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98.09.04

エログロナンセンス

 今回はお子達見られません。
 大正から昭和初期にかけての退廃的な風俗を、エログロナンセンスと言ったりします。これは、かなりどぎついことばで、今や、やたらに言うのははばかられるというのが普通の感覚じゃないでしょうか。
 「エロ」を『日本国語大辞典』で引いてみる。「エロチックでいやらしいこと。また、そのもの。卑猥(ひわい)。猥褻(わいせつ)。色情的」とある。どうも上品なことばではない。
 ところが1943年(昭和18年)の『明解国語辞典』では「エロ」は「色気(がある)。」とあり、ちょっとニュアンスが違っています(戦後の改訂版でも一緒)。下品という感じがないんですね。梅垣実『日本外来語の研究』(1943)でも「モダン語」とされています。新鮮さを感じさせることばだったのかもしれない。
 この間も取り上げた淡谷のり子さんは、1931年(昭和6年)にコロムビアレコードで「エロ行進曲」という歌を吹き込んでいます。どんな行進曲かと思う。しかし、当時はこれぐらいは普通だったようで、1930.10には日活で「娘尖端エロ感時代」(木村次郎監督)なる映画が封切られ(むろん成人映画ではないはず)、その主題歌「エロ感時代の歌」が羽衣歌子の歌でビクターから出ています(同11月)。ほかにもコロムビアから1931.03に「エロ・オンパレード」(山田貞子)、1931.06にエノケンこと榎本健一・二村定一の「エロ草紙」、1931.08に天野喜久代の「競艶エロパレード」など、とんでもないタイトルの歌が続々発売されている。
 戦後の新聞でも、「エロ本摘発」などの表現は使われていたと記憶します。このころになると、「猥褻」という意味が強く出ている感じを受けます。ところが、今や、新聞紙上でさえも使うのをはばかっているようです。ことばの喚情的意味が下落した一例といえるでしょう。

 戦前の歌の話が出たので、ついでにおまけを。二村定一・榎本健一コンビが、1932.08に「サイノロ行進曲」(ヒコーキレコード)というのを歌っています。「サイノロ」は「妻鈍」で、妻に甘いことを「サイコロジー」をもじって「サイノロジー」と言った。
 意外に最近まで生きていたことばで、1968年に発表された森村誠一『分水嶺』でも使われています。

彼は内心に屈折する敵意を〓{口+愛}気{おくび}にも出さず、妻{さい}ノロの夫が妻を迎える顔をして立ち上がった。(森村誠一『分水嶺』廣済堂文庫 p.181)

p.s. きょうのNHK「ニュース9」によると、奈良県明日香村の飛鳥池遺跡で、漢字に読みを添え書きした木簡が見つかったとのこと。例えば「羆」の字の下に「彼(ひ)」と記す。また「横」の字の下に「詠(よう)」と小書。

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