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98.11.15

『広辞苑』の「は」

 岩波書店の『広辞苑』第5版が1998.11.11に発売されました。僕もさっそく買ってきました。新語がだいぶ増えたのはもちろんとして、「ひゅうひゅう」(強い風が継続して吹き抜けるときに出る摩擦音)など、今まで載っていなかったのがむしろ不思議な、普通のことばも新しく収録しているようです。
 ほかにはどういうところが変わったのかな、と思っていたちょうどその折、「朝日新聞」紙上で、先日(11.03)開かれた「21世紀の日本語」シンポジウムの模様が詳しく報じられていました。
 シンポジウムには、国語学者やコラムニストらに混じって、増井元・岩波書店取締役辞典部長が出席していました。どうも、この催し自体、『広辞苑』の発売にぶつけたのではないかと思われるフシがあります。
 さて、その増井氏が、次のように発言していました。

 増井 日本語は、輸出すること、つまり外に向かって発信することを想定していない言語だ。従来の国語辞書は、日本語を不自由なく使いこなす人のためのもので、助詞の「は」と「が」の使い方の違いのようなことを記述したものはあまりない。外国語と比較してどんな特性があるかを説明していない。外国人や帰国子女向けの日本語教育の場で、そうした辞書が必要だという声を最近よく耳にする。(朝日新聞 1998.11.15 p.17)

 そこへゆくと今度の『広辞苑』はちゃんとしているよ、という趣旨と思われました。そこで、第5版で助詞の「は」を引いてみると、なるほど、たしかに以前よりは充実しているようです。

体言・副詞・形容詞や助詞などを受け、それに関して説明しようとする物事を取りあげて示す。取りあげるのは既に話題となるなど自明な内容で、その点に、事実の描写などで新たな話題を示す「が」との違いがあるとされる。格を表す語ではなく、主格・目的格・補格など種々の格の部分でも使われる。「は」を受けて結ぶ活用語は、余情を込めるなど特別な意味を表す場合を除いて、通常は終止形で結ぶ。(第5版による)

 これは第2版から第4版までは以下のような説明でした。

体言・副詞・形容詞や助詞などを受け、物事を他と区別して取りあげ、その説明を下文に期待させて、下文をもひき立たせる。下文は終止形で終止する。(この助詞は、主格・目的格・補格などの格の区別を示すものではない)(第2〜4版による)

 旧版の「物事を他と区別して取りあげる」というのは、たとえば次のような用法です。
    ・うどん好きだが、そば好きでない。
    ・学校へ行きするが、勉強しない。
 しかし、これらは「は」の用法としては二次的なものというべきですね。ふつうの用法は、たとえば
    ・今日天気がいい。
    ・うちのネコかわいい。
というときの「は」でしょう。「今日」とか「うちのネコ」について、「どうなのか」を説明したいときに使うのですね。これを第5版では「それに関して説明しようとする物事を取りあげて示す。」としているのです。やや記述が進歩しているといえるでしょう。
 ただ、「が」との違いについては、これだけではちょっと分かりにくい感じです。今後の改良を期待したいところです。
 また、「体言・副詞・形容詞や助詞などを受け」とありますが、どうして「動詞」が入っていないのでしょうか。上にも示したように、「学校へ行きするが」のように動詞を受けたり、「きれいでない」のように形容動詞を受けたりすることはあるのです。この点について説明がないのは不審であり、改善してほしいと思います。

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