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98.11.14

東京の方言?「かたす」

 「食器をかたす」というと、片づけることなのですが、全国的には理解されないことばではないでしょうか。『新明解国語辞典』の第4版以降では「東北・関東方言」と書いてあります。しかし、『広辞苑』『大辞林』を含めた多くの辞書では、とくに方言という注記はないようです。
 僕自身は、小学校の国語の教科書で、「東京にも方言がある」という一例として「かたす」を習った記憶があります。その後、耳にすることもあまりなかったのですが、放送でいかりや長介さん(静岡県出身とのこと)、谷山浩子さん(横浜育ち)が使っていたのを印象深く覚えています。
 インターネットのウェブサイトをみると、使っている人はすんなり使っていますが、中には「かたす」が通じなくて困ったという例を挙げていた東京出身の人もありました。新聞などではまず目にしないことばです。
 最近、作家の北村薫氏が小説で使った例にぶつかりました。

 曇天にもかかわらず、今年も大勢のお客さんが来ていた。心配なのはお天気だったけれど、仮装の間は何とか持った。
 ガリバーさん〔注・張りぼて人形〕を取り敢えず体育館の脇にかたしていると、そこでポツリと来た。(北村薫『スキップ』新潮社、1995 p.19)

 北村氏は1949年、埼玉県生まれということなので、自然に使っているのでしょう。ところが、マンガ家の石坂啓さんもエッセイの中で使っています。彼女は1956年名古屋出身ということです。

 たとえば夫婦そろって家を長期あけることになったとしよう。夫婦とも仕事を持ってて普段から家事も分担していたとする。荷づくりしたりガスの元栓を閉めたりとかは一緒にやるかもしれない。そのあと。食器の水を切って片しておくこと、生ゴミを残しておかないこと、生ゴミになりそうなオカズやごはんが残っているときはどうするか、冷蔵庫から冷凍庫に移しておいた方がいいものがあるかどうか、〔下略〕(石坂啓『男嫌い』新潮文庫 p.115)

 石坂啓さんは上京してから覚えたのでしょうか、それとも、地元でも使っていたのでしょうか。名古屋は関東ではなく、東海とか中部とかいう地方に属すると思うので、もし彼女が昔から使っていたならば、「かたす」の範囲は意外に広いのかもしれません。何とも言えませんが、もしそうだとしても、全国共通語というほどではないと思います。
 ちなみに、『日本国語大辞典』によれば、青森県・福島県・茨城県・栃木県・埼玉県・千葉県・神奈川県では使われているようです。


追記 『日本方言大辞典』(小学館)および『日本国語大辞典 第二版』(同)では青森県・茨城県・栃木県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・静岡県となっています。やはり愛知県はありません。(2001.06.05)

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