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98.11.13

述語のない文

 必要あって、中学校の国語教科書をぱらぱら見ています(別に、中学生を教えようというわけではない)。
 日本文法をどう教えているか、いろいろ見ていると、教科書によって微妙に違うのですね。転校を繰り返してる子は、行った学校によって説が変わって、大変だろうな。
 たとえば「文の成分」について見てみます。「成分」というと、僕なんぞはどうしても「アンモニア水21.30ml、l-メントール1.97g……」というような薬の成分を思い浮かべてしまうのですが、そうではなくて、まあ「文を作る材料」、柱とか屋根とか、それにあたるものですね。
 僕が昔習ったところでは、文の成分は「主語・述語・修飾語・接続語・独立語」の5種類でした(東京書籍『新編 新しい国語』1980)。さらに、文節相互の関係として、「並立の関係・補助の関係」というのを挙げてありました。
 この分け方は、まあまあ穏当なのではないかと思います。この会社の教科書は、今でもこのように記述してありまして、

川村君と 田島さんが 遊びに来ました。

という文例までが、20年近く変わっていません。川村君と田島さんも大分年を取ったことでしょう。
 この「川村君と 田島さんが」のような関係を「並立の関係」というのですが、上の例では、並立の関係に立つ文節が合わさって、主語(というか主部)を作っています。こういうことは、述語でもありえます。

・この川は 深くて 広い

というような場合、「深くて」「広い」という文節が並立の関係に立ちつつ述語(というか述部)を作っています。
 ところが、教科書によっては、「深くて」「広い」をそれぞれ「並立語」という文の成分と認め、主語・述語・修飾語・接続語・独立語に肩を並べる地位を与えているのです(教育出版『中学国語』)
 つまり、上の例では「深くて 広い。」は述部ではなくて、「並立語の集まり」ということになるのでしょう。
 「泣いた涙の なつかしさ。」とか「なげたテープの うつくしさ。」とかいう喚体句でもないかぎり、日本語の文には述語(述部)があるのが当然だと思っていたので、ちょっと面食らいました。これはいくら何でもおかしいんじゃないかな。
 小池清治氏は『現代日本語文法入門』(ちくま学芸文庫)の中で、「並立語という文の成分は存在しない」(p.207)と明快に述べていて、僕も共感します。ただ、小池氏が論じているのは「川村君と」「田島さんが」のような場合であって、「深くて」「広い」までを並立語と捉えることは想定していなかったように読めました。

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