HOME主人敬白応接間ことばイラスト秘密部屋記帳所

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ三省堂国語辞典
email:
98.11.12

「ら抜き」チェック法

 またしても「ら抜きことば」の話です。
 何が「ら抜きことば」か、〈知識人〉といわれる人でも案外分かってないらしいことについては、以前書きました。「ら抜き」ではない「振り返れる」という語を、「ら抜きだ」と解釈していたという話でした。
 「見れる」「着れる」は間違いで「見られる」「着られる」がいいのだ、などとよく批判されます。でも、前者が間違いだとして、それがなぜなのか分からないまま、言われたとおりの語形を個別に覚えるしかない人も多いと思います。使い手が直観的に適否を判断できないような、そういう語法は、どうしても滅びてゆく運命にあります。
 中学校の国語の教科書も、「活用形がどうの……」と説明していて、それは正しいのだけど、ちょっと子どもの記憶には残りにくい。明快さに欠けます。

(前略)「着れる」(「着る」は上一段活用)「出れる」(「出る」は下一段活用)「投げれる」(「投げる」は下一段活用)「来れる」(「来る」はカ行変格活用)などと使われることがあるが、本来の言い方では、助動詞の「られる」をつけ、「着られる」「出られる」「投げられる」「来られる」という。(東京書籍『新編 新しい国語 2』1998.02発行 p.252-253)

なお、上一段活用の「見る」や下一段活用の「出る」を可能動詞にした「見れる」「出れる」という言い方も最近聞かれますが、一般的とはいえません。(教育出版『中学国語 2』1998.01発行 p.273)

 教科書によっては言及していない本もありました。それは論外としても、こういう説明だけで「ら抜きことば」をやめる生徒は多くないでしょう。まして、学校を卒業して「何段活用」というのを忘れてしまった人には、なおさらワケが分からないかもしれません。
 文法的に、考えに考えてやっと分かるようでは困るわけです。「ら抜きことば」の勢力拡大を阻もうとする人は、「何段活用のときは、ああで、こうで」と長ったらしく講釈するのはやめたほうがいいですね。それよりも、もっと簡潔に、次のようなスローガン(?)を広めたらどうでしょう。いわく、

「よう」が付くなら「られる」も付く。

 どういうことかというと、「越えよう」のように、「よう」を付けられる動詞は「られる」をつけて「越えられる」と言えるのです。同類を示すと、

見る   見よう   見られる
始める  始めよう  始められる
出かける 出かけよう 出かけられる

のごとくなります。これに対し、「よう」の付かない動詞は「られる」も付かない。

買う  買おう  買える
飛ぶ  飛ぼう  飛べる
話す  話そう  話せる

 ごく、すっきりした説明だと思うのですが、どうでしょう。
 ここで、「どうして、『よう』が付くと、『られる』も付くのか?」と聞かれたならば、その時には、「活用がうんぬん」というより詳しい話を始めればよいのではないでしょうか。


追記 井上文雄『日本語ウォッチング』(岩波新書) p.24ではほかの判別法が紹介されています。いわく

ラ抜きかどうか心配になったら、その言い方の最後の「る」を取り除いて命令形としても使えるかを試せばいい。「走れる」の場合なら、「る」を取り去った「走れ」はまったく当たり前の命令だ。ラ抜きことばでないから使っていい。「走る」は五段動詞なのだ。これに対して、「見れる」の場合だと、「る」を取り去って「見れ」にすると命令形としてはおかしい。だから「見れる」はラ抜きことばによる言い方で、使わない方がいい。おかしなときには「見られる」のように「ら」を入れればよい。「見る」は一段動詞なのだ。

とのことです。語の活用の種類を特定するために、井上氏と僕とで異なる試薬を使っているだけなので、どちらの判別法でもOKだと思います。でも、僕の学生の中には
「私の地元の方言では『見れ』で命令形なので、もうひとつぴんときません」
 と言う人もいました。井上氏もそのような方言をもつ人には役立たないと認めています。その点、僕の方法のほうがちょっといいぞ、とひそかに誇っています。
 「五段動詞」「一段動詞」についてご確認になりたい向きは、中学校の文法書を読み返すだけでも十分でしょう。(2002.03.13)

追記2 2004.01.28、NHK「お元気ですか日本列島」の「気になることば」コーナー、および、同日放送のNHKラジオ第1の「気になることば」で、この判別法を取り上げてもらいました。
 打ち合わせのメールで、担当者の方に説明した文章を一部引用します。
 「一つ告白しますと、この方法にもきわめて小さな「穴」があります。それは、「する」という動詞にだけは使えないということです。「する」に「よう」がつくと「しよう」になりますが、「られる」をつければ「しられる」です。今日「しられる」の語形を使うのは、関東など一部の地域に限られます。全国的な語法ではありません。とはいえ、「する」の場合、共通語では可能形は「できる」が使われますから(例、「勉強する」は「勉強できる」)、「られる」か「れる」かという問題はもともと回避されているわけです。」
 ついでに、この文章のタイトルを「よう←→られる」から改めました。(2004.01.29)

「ひとりごと」目次へ
前へ次へ
きょうのことばメモへ ご感想をお聞かせいただければありがたく存じます。
email:

Copyright(C) Yeemar 1998. All rights reserved.