『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波アクティブ新書 2003.06)に収録しました。そちらもどうぞご覧ください。
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